薄暗い場所で
「んー…」
あれから数日。彼氏との関係性は相変わらずだった。毎日おはよーとか、おやすみとかのスタンプを送り合う。電話もたまにするし疲弊していなければ2時間ぐらいは通話をする。
「どうなんだう…」
倦怠期なのかとも思うけど、電話にはちゃんと反応してくれる。冗談も言うし、普通に笑い合えている、気がする。
「次、いつ会うの?」
隣にいた和田さんが問いかけてきた。ハッとし、パチパチと瞬きを数回繰り返す。
「あ…、と……。まだ決まってないです」
そうだった。まだ未定なんだった。
そろそろ繁忙期のピークも落ち着いてきたし、話してもいいかもしれない。
退勤後、バスを待つ間にも彼氏にLINEをしてみた。
『今度いつ会えそう?』
『あー…、ごめん。暫く無理そう。遠方に行くことになった』
一文を読んだ私は思考が止まり、危うくバスにも乗り遅れるところだった。
『…え?どういうこと?』
思ったことをそのまま打ち込んだ。整理がつかない。呼吸が浅くなっていることも気付かずに、LINEの言葉を待つしかなかった。
『仕事で遠方に行くことになった』
まるで彼氏が目の前にいるかのように、淡々と通知が来ている。ようやく息苦しさに気付き、呼吸が浅くなっていたことを思い出した。
いつもだったら、ちゃんとラリー形式で返してくれる文章も、今は彼氏からのLINEが多い。整理が付かないまま、溜まっていく文面。現実味がないというのはこういうことをいうのだろうか。今まで理解できていた言葉なはずなのに、全然頭に入ってこない。
『…そうなんだ…』
絞り出すようにしか返事ができない。『どのくらい行くの?』『少なくとも年単位だと思う』その文章に目の前が暗くなっていくのが分かる。
『せっかくだし頑張りたい』
『うん、きっと経験した人にしか分からないこともあるだろうし、頑張ってきて!』
本心のはずなのに、溢れたため息は震えていた。仕事だから仕方ない。今そう言い聞かせないと涙が止まらなくなりそうだ。
『ありがとう!』
彼氏は既に前を向いているんだろうか。寂しいというのはもう遅いのかな。もっと一緒に居たかったし、もっとたくさんの思い出を作りたかった。こんなに脆く終わってしまうんだろうか。
『もし、好きな人が出来たらそっちにいってもいいよ』
私たちの関係性はそんなところまで、希薄になっていたんだろうか。誰にも取られたくないと言っていた彼氏が、今は正反対の言葉を言っている。バスを降りて、駅周辺の静かなところに移動した。
やっぱりもっと早く、色んな気持ちを伝えれば良かった。今更後悔しても遅い。溢れ出した涙が頬を伝う。
他に好きな人ができるとか考えられない。だけど、きっと彼氏はもう前を向いているんだろう。
『…うん』
酸素不足で頭が働いていない。涙を拭うごとに、止めどなく溢れていく。どうすればよかったんだろう。もっと早く、会いたいって伝えれば良かった。もっと早く。
そんな気持ちが拭えないまま、薄暗い夜の中、ただひたすら泣いた。




