栄養補給
「ドリンク入るね」
「ん?3番は?」
「大丈夫、その分速攻で帰る」
「ほんと、相変わらずのワーカーホリック…」
東田さんは呟いて、ドリンクを作っていく。和田さんも私に気付いたようで、少し驚いた表情をしていたが、この状態ではどうしようもないと判断したのだろう。少し眉を下げて、小さく「ありがとう」と呟いた。私は目を細めて、アイコンタクトで答える。
あと3時間。とりあえず今日を乗り切ることだけに集中する。
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「お疲れ様ー…」
「お連れ様です!!」
なんとか定時に上がれそうだ。遅番の人と入れ替わりでバックヤードに入ると、同じ早番で退勤時間も同じはずの東田さんはすでに私服に着替えて鞄を持っていた。あんなにも疲れ切った表情を浮かべていたのに、今の私とは大違いだ。
そういえばこれからデートに行くと行っていた気がする。きっと東田さんのことだ、彼氏のために再び着替えて化粧直しをするのかもしれない。
(…私もそのくらいしたほうがいいのだろうか)
早々とバックヤードを後にした東田さんの面影を眺めながらそんなことを思う。
疲れ切った表情と疲弊で思うように上がらない脚を引きずる。疲弊感を残したまま駅までの無料バスに乗り込んだ。
「はぁぁ……」
ドアが開き1番近くの席に傾れ込むように座った。久しぶりに周りを憚らずにため息を吐く。本当に疲れた。もう何もしたくないし、何の言葉も発したくない。窓にもたれ掛かるようにズルズルと身体を寄せ、ただひたすら前の空間をぼんやりと眺めた。
コツンと頭を当て、無理やりに意識を目覚めさせた。外を見れば私の1番好きなパステルカラーの空が広がっている。いつもであればその景色に少しは癒されるのに、今は何を見ても疲労が蓄積されていくようだった。
(こんな時はー…)
そう思って鞄の中からiPhoneを取り出す。通知を見れば彼氏からLINEが来ていた。
うん、やっぱりわたしの今の栄養補給は彼氏になる。疲れ切った表情で体勢もそのままに、画面を見つめてふふっと笑う。
彼氏からのLINEには見計らったようにお疲れ様というスタンプだけ。でも、それでも私は嬉しくて速攻で返信する。
『ありがとー!今終わった、めっちゃ疲れたー…。でも、LINEで元気出た』
彼氏もすぐに既読になったが、すぐに返事が返ってこない。迷っているのか、照れているのか、忙しいのか。きっとその3つで迷っているはず。安心したのか、疲労が一気に眠気となって押し寄せてきた。少し眠りたいが、いま目を閉じてしまうと確実に電車に乗れなくなる。
ゆっくりとでも瞬きを繰り返し、なんとか意識をギリギリ保つ。霞みそうな視界の中でLINEの通知が来た気がする。
何か、どこか小さな不安を抱えつつ、通知を押した。




