虚無の表情
「で、どうだったんですか?デート」
私が昼休憩の3番でバッグヤードに入ったすぐ、東田さんは後を追いかけるように入ってきて、開口一番にそんなことを言った。
「ん…、普通だよ?」
「普通ってなんですか…」
東田さんはバックヤードにある、ドリンクの補充をいくつか手に取りながら、私の回答では不服だと言うように口を尖らせる。
私はざっくりと昨日のエピソードを話す。静かに聞き終わった東田さんの表情は″無″だった。いつもは喜怒哀楽が豊かで、表情も豊かな子なのに、今は虚無の表情だ。それはそれで珍しい。
「……小学生ですか」
「え?」
虚無の表情からぽつりと溢れた言葉だった。まさかそんな言葉が出てくるとは思ってなかった。
「押し倒すぐらいしたらよかったのに…」
「え?おしたお…」
「東田さん、早く」
虚無の表情から、不服の表情に変わりため息混じりにそう言った。私はというと反応出来ずに固まり、呟く前に勢いよくバックヤードの扉が開き、和田さんが困ったように東田さんを急かした。
「……そんなにかなぁ…」
バタバタと出ていった東田さんと扉がしまった空間を見つめながら、ポツリと呟いた。何となく騒がしさが増している気がする。まだパンも半分しか食べていないけど、もう出よう。
食べかけのパンを袋に戻して口を縛り、鞄の中に入れる。そっとiPhoneを取り出し電源を入れてみたが新着通知は無かった。
「……忙しいのかな」
たぶん、きっとそう。
事前に忙しいと伝えられていた日でもあるし、私もきっと返せない。仕方がない。iPhoneを鞄の中に戻し、バックヤードを出た。




