切実な思い
「今日、新作多くない?」
「朝テレビでやってたらしいですよー」
やっとドリンクに入った私は、再び溜まっている伝票を一瞥しながら東田さんに声を掛けた。いつもなら元気に答えてくれるが、今はさすがにそれどころではないらしく淡々と答える。
「なるほど…」
「いちご3、チョコ1、ミルク2」
「…はい」
和田さんからの注文を聞きつつ、決められた分領のチョコを測りミキサーに入れる、ソースを入れ、氷を入れる、牛乳を取り出しメモリまで入れてミキサーをオンにする。
忙しい時間帯になってくると、ミキサーに材料を入れる係とドリンクの上に乗せるソースとホイップ係を分担する。
「すみませーん!」
物販の方からお客様の声がした。
「私行くね」
「お願いします!ドリンク任せて」
せっかく手を洗って手袋をはめたが、無駄になってしまった。急いで手袋をゴミ箱に入れ、お客様の元へと向かった。
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「東田さん、3番入って」
「……はーい」
あれから、店内はずっと賑わっていた。結局、一度もドリンクに入れないまま休憩を回さなければならない時間になった。
″3番″というのはお昼休憩という隠語になる。
東田さんもさすがに疲れているのか、弱々しくそう答えてすぐさまバックヤードに入っていく。
「和田さん、大丈夫ですか?」
「ちょっと水だけ飲ませて…」
和田さんもずっと声を出した状態だったため、声が掠れ始めていた。
「レジ代わりますね」
こくりと頷き、和田さんも一旦売り場から離れた。ずっと列が続いている。子連れの家族もいるため、子どもが走ったり泣いたりしているため更に騒がしく感じる。
「ご注文お伺いします」
「えー、どうしよう。決められないー」
「じゃあ半分にしよ?」
「んー、どれがいいかなぁ…」
もうどれでもいいから早く決めてほしい。そして周りを見て欲しい。注文済みのドリンクもまだある。物販で見ている人もいつ購入するかわからない。1秒たりとも時間を無駄にはできない。
「これって、量少なめでっていうと料金安くなります?」
あぁ。この後に及んで質問は避けてもらいたい。思ったより長く掛かるんだろうか。
「申し訳ございません。少なめも料金を下げることもできかねます」
「まじかー…、えぇ…」
男性は困ったように頭を掻いた。私がその反応を示したいぐらいだ。内心、ため息を吐きながら最前列のカップルより後のお客様を見る。あぁ、やっぱり。少しずつ苛立ってきているのが分かる。あからさまに不機嫌にしている人や、ため息を溢し、貧乏ゆすりをしている人もいる。
「どうする?」
「んー、どうしよう」
どうやら2回目の審議が始まってしまったらしい。いいから早く決めて欲しい。もうレジに入ってからそれしか思っていない。
バックヤードから和田さんが出てきた。和田さんとアイコンタクトを交わし、和田さんはドリンクを作り始めた。
「じゃあ、他にしよっか」
「うん、そうしよう」
物分かりのよい彼女…、を演じている疑惑はあったがどうやら諦めるらしい。2人は仲良く並んで踵を返して退店していく。思わず放送禁止用語を言いたくなってしまったが、言葉を飲み込んだ。
「大変お待たせしました。ご注文をお伺いします」




