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Chapter 7


 疲労ぬぐえない体にむち打って、課題に授業――


「若宮」

「……」

「若宮ー」

「は、はいっ!?」

「これらが及ぼす影響で、一番近い年代はいつかな?」


 ……どこのことを言っているのだろうか。


 集中しているつもりが、輝羽の頭には全く入っていなかった。

 目が泳ぐ。


「2025」


 後ろからぼそりと、助け船が。


「2025年ですっ」

「正解だ。この2025年を境に、この国の人口は……」


 輝羽はほっと胸をなで下ろして、首だけ後ろを向いた。

 授業中でもフードを被ったままの三浦は、今日は眠らずに頬杖ついて授業を受けていた。


 ――ありがと、三浦くん。

 ――別に。いつもの礼。


 授業が終わっての10分休憩に、カモミールティーやプロテイン入りのカロリーバーをかじる日々。睡眠に良いと言われるものを片っ端から試して。

 土曜は大樹とゲームざんまい。

 日曜は睡眠の質を上げるために、和葉と白雪とで高タンパク質カフェなるところへ行ってきた。



 基本、休日はデートな白雪と一緒というのが新鮮だった。



『ケンカ中なの』

『仲直りしなくてよろしいんですの?』

『いつも向こうから謝ってくるから、それ待ち』


 何気ない会話に、輝羽はむせた。輝羽の頭の中で、その相手が大樹に変換される。

 てっきり、別れたとばかり。

 そうじゃないなら非常によろしくないことぐらい、万年インドアの輝羽にだって分かる。


 ――誰よ、その女!

 ――幼なじみだって!


 腐れ縁も然り。そういった類は、ていの良い口実なわけで。大樹と良好な関係を築けていたら、この手の修羅場に巻き込まれるのは目に見えていた。

 だから、離れてよかった。

 踏ん切りがついた大きな要因だったのに。


 これか。

 これなのか。


『現実と向き合え』というのは、このことだったのか。




    *




「ここで向き合っても意味ないだろ」


 バトルロイヤルな夢の中で悔やめば、ライデンから溜息をもらった。


「青春してんな」

「どこが青春なのっ……修羅場だよ、修羅場になるやつだよっ……」

「その幼なじみに伝えりゃいいだろ」

「伝えたよっ。伝えたんだけどっ……」


 白雪が謝り待ちしていることをメッセージで。

『きうも見てたろ。さよならって、はっきり言われてんの苦笑』という返信が来た。


「……見てた、のか?」

「偶然目撃したっていうか」

「女側に伝えりゃ、なんでアンタが、で一悶着か。面倒だな」


 現状を話しながら〈道〉を探せば、深夜のゴーストタウンに出た。

 石畳とコンクリート、レンガ造りの建物と近代的な高層ビルとが交差し、いたるところで追突している車には血痕が、手のひらの跡のようにも見える。

 割れた窓ガラス、バリケード、そこに蔓延るのは本能のまま動く腐乱死体(ゾンビ)


「リビングデッドだっ!!」


 例のごとく服装が変化する。

 輝羽は、スーツよりもカジュアルな、ジャケットスタイルの博物館スタッフ・エヴァに。ライデンもそのパートナー、博物館の警備員・レオナルドの格好になる。


「レオナルドくんって呼んだほうがいいっ?」

「どっちでもいいから行くぞ」

「もちろん、博物館ルートだよねっ」


 さっきまでの輝羽のどんよりは、どこ吹く風だった壊して行けるのだが、鉄格子となるとそうもいかなくて。

 博物館の地図を手にして、神経を研ぎ澄ませながら進む。リメイク前は基本1人行動。懐かしさと不安が一緒になって輝羽を襲う。

 鉄格子が下りていない、鍵だけがかかった扉をこじ開けて、ショートカットを重ねる。制限時間があるわけではないけれど、ゆっくりしていればライデンが食べられてしまうかもだった。


 最短ルートで管理室へ行けば、そこには先客がいた。この騒動の鎮圧のために送り込まれた特殊部隊の生き残りだが、接触するのは終盤だ。ここじゃない。

 予想外の展開に迷う輝羽に、生き残りが近づいてきた。足取りはしっかりしていてゾンビではなさそうだ。


「……う?」


 声がこもって、聞こえない。

 輝羽がガスマスクに手を伸ばせば、生き残りも気づいたようで自ら取ってくれる。


「大樹っ?」

「輝羽!」


 ゲーム通りだったり、そうじゃなかったり。

 夢に振り回されていた。


「この先、ひとりじゃ進めないだろ? 輝羽がいてよかった」


 先駆けて合流したことによって、スタッフルームに行く必要はなくなるが……。


「さっきまで一緒にいた人がいるのっ。スタッフルームにいるはずだから手伝って!」

「あ、あぁ」

「戦える人は多いほうがいいでしょっ」


 管理室で解除しないと、スタッフルームからは開けることができない。

 見殺しにもしたくなかった。


 大樹を連れて本来の合流地点に向かえば、部屋から銃声が聞こえてくる。

 ロッカーやその辺にある物で窓を塞ぎながら、それでも入ってくるゾンビと対峙するライデンの息は上がっていた。


「遅ぇーよ」

「これでもいろんな扉ぶっ壊してきたんだよっ」

「そっか」

「無事でよかった」

「お互いな」


 ……そっちは? と、ライデンが大樹の存在を認識しかけた時だった。

 スタッフルームの廊下側の壁から、この街をゾンビにした元凶が乱入してくる。

 人の形っぽい、腐った肉片をぼろぼろ落としながら、細胞分裂を繰り返しては、新しい部位が生まれて、また腐る。元がなんだったのか見当もつかない。

 それが全力で襲いかかってくる。

 恐怖でしかなかった。


「まだ出てくるタイミングじゃない!!」

「いいから走れっ!!」

「どこにだ!?」

「下水っ? 中庭ぁっ!?」

「中庭の鍵はっ!?」

「ない!!」

「俺も持ってない!!」

「なら下水!!」


 中庭のほうが広くて逃げ場がある。鍵を壊してでも行きたかったが、そうしている間にやられてしまいかねなかった。

 ハンドガンだけで太刀打ちできる相手ではない。

 下水道に逃げ込むが、元凶はまだ追ってくる。

 気持ちばかりが急かされ、輝羽は下水に足を取られた。排水のための穴に落ち、どこかへ流されてしまう。


 ここはゲーム通りだ。

 最悪の展開だった。

 元凶は待ってくれない。


 ライデンと大樹。輝羽を見捨てたりはしないが、初めまして同士、共闘とは行かなかった。2手に分かれて注意をそらしながら、輝羽が流れ着いているであろう地下の集積場へ、各々で向かう。


 先にたどり着いたのは、ライデンだった。


「しっかりしろっ、レイン!!」


 ぐったりした輝羽に人工呼吸をすれば、げぼっと水を吐き出して息を吹き返す。


「……はっ、はっ……っ」

「生きてんな」

「……あ……がとっ……」


 息が整うまで待っていたいが、寸前まで相手をしていた大樹はこの場から消えていた。先に目が覚めたようだ。

 そうなれば、元凶はライデンに。彼めがけて、結構な高さから落ちてくる。

 肉片が飛び散り、動きが鈍くなる。

 その隙に、ライデンは輝羽を肩に担いで走り出した。


「撃てるようなら撃ってくれ!!」


 本来、その元凶と初めて対峙する連絡通路を抜けると、廃墟ビルのバルコニーに出た。


 ――終着点だ。

 ――助かった。


 そう思ったのもつかの間、輝羽の目が覚める。




 ……やってしまった。




 時計は、

 昼過ぎを指していた。



「根詰めるのも、ほどほどにしなさいよ」


 机に広げたままの課題に、母は体調不良だと学校に連絡してくれていたのだが……。

 悪いことは重なる。


 学校帰りの大樹が、輝羽を訪ねてきた。


「輝羽の高校に行ったら休みだって言われて。大丈夫か?」

「大丈夫、だけど……」


 イヤな予感しかしなかった。


「輝羽と付き合ってることになってるから、話合わせてほしい!! あんな言われ方して別れてないって、わがままにもほどがあるだろっ。付き合いきれねえよっ。だから、お願いっ!!」

「……はぁーーーーーー」

「輝羽~」


 ため息しか出なかった。


「なんで来たの、高校まで」

「リハビリの診察券、忘れてるかもで。学校のほうが近いじゃん?」

「あるのは家なのに?」

「財布の中になかったから、テンパっちゃってさ」

「ちょっと待ってて」


 大樹のコントローラーが入っている袋ごと渡せば、あったようだ。


「サンキュ、輝羽!」


 それじゃ、さっきの話よろしくっ。と、大樹はご機嫌に帰っていった。


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