Chapter 6
リビングデッド一色だった週末からか、ドラゴンハントの夢でなくなる。
舞台は海上。
軍艦のデッキに、雑多に積まれたコンテナ。
サバイバルモードのマップそのものなのに、倒れているのはゾンビでなく人間。血こそ流れていないが、ひたいや心臓を撃ち抜かれていた。
リビングデッドのマップでバトルロイヤルしているような。彼らが使っていた銃が輝羽のそばに転がり、これで応戦、身を守れと本能が警告してくる。
――夢の中で死んだら、どうなる?
頭をかすめる思考は冷静だったが、手も足も震えていた。
コンテナから飛び降りてくる人影に、輝羽は奮い立つ。
「おまえっ……レイン、か?」
ミリタリーチックな男にそう呼ばれ、輝羽はしっかりと彼の顔を確認する。
ちょっとぶっきらぼうで金髪の、今日は双剣ではなく二丁拳銃の――
「――ライデン、くんっ?」
お互いの名を知らないので輝羽もそう呼べば、あのときの青年だと合致して。
「なんで、こんなところに」と、意外そうに言われる。が、それこそお互いさまだ。
夢、じゃないのか。
「いたぞ、2人! 10時の方向!!」
追っ手の弾が、輝羽の腕を掠めた。
ライデンが迎撃する。
あれこれ考えてる余裕はここでもなさそうだ。でも、ドラゴンハントよりリアルで、死を近くに感じる。
「夢で撃たれて現実で死んだって聞いたことねえだろ!! だから、自分のことだけ考えろ!!」
ライデンに手を引かれて、その場から逃げようとするが、陸地に繋がる道なんてない。
ふりほどこうとした手をぐっと握られ、引き寄せられる。
「――俺はおとり」
ライデンは即席の仲間との作戦を相手側に知られないよう、輝羽に耳打ちする。
「羅生ビルに繋がった〈道〉あったろ。ああいうの、ほかのやつらと探してる」
だから大丈夫だって、言われてるような気がした。
ずっとバクバクしていた輝羽の心臓が落ち着きを取り戻してくる。
〈あった〉
ライデンのインカムに通信が入った。
〈船内の貯蔵庫。悪いけど、先に行くから〉
場所さえ分かれば問題ない。
輝羽の手を引いたまま、ライデンは船内へ向かった。
「こっちだ」
彼は近道を行こうとする。閉じたシャッターの上にあるフェンスが破れていて、ショートカットができるのだが、パートナーの肩車があってなので、2人で通れるわけじゃない。
輝羽の足取りが重くなる。
「このゲームも知ってるのか」
「アクション大好きっ、上手いかは別として!」
「いいんじゃねーの。俺も好き」
「なら、普通のルートで行こうよっ」
「レインに肩車してもらおうとか思ってねえんだけど」
「私を肩車したら、ライデンくんひとりじゃんっ。もし、追っ手が――」
その追っ手がやって来る。
ライデンはとっさに輝羽を物陰に追いやり、庇う形で応戦 した。
肩や頬を掠めるが、大事無い。追っ手よりも、頑なな輝羽のほうがやっかいだった。
「ゲームだけど、ゲームじゃねえからっ……足場になるもんあれば、2人で通れるだろうが」
至近距離での説明に、「そうだね」と頷くことしかできず。
最悪、ぶっ壊してでも通るつもりだったライデンの思惑とは裏腹に、シャッターの前にはすでに足場があった。
先行した誰かが置いたビールケース、ありがたく使わせてもらう。が、輝羽は届かない。結局、ライデンに肩車され、ケースは彼が使った。
追っ手も来なく、2人とも無事通過する。
フェンスをくぐってきたライデンの手には、工事現場でよく見る黄色と黒のねじねじのロープが握られていた。それを引っ張ると、ケースの穴をふさぐようにはまる。
「これで使えねえだろ」
後にも先にも、自分たちが最後だと。
そうして、貯蔵庫にたどり着く。
棚の隣には船場のはずなのに洞窟があった。前線基地にあった這うようなものではなく、2人一緒でも通れそうな大きなもので、奥には光が見えている。
「羅生ビルに繋がってるのかなっ」
輝羽はちょっとわくわくしていた。
洞窟を進むと、ビルはビルでも廃墟のバルコニーに出た。
そこから見える景色は、終末の都内のようで。あたりは汚れた大気に覆われ、地盤沈下によって高層ビルは傾いていた。
割れたガラスがキラキラと落ち、遠くのほうで爆音が轟く。
「――終着点だ」
ふーっとその場に座り込んだライデンは「適当にしてれば目が覚める」と告げた。
「やっぱり、夢?」
「他人のな。またこんな目に合いたくなかったら、現実と向き合ってこい」
それ、どういう意味? ――と、聞く前に輝羽の目は覚める。
腕には弾がかすった痕があった。