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Chapter 4


 大樹との再会は、夢にも反映された。


 今作では未実装の『土竜もぐら

 無理やりドラゴンに結びつけていた頃の産物は、すばしっこくて大剣の大敵だった。すぐ土の中に逃げては鋭い爪で地面を割ってくる。

 とっさのガードは弾かれるだけ。

 ふんばりのきかない輝羽が尻餅をつけば、巨大土竜はここぞとばかりに襲ってくる。

 鋭い爪が輝羽をとらえたその瞬間――背後から槍が突き出された。

 土竜は串刺しに、その動きは止まる。


「大丈夫か?」


 そう声をかける大樹に、懐かしさがこみあげてくる。

 昔も、こうして助けてくれた。

 かつてのプレイが再現されているようで。



 ――そして、その手を取る前に目が覚めるのも、そろそろ慣れてきた。



 土竜の攻撃を回避するために走り回った気がする。

 ちょっとお尻がひりひりするが、輝羽の感覚では前回の背中よりは痛くなくて。

 疲労感と筋肉痛がひどい。


「今日は一段と顔色がよろしくありませんわ」

「……て、低血圧かなぁ」


 和葉の開口一番が、体調を気にかけるものになりつつあった。


 時間が経てば無くなっていく疲労感が、今日は消えない。

 あまりの不調っぷりに、「保健室で休んでいなさい」と先生に声をかけられ、輝羽は3限目の途中で教室を抜ける羽目となった。


 リアルな夢視て疲労感ハンパないです――――なんて、誰が信じようか。


「熱は……ないようだね。貧血かな。ちょっと横になっていようか」


 保健室のベッドに寝っ転がると、疲れが肩から抜けていく。

 体が沈み、まぶたが重くなって微睡みにたゆたえば、ブレザーの内ポケットに入れたスマホが、現実に繋ぎ止めようとする。


 メッセージが1件。


 先日、連絡先を交換した大樹からだった。



『俺も予約した。

 きうの話聞いて、むかしみたいに

 一緒にできたらいいなって。だめか?』



 わざわざ確認することでもないのに。


 ふふっと笑みがこぼれたところで、輝羽は睡魔にさらわれる。

 返信はまだ途中だった。



    *



 未だ討伐敵わない、生ける災厄・ヤマタノオロチ。

 古城の瓦礫で作った前線基地から、輝羽はやつの隙を覗う。

 水神ミズチのマントを羽織り、手には大太刀が握られていた。アドバイスと機動性を重視した装備に、これならいけると踏みだそうとした瞬間だった。


「よせって」と、腕を掴まれる。双剣使いの青年に。


「1人でどうこうできる相手じゃない。それに、興奮状態のあれに特攻しかけても大ケガするだけ」


 それを証明するように、青年はボロボロだった。ススや埃で金髪はくすみ、忍装束風の鎖帷子は裂け、オリハルコン製の手甲にはヒビが。


「もしかしてっ……」

「俺以外、全滅」


 残り3つの頭が吼え、空気が振動する。

 前線基地は揺れ、細かい瓦礫が落ちてきた。


「ここもやばいか。撤退するぞ」

「ど、どこにっ」


 揺れがひどくなってくる。

 前線基地に向かって、ヤマタノオロチが移動を開始したようだ。


「ちょっと待ってろ」


 深呼吸でもしていろと輝羽を待機させて、青年は瓦礫をよじ登っていく。ヤマタノオロチが暴れまくってできた新たな道だった。

 隣接する城塞へ飛び移り、ギミックを作動させれば、大きな岩が空にうち上がる。

 岩は――――ヤマタノオロチの頭を1つ潰した。

 やつの動きが止まる。


「行くぞ」


 前線基地の奥。板に布を敷いただけの、粗悪な寝床のそばに、人ひとりが通れそうな穴があった。

 どこに繋がっているのかは分からない。

 でも、躊躇している時間はなさそうだ。怒り狂ったやつの咆哮が耳をつんざいた。



 青年のあとを這うと、別世界が広がる。


羅生らしょう……ビル?」


 通気口から顔を出すと、輝羽はその内装に思わず呟いた。

 よく分からない機械と妖しげな薬品、円柱型の培養器には小さな肉の塊が浮かぶ――――輝羽が小学校高学年の頃にやっていた、RPG・Last(ラスト) Locus(ローカス)(通称・LL(えるえる))に出てくる敵の本拠地だった。

 警備会社を装って、人体実験の研究施設でもある高層ビルは最上階にいる仲間を助けに行く中盤あたりのストーリーだ。カードキーのクラスを上げるため、上に行ったり下に行ったり、同じような部屋がいくつもあったりで、すごく迷った思い出がある。


 Lockと赤く表示されている扉は近未来感満載で、輝羽のテンションは爆あがり。

 どかっと床に座り込む青年は、ドラゴンハントの装備ではなくスーツ姿で、白いカッターシャツから血が滲んでいた。

 所変わればのようだ。

 輝羽も、全身黒ずくめの袖のないぴっちり素材のタートルネックに、チノパン、ブーツ、上下にプロテクターをつけた警備兵の姿に。

 自分の格好に登場人物を重ねたくなる衝動を抑えて、この部屋ならと思い出をたどる。


 デスクの引き出しに、回復剤があったはずだ。

 ゲームよりも細やかなデスクまわりをあさる。


 おしゃれな小ビンに入った液体が、そう。

 しかし、これをどう使う?

 傷口に直にふりかけていいもの……なんだろうか。


 このあたり、やけにリアルだった。

 青年の前で▽使う、というコマンドでも出るのか。最近のLLは小ビンを握りつぶして使っていたけれど……。


 迷った末、輝羽はティッシュも。それにしみこませて、青年の患部に触れた。


「っ……斬新な、使い方だな……。消毒液じゃねえんだぞ」

「効いてるっぽいから、結果オーライってことで」


 身につけているものは変わっても、ケガは帳消しにならないようだ。


「MP回復するやつもあるけど……」

「俺がライデンで、おまえがレインだったら、どっちも魔法使えなかったろ」


 LLの登場人物の名に、輝羽は目を輝かせる。


「LL知ってるのっ!?」

「まあ。よくやってたし」

「私も! 2人とも魔法使えなかったから、ほとんどレベル上げしてなくて、すごく大変だったもん、ここ!!」


 ほぼ一息で語る思い出に、青年はきょとん。


「……この2人、ここの元社員だろ? ドローンなり、セキュリティなり、いじれば追撃してくれる」

「うっそ!!」


 と、驚いたタイミングで、輝羽はぱちりと目が覚めた。



 いつもの〝リアルな夢〟とは、またちょっと違う。

 青年とのやりとりが、ふつうに会話しているようだった。


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