Chapter 2
体が痛くたって、甘いものは欠かさない。
和葉と一緒にコンビニに立ち寄れば、彼女はあまり良い顔をしなかった。
「最近、こういったお店ばかりですわね」
1年の頃は休日ともなればニューオープンのお店に行っていたのだけども。
「和葉ちゃん、コンビニスイーツなめてちゃダメだよー」
――――ゲームを買うために節約している。なんて言えなかった。
でも、あなどれないのは本当。
油断してたら数日でなくなってしまう、コンビニの商品はSNSにはうってつけで、そういうものはだいたい美味しい。
「シェアしやすいように切れ目が入っていますわ。プチシューは存じ上げていましたけど、スフレまであるなんて……」
和葉が手にしているバウムクーヘンを、輝羽がさらった。
「今日の朝スイーツは、シェアメインにしようと思いますっ。和葉ちゃんと一緒に食べたいな!」
「よろしいのっ?」
「うんっ」
教室に着くや、三浦に配慮して、和葉の机にランチクロスを敷かせてもらう。
バウムクーヘンとプチスフレ、ふわもち食感のロールケーキを無造作に置き、ビニールの包装から出したフォークを添えて、いろんな角度から撮りまくって、いただきます。
「幸せっ……」
彼は今日も机に突っ伏していた。
「……朝から甘すぎなんだけど」
甘ったるいにおいに、登校してきた白雪はうぷっ、と不快感を露わにする。
「頭、活性化しそうじゃない?」
いる? っと、一口大のバアムを彼女に薦めるが、首を横に振られてしまった。
「においだけでお腹いっぱい」と、終始ツンツンしているが、誰かに呼び出されるまで今日のテーマを褒めてくれる白雪に悪い気はしない。
「いいんじゃない、シェアスイーツ。どこぞのカップルとかがこれ見よがしにあげてきそうで」
「白雪ちゃん、言い方っ」
「そういうもんでしょ、SNSって」
そういうところ、白雪はドライだ。
「でしたら、今度の土曜日3人でシェアスイーツしません?」
和葉は褒めたところだけを取り上げて、白雪を巻き込んだ。
ケーキバイキングのチケットを取り出す。
「それこそ好きなもの同士で行ってくればいいでしょ。アタシはパス。デートだもん」
チケットはちゃんと3枚ある。
「そう、ですか……」
「今度ってのが急すぎるのっ」
輝羽は全然OKだったが、白雪はそうもいかず。
「今日の放課後、駅前にできたハニーレモネード店なら行ってあげてもいいっっ」
シェアでもなんでもないが、3人でなにかすることに意義を見出し始め、輝羽も和葉も目が輝く。
「行こうっ、白雪ちゃん!!」
「私も行ってみたいと思っていましたの、疲労回復を求めて!」
「「疲労、回復……?」」
輝羽と白雪の声が揃った。
「輝羽ちゃん、疲れがとれないみたいで……」
「わ、私っ!?」
「アンタ、甘いもん取りすぎなんじゃない?」
白雪は触れなかった青あざと背中の痛みを、輝羽は言及することになった。
*
「先生、もう1枚ください」
放課後のわくわくを胸に、輝羽はお昼休みまでの4回、そう唱えた。
ホームルームが終わると保健室に行く三浦のために、と言うのは恩着せがましいけれど。彼が早退したという話は聞かない。
だから、授業が終わるたびプリントを貰って、それを空いた時間に保健室に持っていく。先生や本人から頼まれたわけでも、学級委員長という立場でもなんでもないのだけれども。
一方的に三浦に対して感謝をしている、完全な自己満足だ。
今日は○○に告白された、昼休みに○○から呼び出された、等の自己申告は聞かずもがな。三浦がふざけんなと教室を出ていったあの日も、入れ替わるように新入生たちがやってきて。ふんふんと聞くまでが朝の日常だったのが、和葉の席から対角線状に離れていても白雪の声はよく通るからか、あまり話題にしなくなる。
その結果が、朝の会話で、放課後に遊びに行く約束までできて。
少なからず彼のおかげだと、喜びしかなかった。
「おい」
お昼休みが終わる頃、保健室から戻ってきた三浦は輝羽に声をかけた。
「……助かった」と、プリントと一緒に4限目までのノートも保健室の先生に渡していて、それが返ってくる。
なぜかプリントも1枚、返却されて。
「これ、おまえのだろ?」
「……?」
課題として貰ったプリントは、来週までにやっておけばよくって、まだ名前も記入していなかったけど、も?
輝羽の耳元で三浦がぼそっと呟いた。
「――この装備なら、火耐性上げたほうがいい」
余白の部分に書き連ねた、超個人的なメモ書きに理解を示してくる。
あうおあ、おあう、と言葉にならない返事をする輝羽に、ちょっとだけ口角を上げる三浦はそれ以上なにも言わず机に突っ伏した。