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――集団一斉卒倒事件――
本件につきましては、非常にぽかぽかした気候、午前中の過度な運動等による、睡眠を要する体力の回復を優先した、様々な要因が偶然重なりまくって引き起こされたもの、と結論づける。
篠岡 義行
「よくこれで納得したな」
青空の下、人気のない屋上でタバコを吹かす篠岡は、高荒に1枚の書類を見せた。
「こじつけでもなんでも、そうなった経緯が知りたいんだよ」
「にしてもだろ」
国に提出するものとは思えない文面に、高荒は鼻で笑った。
「明日は我が身だからな」
「――安直な夢、視てんのな」
彼もまた、夢に願望を見いだせない、篠岡の仮説に賛同したうちのひとりだった。
年の差はなにをしたって埋められない。
当時14歳だった高荒は、10離れた女性との間に子どもを授かり、彼女は1人で育てることを選んだ。
まだ子どもだった高荒はなにもできず。
夢の中でも一緒だ。
高校に進学せず働く道を選び、そして18で結婚する。
でも、その頃にはもういないのだ。
彼女は、管理のあまい自動車から娘を守るために命を落とした。
たとえ生きている夢を視たとしても、なにもできなかった自分がいることで、ただの夢になる。
「ラインは20歳前後で確定だな。今回眠ったのは生徒だけ。砂を吐く兆候もない」
だからといって、奇病の治療にはなんの役にもたたない情報だ。
「カミサマからの戒めなのかねえ」
そうぼやく篠岡に、高荒はどこまでも鼻で笑う。
「努力が伴う現実にしなさいって?」
「あの女の子、4等分にする気か?」
「できねえから現実なんだよ」
天に向かって悪態をつくふたりの願望は、実に単純だ。
――大切な人を拐ったカミサマに逢いたい。
今か今かと待ちわびる彼らもまた、夢を視ることはないのだろう。