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Chapter 19



「乗り込むとな!?」

「お嬢さん、我々の精鋭が全滅したことは知っているね? ここを守るだけで精一杯なんだ。隊は……」

「乗り込みはしますけど、戦いません。ちょっと話してきます」


 ゲームのような世界観であって、ゲームではない。

 これまでの経験を踏まえて、▽はなす、で解決できないものかと、輝羽は目論んだ。


 何はともあれ、まず逢わなければ。

 前線基地から装備品を提供してもらうも、白雪の時と同様、大剣は重い。引き続きトモが同行してくれるが、彼に無双させるのは話し合いが遠のくだけで。


 ▽できるだけ すがたをみせるな。の、作戦をとることにした。



「市街地もステルスするの……?」



 中心部にそびえ立つ、やつの居城目指して、こそこそ進む。

 幸いなことか、そうでないのか。新種の機械は〈道〉を塞ぐことに特化しているらしく、旧式となった警備ロボットを従えて、路地を行ったり来たり。


「小型のEMP投げて突っ切ろうよ」

「それは万が一囲まれたとき用っ」


 隠密行動が苦手なトモをたびたび引き留めて、超高層ビルに突入した。

 先は長いのだ。

 近代的な外装とは裏腹に、中は結界や魔法陣といったファンタジー色が強くて、エレベーターなんてものはない。

 青い炎が不気味に揺れる。踏みしめた絨毯が気持ち悪い。石造りの廊下の両脇に点在する甲冑は、今にも動き出しそうで、構えている武器には血痕が付着していた。

 しかし、輝羽だからか、罠らしい罠も作動せず、警備ロボットもいない。


 なにもエンカウントしない状態で、何層にも封印された大きな扉を開けるために城内を練り歩けば、どんどん地下へ。


 じめじめした地下牢に出た。

 人の気配がする。

 暗がりに明かりを照らせば、壁から伸びる鎖に拘束された先行部隊の人たちがいた。皆、手酷くやられて。

 最奥の独房にいる隊員はとくにだった。磔にされ、脱がされた上半身にはムチで叩かれた痕がくっきりと。自害させないように猿ぐつわを噛まされているのは……


「ライデンくんっ!!」


 たまらず叫ぶ輝羽の声に、鈍い金髪が揺れる。

 南京錠だったほかと違って、ここだけ厳重にロックされていた。鍵なのか、術なのか。鉄格子に触れるだけでも痺れてくる。

 それでも諦めない輝羽に、トモは軍刀を抜いた。


「下がって!!」


 大胆に、鉄格子をくの字に斬る。


「レインっ……なんで、来たっ……」

「白雪ちゃん救出と、ま、魔王サマ説と――っ!」


 拘束を解かれたライデンは、輝羽をトモから守るように抱き寄せた。が、当然の反応だ。


「僕の前でいちゃつくとか、相変わらずいい度胸してるよね」

「てめえがやったことっ……忘れてねえからなっ……」


 輝羽を思うあまり暴走したトモが、ライデンを陥れようとした。

 和解もクソもない。

 一触即発。

 ふたりの関係性は、本来そうだ。


 ――なら、あのライデンくんは?


 輝羽の中で再び浮上しかける願望説……は、半裸のライデンによって中断される。


「っ……」


 苦しそうな息遣いと直接触れる肌感に、ドキドキが止まらない。


「これでチャラにしてとは言わないけど、今の敵はおまえじゃないんだ」


 そんな、いつまでも輝羽にくっついているライデンを離すべく、トモは回復薬を振りまいた。

 しかし、やはり……なのか。

 完治には至らず。

 鞭打ちされた痕がくっきりと残ったまま、彼に対する魔王サマの私怨が見て取れる。


「大人しく部隊を連れて撤退するんだな」

「俺も行く」

「輝羽ちゃんに支えてもらわないと歩けないやつはいらない」と言いつつも、トモは自分の上着をライデンに渡した。


 あくまで話し合いだから、と隊長(ライデン)に続こうとする隊員を撤退させて、3人で地下牢からまた下る。

 地下水路を想像していると、居城に踏み入れた最初の光景に面食らった。


「……親切設計」と、輝羽は思わずぼそり。


 大きな扉の封印も解かれ、その先には長い廊下が延びていた。


「お姫様って、どう捕まってるのかな」

「どう?」


 隣を歩くトモが首を傾げた。


「おっきな鳥かごみたいなのに入れられてるとか、はなれの部屋に閉じこめられてるとか。人形にされていて、魔王を倒さないと元に戻らないとか」

「輝羽ちゃん、想像力豊かだね」

「……げ、ゲーム」

「げえむ?」

「テレビゲーム。よ、よくやってて。囚われのお姫様のセオリーといいますか……」


「なるほど。だから、こーいうのに物怖じしないんだね」と、納得した様子のトモは、謝ろうとする輝羽に頭を下げた。


「ごめんは、僕のほうだよ。意外って思っちゃったから」

「か、和葉ちゃんっっ」

「トモだってば」


 話がひと段落ついたところで、ライデンがお姫様の現状を伝えた。


「操られてんぞ、あのお姫様」


 緊張感が走った。


「強い上に、やつを叩こうとしたら盾になりやがる。こっちから手ぇ出せなくて、完敗」

「策士っていうか」


「陰湿だよね」と、トモがばっさり。


「無理もないんだろうけどさ。ケガして除隊を余儀なくされて、それを同期たちがバカにして。先行部隊には元・警護隊の人間もいたから、あのときよくもーが爆発したんだろうね」


 そうして、幾多の夢が錯綜する世界を混乱に導いた。

 悪魔の囁きに耳を傾けた、砂になりえるかもしれない幼なじみをなんとしてでも止めなければ。本人はおろか、皆がこの願望に囚われ続けることになる。




 長い廊下の果て。

 豪華な装飾がされた、いかにもな扉の先の謁見の間にやつはいた。

 黒騎士風の装備に身を包んだ幼なじみが、ミリタリーワンピース姿のシラユキをそばに置いて、玉座に立て膝ついて座っている。


「――大樹っ!!」


 しかし反応したのはシラユキで、輝羽たちに襲いかかってきた。

 すかさずライデンが間に入り、体術に長けている彼女の両手首を掴んだ。


「いい加減、目ぇ覚ませッ」

「…………」

「悔しくねえのかっ。おまえとレイン、天秤にかけるようなやつに好き勝手さ――がッ!!」


 光の灯らない目をしたシラユキの、容赦ない蹴りがライデンの鳩尾に入った。

 それでも彼女を離さない。

 他人を攻撃するための護身術ではないのだと。

 わずかに表れる抵抗心を、トモも汲んだ。

「もう少しの辛抱だよっ」と、羽交い締めにする。


 その間に、輝羽は大樹の前に立った。


「戦いに来たわけじゃないからっ」

「あんな2人連れて、よく言うよ」


 大樹が手をかざす。

 すると、シラユキが拘束から逃れようと暴れ始めた。


「やめてよ、大樹っ。白雪ちゃんにあんなことさせないでっ!!」

「……」

「ねえ、大樹っ!!」


 玉座から立ち上がる大樹は、輝羽に迫った。


「――やめたら、輝羽はどうすんの?」

「わ、たし?」

「輝羽が俺のそばにいてくれるの?」

「それ、はっ……!!」


 まただ。

 輝羽の知らない大樹が、腕を引く。

 玉座に座らされ、あごを掴まれて。睡魔を味方につけた彼に口をふさがれる。舌が割り入れられ、なぞられ、絡ませられ、一方的なキスから逃げられない。

 身近にいたはずなのに、どんどん離れていく。


「だいっ……」


 息継ぎのタイミングで喋ろうとすれば、リップ音が鳴った。羞恥心に口をつぐもうとすれば、大樹はそこに噛みつくようにキスをしてきて、服の中に手を入れてきた。


 その瞬間、謁見の間のいたるところから爆発が起こる。


 天井から降り注ぐオブジェと爆音に、大樹の注意がそれた。

 白煙が視界を0にする。


「――こっちだ」



 それに乗じて、輝羽の手を引くのはライデンだった。



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