Chapter 17-1
未来永劫枯渇することのない魔力を科学に応用することで、人々の暮らしは豊かになった。
扉の開閉や照明のオンオフ、遠方との意志疎通など、なにをするにも手をかざせば大抵のことができるようになる。
すべては各々に宿る魔力があるからできること。
なのに、より良い暮らしを求めて、それを給仕ロボットに移植する。
なにもできなくなった人々が、意思が芽生えた機械を制御できるはずもなく、魔力を取り戻そうとしても、後の祭りだった。
人を排除していく機械との争いは、人々から魔力を取り戻すという目的が風化されても続いていく。
太陽から降り注ぐ光を遮断して、闇に閉ざされた――そんなLLの3作目を彷彿とさせる世界に足を踏み入れた輝羽は、自分の夢かとちょっとだけ思った。
数十年前に棄てられた主人公たちの近未来な故郷に、不謹慎ながらわくわくしていると、このあたりで交戦している兵士に止められる。
「その先は危険です」
左肩だけひらひらさせた軍服をきっちり着こなすのは、あのトモだった。
詰襟に隠れて分からないが、その下には輝羽が付けた傷跡があるはずだ。
他人の空似、ただの過剰反応――では片付かない洗練さが彼にもある。
「どうか、こちらに。我々の前線基地に案内します」
身構える輝羽に、トモらしき青年は淡々と対応するだけで、なんの反応も示さず。彼ひとりではなかったので、大人しく地下にあるという前線基地に案内されることにした。
しかし、やっぱりと言っていいのか、そこにライデンの姿はない。
「あの、ここに金髪の人いませんか? 私と同じ年ぐらいで、あんまり表情豊かじゃなくて、口数も多いほうじゃないんですけど……」
それとなく聞いてまわるが、誰も知らない、と。
〝いない〟ではなく、〝知らない〟のならば、知っている人を求めて、輝羽は根気よく続けた。
そして、
「……まわりの連中が言うわけないって」
どことなく悠人の友人に似ている兵士ふたりが、輝羽を物陰に引っ張って、その事情を教えてくれる。
「キミの探してるそいつ、道がどうとかで一般人危険地帯に誘い込んでるレジスタンスに成り下がった人でさ」
「〈道〉!」
「やっぱり知ってるかぁ……この世界から解き放ってくれるってやつ。途中で怖じ気付いたり、諦めたりする人、何人も見てきたよ。保護もしたけど、ほとんどが機械の餌食になった。キミも死にたいの?」
壁ドンするふたりから、回答次第では拘束も辞さない雰囲気が漂ってくる。
輝羽はただ――――
「あ、逢いたいのっ」
口にした本音は想像以上に恥ずかしくて、身体が一気に熱くなった。
「へえ」
「安否確認っていうかっ」
「うんうん」
両サイドのにやにやが止まらない。
自分でも分かる、きっと真っ赤だ。
「そこ、なにをしてる」
「やべっ」
端から見れば不審者極まりない彼らの背後に、トモ似の青年が青筋立てて現れた。
ぎこちなく振り向く、ふたりの動きは硬い。
「ちょーっと恋バナしてただけじゃーん。近衛の顔、こーわーい」
「場所を考えろ」
「いかがわしいことしてそうって?」
「そうだ」
「あーながち間違いじゃないかも」
「……なんだと?」
「この子、どーしてもレジスタンスのあいつに逢いたいんだって」
と、輝羽の肩を抱き、
「ひとりで市街地の拠点に行くぐらいなら、ここで骨抜きにしちゃえってね」
もうひとりが顎を掴んで、近衛も交ざる? と、煽った。というのも、ふたりはただ怒られるならと、この状況を逆手にとって、トモ似の青年・近衛から協力を仰ぐことにしたのだ。
輝羽が行きたくないとなればそれでいいし、近衛が輝羽についていくなら、これほど頼りになる人物はいない。
「――おまえら」
ぶつん、と堪忍袋の緒が切れた音は幻聴か。
結局、レジスタンスの居場所を教えてしまった彼らは、こっぴどく叱られることを回避できなかった。