Chapter 13.5
「起きてよっ……大樹っ……」と、めちゃくちゃ苦しそうな声に、大樹の兄・滋樹の足が止まる。
かわいらしいシューズに、弟が彼女でも連れ込んでいるのだろうと、再度外出しようとした矢先のことだった。
「輝羽、ちゃん?」
「お、お久しぶりですっ……。おじゃまして、ますっ……」
下だけ縁取ったメガネに、短髪で明るすぎない茶髪の滋樹は、輝羽が知っている頃よりずっと大人の人になっていた。
ただ、弟に対してちょっと厳しいのは健在で。大樹を足蹴にし、輝羽をリビングに。おかまいもしない弟のかわりに、滋樹はお茶を出す。
「あいつ、最近メシの時でも寝落ちするぐらい睡眠足りてなくてね」
「おかげで助かりました……のかな」
尻すぼみになりながら首を傾げる輝羽に、滋樹は大きくなったなあ、としみじみ。
「あんなんでもいっちょまえに悩んでるみたいでさ。サッカーが上手いのは努力の賜物なんだろうけど、あいつはもともとチームプレイが得意なほうじゃないし」
始めた理由も、好きな子に振り向いてもらいたかったから、で。
「名門校のストライカーっていうポジションだから許されてた部分も、靱帯損傷で選手生命が絶たれたのも同然だからね」
「……骨折、じゃないんですか?」
「断裂寸前だったって聞いてるよ。だからって、輝羽ちゃんになにしてもいい、にはならないけど」
「滋樹さん、大樹に辛口すぎません?」
「大樹はお調子者だからね」と、終始穏やかな滋樹はコーヒーをひとくち。
アクティブな大樹と正反対な兄は、7つ離れているのもあって、輝羽たちの小さい頃を鮮明に覚えていた。ゲームで輝羽にぼっこぼこにやられて、はんべそかいていた弟が懐かしい。
――輝羽ちゃんとケンカしたのか?
――……。
ある日、ぱたりと見なくなって。
ひとりで下校する輝羽ちゃんに声をかければ、
――もう、あきちゃった、からっ……
涙目になりながら、必死に、自分に言い聞かせるように。
――みんなでやるのに飽きちゃったんだよね。それなら、俺のお気に入り、あげる。
ひとりでできるRPGを渡して、後日父親と共に返しに来た。
――しげにぃのお気に入り、だからっ。でもおもしろいから、お父さんが買ってくれるって!
ふさぎ込んでいた娘を気にかけてくれてありがとう、の言葉までもらって。
いろんなゲームをやりたいがために近づいてきたクラスメイトを選んだ弟が、ただただ腹立たしかった。
そして、それが分かった頃には、近づくことすらままならなくなっていたようで、輝羽のSNSをしきりにチェックするように。
そのあげくが、一方的に迫ってからの寝落ち。
「あいつには異性間の友情なんて無理だろうから。輝羽ちゃんもほいほい2人きりになっちゃダメだよ」
どこまでも阿呆な弟だと、滋樹は輝羽に釘を刺した。