Chapter 12
誤解が解け、晴れ晴れとした気持ちで5月の連休に入った。
1日目はがっつりドラゴンハントを。装備の見直しや、強化できる限界まで鍛えて、最終調整をして。
翌日、悠人と禁足地へ向かう。
悠人はメインで使っていた双剣をやめ、銃に転向していた。輝羽も大剣に戻してガード性能を高め、いざというときには盾になれるような装備に見直して、ディフェンス役に。
最初は酒樽を使用して、動きを鈍らせてからの一刀両断。
体力が少なくなればなるほど、ヤマタノオロチは火を噴く。本体を狙う作戦で挑んだとき、禁足地は炎に飲まれた。
それをふまえての、斬首優先。首を落とせば落とすほど、怒る時間が長くなり酒樽の効果はなくなるが、終盤の立ち振る舞いは楽になる。
あくまで比較的、だが。
『残り――03:00』
あたりは火の海だ。
何十回と見た光景だが、ヤマタノオロチの頭はあと2つ。
輝羽も悠人もボロボロだった。
回復剤もない。
やつの怒りは頂点だった。
炎が青くなっていく。
あと、もう少しなのに。
――ちょっと待ってろ。
最初の頃の夢を思い出す。
ライデンがやつの動きを止めるために使った、あの装置。
炎に焼かれる覚悟で、輝羽はそこに向かった。
悠人がクラッカーで引きつけてくれる。
城壁を上り、走る。
走って、走って、走りきって。
今にも崩れそうな投石機のスイッチを押した。
大きな岩が孤を描き、頭を1つ潰す。が、最後の1頭が輝羽めがけて火の玉を吐いてくる。
とっさの回避に、起きあがるモーションがもどかしい。
もう1分もなかった。
悠人が爆発性の弾を連射する。反動特大の、渾身の銃弾が首にすべて命中すれば、追加の爆発にやつがひるんだ。
輝羽も追撃する。
残り、30秒。
溜めて、
――25秒
溜めて、
――20秒
振りかぶる。
――15秒
一刀両断。
首と頭が、完全に離れた。
〝討伐完了〟
残り、7秒だった。
ほぼ奇跡だ。
また、はないかもしれない。
うまくいったことが、全部重なってのクリアだった。
あまりの嬉しさに、お祝いしましょう、と輝羽は悠人を呼び出した。
輝羽の、お気に入りの和カフェで待ち合わせて、窓際のカウンター席に肩を並べて座る頃には、恥ずかしさがこみ上げていた。
「そ、それじゃ改めまして……」
「おめでとー」
「おめでとうございますっ……」
相手の好みも聞かずに、一方的に場所を決めてしまったことも後悔していた。
「全然。こうやって喜び合えんのって、良くない?」
「良くなくなくないですっ!!」
「どっちだ、それ」と、笑う悠人は笑い方と髪色以外は本当にライデンだった。
「でもまあ、まさか延期するなんてな」
悠人の白玉3種盛りと、輝羽のきまぐれ抹茶づくしが揃ったところで、新作の話題に。連休明けだった発売日は、6月末までおあずけとなってしまった。
「発売日に間に合うよう駆け抜けたら、総出でぶっ倒れました、でしたっけ。なかなか斬新なお知らせでしたよね」
「大人の事情ってやつなんだろうな」
「替わりに追加された体験版のクエスト、しました?」
「新武器縛りのやつだろ。がっつりサポート系の武器で、どう戦えってんだ」
新武器・オオヌサは祈祷がメインで、そのもの自体で殴っても、ほぼダメージ0。加工しだいで踊り子みたいなスタイルで戦えるらしいのだが、体験版ではそこまでできず。
「さらに延期ってならなきゃいいけど」
大学受験を控えている悠人は、今以上にできなくなるかもしれないのだ。白玉をコロコロ転がしながら、自分の不甲斐なさを笑った。
「……ぱぱっと覚えられたらな」
彼の友人たちは授業で事足りるらしく、中には映像記憶能力に長けている人がいるとか、いないとか。
「悠人先輩……」
「ま、そこはしょうがねえよ。周りが特殊なやつばっかだし」
溶けかけてんぞ、と悠人は話題を逸らした。
輝羽のきまぐれ抹茶づくしの抹茶アイスが、ひとまわり小さくなっていた。
ゲームの話に夢中で、まったく手をつけていなかった。
「苦くねえの?」
「甘さ控えめですけど、苦くは」
「ん」と、悠人は口を開ける。
……あーんのおねだりが分からないほど、輝羽は鈍くない。でも、慣れない行為に赤面することしかできなくて。「わ、悪い」と悠人もぽっと赤くなる。
「俺、弟いてさ。口開けたら、だいたいくれんの。ゲームしてたら両手ふさがるし、菓子食った手でコントローラー触んなって」
「仲良いんですねっ」
「……まあ」
「私、一人っ子だから、そういうの憧れますっ」
そういうのをどう捉えたのか、悠人はきな粉の白玉を、輝羽にあーんする。
「弟にしてもらうのが?」
「きょ、兄弟がいることにですよっ。一緒にゲームできるじゃないですかっ」
輝羽は、お気持ちだけいただきます、と顔を真っ赤にさせ、あーんを断った。
はたから見れば、付き合いたてのカップルのよう。
嫉妬にかられる人影があることに、2人は気づいていなかった。