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Chapter 11



 目覚めた輝羽に待ち受けていたものは、ひどい靴擦れだった。

 足の甲、くるぶし、踵。

 夢で負傷したところのオンパレードだった。

 いたるところに絆創膏を貼って、登校後また張り替えて。履き慣れたローファーですら患部を抉ってくる。


 血と膿だらけの絆創膏に、和葉はぎょっとした。


「どうしましたの、それ」

「慣れない靴履いちゃって……」


 昨日は普通に平日で、いつ、そんな時間があったのか。

 そこの追求をしないで足の心配をする和葉は、保健室から救急箱を借りてきてくれた。


「軟膏を塗りますわね」

「自分でやるよっ?」

「輝羽ちゃんは止血をお願いしますわ」


 包帯でぐるぐる巻きにされる輝羽の足。

 どこかデジャブに思えてくるのは、輝羽だけではなかった。



    *



 お昼休みの呼び出しを切り上げて、白雪はもやもやを晴らしに保健室へ向かった。


 ――輝羽ちゃんなら、いつもの、ですわよ。


 昼食を取った後、彼女は教室にいない。

 和葉に聞けば、面白くなさそうに答えるところまで案の定で。サボり魔に輝羽をとられてご立腹だった。

 その本人は和葉の心中知るよしもなく、保健室のソファーに横たわって眠っていた。

 爆睡する輝羽のすぐそばには三浦が、輝羽のノート片手に、彼女を起こそうとしていて。そこに出くわした白雪に気づいて保健室を出て行こうとする。

 白雪は声を潜めつつ、すれ違う三浦を止めた。


「ちょっと、それ輝羽のでしょっ」


 おまえには関係ない、もしくはシカトされる――かと思えば、三浦はじっと白雪を見つめてきた。


 ……と言っても、この男、フードを張り付けているんじゃないかってぐらい目深に被っているから、目は合わないのだけれど。

 輝羽は知っているのだろうか。

 このフードの下には、おそらく悠人と同じ顔があることを。


「借りてる」

「か、勝手にじゃないでしょうねっ」

「了承済み。起こして若宮に聞いてみろよ」


 そう言って、三浦は今度こそ保健室を出ていった。

 プリントだけではなくノートまで貸していた輝羽に、白雪はますます彼女のことが分からなくなる。

 でも、集団で陰口を叩くようなやつらとは正反対な子で、姉御肌でも八方美人でもない。

 三浦に弱みでも握られているのかと、彼の素行から想像するが――――夢の中の彼らとダブって、そうは思えなかった。


 まっすぐ向き合ってみたい。

 輝羽と、現実で。


 そんな思いを孕みながら、彼女をのぞき込むように見つめていると居心地悪そうに目を覚ました。


「白雪、ちゃんっ?」


 視界いっぱいの白雪に、輝羽は瞳をぱちくりさせる。

 どうしてここに、と顔に書いてあった。



「輝羽ってさ。二兎追えるほど、器用じゃなさそう」

「へ?」

「でも、悠人先輩が好きなことに変わりはないから」



 寝起きと唐突のダブルアタックに、輝羽の頭は追いついていなかった。

 だから、輝羽も夢と重ねてしまって。


「……大樹はいいの?」

「うん。どうでも良くなった」


 そう言い放つ、白雪の不満そうな表情までもが一致する。


「大樹より悠人先輩のほうが何倍もかっこよくない?」

「ま、まあ」


 夢でも悠人似(ライデン)にべったりだったけれど。


「輝羽に負けないんだからっ」と、ライバル宣言する白雪に刺々しさはなく、明るい口調に聞いてるほうまで清々しくなってくる。


 リアルな夢は、どこまでリアルなのか。

 分からないながらにフェアじゃない、と一方的に知ってしまった白雪の過去に、輝羽は意を決した。


「悠人先輩はっ……その、ゲーム仲間でっっ。大樹はただの幼なじみなのっ!!」


 気迫めいた、ちょっと鼻息の荒い彼女に、今度は白雪が瞳をぱちくりさせる。


「ドラゴンハントって知ってるっ!?」


 唖然としながらも、白雪はBGMを鼻歌で歌ってくれて。


「……~♪」

「白雪ちゃんもやってるのっ!?」

「CMっ!! 最近よく流れてるじゃんっ!!」


 しーっ、しーっ、と、声のボリュームを抑えるよう白雪にたしなめられる。

 生徒どころか先生すらいなくて、本当に良かったと思う。


「スイーツの話してるときよりも、楽しそうなんだけど」


 少年のような輝羽に白雪は笑った。


「でも、そっちのほうが好きよ。猫かぶってる輝羽より全然良い」

「……ご、ごめん」


 輝羽はつい謝ってしまう。白雪や和葉と、上辺で付き合っているつもりは毛頭なかった。


「もしかして、男子の輪に入って女子からハブられたパターン?」


 白雪だって、猫かぶりを責めているわけじゃない。輝羽がそういう振る舞いをするようになった理由を尋ねた。


「お、おまえとはしたくないって。その……女子とは遊んでられねーお年頃パターン、かな。中学の友達はそんな私においでおいでしてくれて。だから、みんなと楽しめるようにって――」


 この高校を選んだのは、大樹と再会したあの書店でゲームを購入する、女の先輩を見て、かっこいいなと思ったからで。輪に入れてくれた友人たちに合わせることが耐えられなくなったからではないのだ。

 小学生のときの2年間は今よりも長くて、感謝しかない。


「――お年頃って、それ大樹も入ってるよね?」


 白雪から、幼なじみの味方がいたらそうはならなかったよね、という圧をもらう。


「…………まぁ、その」

「ますます大樹のこと、どうでもよくなった。悠人先輩と比べるまでもない、比べることが失礼だったっ」

「そ、そんなにっ?」

「御都合主義の自己中野郎じゃない!! 輝羽もちょっとは怒りなさいよっ。アンタのせいで気軽に話せなくなったー!! って!!」


 代弁して憤慨までしてくれる白雪に、輝羽は涙が溢れてくる。


「き、輝羽っっ?」

「……ご、めっ……そう、言ってくれる……友達がいるって、嬉しくてっ……」


 鼻をすすりながら、くっちゃくちゃな顔して。


「ありがとっ……白雪ちゃんっ」


 大樹の卑しさが露呈し、交際していることも彼が勝手に言い出したことだと、全てが解決した。



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