Chapter 10-2
「愛憎劇かよ」
そう嘆くライデンは、城主を守るようにして強襲してきた男たちの前に立った。
世界観もくそもない。
服装も年齢もバラバラで、共通点は男ってだけ。
寄ってたかって、恥ずかしくないのか。
そんな風だから振り向いてもらえないのだと、ライデンと城主は拳に込めた。
「……アンタ、戦えるのか?」
「護身術程度なら」
ライデンに向けていた甘い声色は一切なく、もううんざりと言わんばかりの回し蹴り。
「どいつもこいつもっ……ほんと、嫌になるっ……」
蹴散らしても蹴散らしても、男たちは次から次へとやってくる。
スーツの男たちも加勢して一気にどんぱち色が強くなるが、武器らしい武器はない。
素手で戦うのも限界があった。
招かれざる者の中に、ローブを着た、いかにも魔法使いな男が攻撃をしかけてきたのだ。
念力のようなものがライデンたちの鳩尾をえぐり、紫色の鈍い光の輪が城主を拘束する。
「ひどいじゃないか、こんなところに逃げ込むなんて。ね?」
動けない城主のフルフェイスの仮面を外せば、男はその素顔にうっとりした。
輝羽が言っていた通りの、白雪、本人だった。
「まだそんな厚化粧をしているんだね。あぁ、僕が解き放ってあげるよ」
「――っ、――っ!!」
首にまとわりつく輪が、白雪の発言権を奪う。
「僕は、ありのままのキミを愛してる」
ねっとり。いや、もっと水気を帯びていてもおかしくないぐらい、男の手つきは気持ち悪い。
舐め回すような距離感に、白雪の顔が歪み、彼女のすっぴんが露わになる。
「あぁ、僕の白雪っ……!!」
守らなければと使命感が生まれるほどの、究極の童顔だった。フランス人形のような透明感の塊が、本当の彼女の姿。
物心つく頃にはお菓子を拒絶するほどに、幼い頃の誘拐なんて日常化していた。
――あの高校合格したって……あいつ内申上げるために、先生とヤったらしいよ。
――いいじゃん。センコーとヤるより俺たちのほうが……
――白雪ちゃんが刃物を持ってるって。先生がちゃんと調べて、そんなことないって証明してあげるよ。ね?
なにをしても、なにもしなくても、この容姿がずっとコンプレックスで。
「僕はもう教師でもなんでもないっ。僕を縛るものはなんにもないんだっ!!」
ほとばしる鈍い光が、シャンデリアを傷つける。
「今度こそ僕のものに――」
〝護身術も厚化粧も、彼氏という存在も、こんなやつから身を守るためのものだった〟
白雪の回想が、皆の頭に流れてくる。
断片的に知ってしまった輝羽は、廊下にあった甲冑からぶんどった大剣を引きずり、大広間に突入した。
「白雪ちゃんに触るなあああああ!!」
最早、ヒールは履いていない。
ドレスのすそを破り、大股で腰を落として全力で大剣を振りかぶる。
斬るというより、なぎ倒す。
鈍器のような太刀捌きをしながら、強襲してきた男たちを吹き飛ばしていく。
「無限わきばっちこおおおおい!!」
大樹も、その辺に落ちていたサブマシンガンで、シャンデリアを撃ちまくった。
仮面舞踏会の客はいない。
いるのは、白雪に異常な執着を見せる男ども。
ライデンは呆気にとられている変態野郎を思いっきり蹴飛ばした。やせ細った体は弾かれるように転がり、落ちてきたシャンデリアの下敷きに。
男たちも消え、愛憎劇に終止符が打たれた。
「白雪、大丈夫かっ」
彼女に一目散に駆けつけるのは大樹だった。すっぴんの白雪に、心を奪われてしまったようで。
「ケガは? どっか痛むとこは?」
「……別に」
てのひらを返してきた大樹に、白雪は不満そうだった。しかし、一件落着した輝羽にはそれがいつもの彼らに見えて、ライデンとの合流を喜んだ。
「ライデンくんっ」
「なんて格好してんだ、おまえは……」
「軽々持ってた大剣がすっごく重たかったんだけどっ」
「人様の夢だからな」
シャンデリアの破片が飛び散る床を顧みない輝羽を、ライデンはお姫様抱っこで担ぎ上げた。
「危ねえだろ。なんでヒール履いてねえんだよ」
「包帯巻いてるからいいかなって。……あの、この担ぎ方は少々恥ずかしいものが」
「これなら大人しくしてんだろ」
そのまま、ライデンは輝羽を連れていく。階段の踊り場の肖像画にできた亀裂が〈道〉になっていた。
大樹にとっては連れ去られる同然の光景だったが、ライデンはそんな彼に捨て台詞を吐いた。
「――レイン、レイン言ってるわりには気心多いのな、おまえ」