Chapter 9
次の土曜日。当たり前のように大樹が来て、夕方ぐらいまでゲームして。
大樹が帰ろうとした直後、悠人からメッセージが来る。
「誰?」
「ゲー友……?」
「なんで疑問系なんだよ」
「1コ上の人だから。ドラゴンハント、オンラインしてみようか、って話になって」
「なんで」
「落としたスマホ拾ってもらったときにー……って、大樹もおばちゃんからメッセージ入ってるよ」
ほらほら、またねー。と、ちょっと強引に話を終わらせて、大樹を帰路につかせた。
*
2人でヤマタノオロチに挑むが、時間切れで討伐は叶わなかった。
複数人でやれば、やつの注意が1人に向くと思っていたのに、八俣は伊達じゃなかった。1対3だったり、6だったり。不規則に狙われ、ダメージも分散し、想像していたよりも首を落としにくかった。
〈先輩に回復ばっかりさせてしまって、すみません!!〉
〈それ、俺の台詞〉
最大の敗因は、お互い気を使いすぎたこと。
全体回復のできない2人は寄り添うことで分け与えられるのだが、そこをもれなく襲ってくるので、なんとも言えないプレイになってしまった。
〈いろんなクエストして、連携とりたい〉
〈私もです〉
ごはんや小休憩を挟みながら、輝羽は朝方まで悠人との共闘を楽しんだ。
――……おまえ、朝までやってたな。
――わ、分かるっ?
土曜の朝から、日曜の朝方まで。ちょっと寝てから、大樹とまたゲームをした輝羽は、その日、夢を視る間もないくらい深い眠りにつく。
久しぶりに疲労感から解放された体は、すこぶる軽かった。
***
「あとは鍵を返すだけなので、ひとりでも大丈夫ですわ」
お昼休みに部室の掃除を頼まれた和葉を手伝って、渡り廊下で別れた。
輝羽は保健室へ、三浦にプリントを渡しに行く。
階段を下りて中庭を突っ切ろうとすると、ベンチに座っている悠人を見つけた。
「この前はありがとうございましたっ」
共闘もだが、プロフィールカードの交換がとにかく嬉しかった。メッセージでも感謝を伝えたが、せっかく見かけたので、一言だけ。
声をかけたのが輝羽だと気づくと、悠人はニッと笑いかけた。
「こちらこそだっての」
なにがなにが、とそばにいた悠人の友人たちが反応する。が、そこは言わない約束だ。
輝羽がゲーム好きを公言していないように、悠人は〝勉強していること〟を隠している。
――こんなんで、めちゃくちゃ勉強してますって、格好つかないだろ。
他人の目を気にするところは、輝羽にも通ずるものがあって。お互いの秘密を共有することでより親密になれた経緯もあった。
ぼろが出ない内に立ち去ろうとするが、悠人は輝羽を引き止めた。
彼も輝羽に配慮して、耳打ちする。
「調子のって朝までやっちまったけど、怒られなかったか?」
温かくなるアイマスクで目を労ってくれた、お母さんのような大樹の顔がちょっとだけ頭を過ぎって、思い出し笑い。
「怒られはしなかったです」
「そっか。よかった」
ほっと安堵する悠人を、輝羽はつい見つめてしまう。
「悠人、そろそろ行くぞー」
「あ? 先行ってろよ。どうせ、またフられんだから」
「そんなこと言ってやんなよ。カヤ慰めるまでがセットだろー」
「はいはい」
友人たちとのやりとりに、輝羽は慌てだした。
「す、すみませんっ」
「引き止めたのは俺だし。輝羽ちゃんが気にすることねえって」
「それじゃっ、またよろしくお願いしますっ」
「ん。またな」
軽く一礼して輝羽は中庭を突っ切った。
その先に、今度は白雪がいた。
周囲には誰もいないし、目が合ってもそらされない。
むしろ、じっと見つめられていて、今がチャンスだと――――輝羽は見誤った。
「ずいぶん、悠人先輩と仲良いのね」
白雪は皮肉たっぷりに言ってくる。
「大樹がいるくせに、悠人先輩にも良い顔するんだ?」
――違う。
大樹も悠人も、ゲームで繋がっているだけだと言えたなら。
押し黙る輝羽に、白雪は軽蔑のまなざしを向けていた。