台湾生え抜きの菊池須磨子が迎えた元旦
挿絵の画像を生成する際には、「Ainova AI」を使用させて頂きました。
テレビやスマホの液晶画面越しに台北101のカウントダウン花火に付き合ったら、後は朝まで夢の中。
この台湾島の中華民国だと、そういう年末年始を過ごしている人も少なくないと思うよ。
みんながみんなカウントダウンライブに行ける訳じゃないし、そもそも私達にとって新年のメインイベントは春節なのだからね。
だけど私こと菊池須磨子の家の場合、ちょっと事情が変わってくるんだ。
「須磨子、準備は出来たわね?それじゃ早く、表に出なさい。もうお祖父ちゃんもカメラ構えて待っているんだから。」
「わ…分かったよ、お母さん。」
急かすお母さんに応じながら、私は洋室の鏡台を覗き込んだんだ。
お母さんに着付けて貰ったから、帯の締め方や位置は大丈夫なはずだよ。
だけど、この和服ってのは何か落ち着かないんだよなぁ。
鏡の中の自分を見ていると、借り物感が強いんだよね。
それは単に、貸衣装屋さんから着物をレンタルしてきたってだけの話じゃないの。
確かにお父さんは兵庫県神戸市須磨区で生まれ育った日本人で、菊池須磨子という日本的なフルネームではあるけれども、私自身は生まれも育ちも台南市だからね。
こんな青い振り袖の和服よりも漢服や満州服の方が親しめるし、文字通りに肌に合う気がするよ。
とはいえ日本はお父さんの生まれ育った国だし、お母さんを筆頭に家族もみんな親日家だからね。
斯く言う私だって在籍校の台南市立福松国民中学では日本語と日本文化の授業を選択している訳だし、今よりもっと日本の事を好きになりたい所だよ。
「そうかい、今年は青い振り袖を借りてきたのかい。須磨子も国民中学に上がって、去年の元旦より着物が似合うようになったじゃないか。」
笑顔でカメラのセルフタイマーを操作しているお祖父ちゃんを見ていると、改めてそう思えてくるんだ。
そのためには、日本語と日本文化の勉強に励まないとね。
勿論、学校の選択授業も含めてだけど。
無事に記念撮影を済ませて和服を貸衣装屋さんに返却した頃には、もうすっかり良い時間になっていたの。
この様子だと、そのままの流れで御飯になるんだろうね。
「どうかね、八千夫君?あの店の薬酒はなかなか美味いらしいから、小瓶の一本でも買って夜市に持ち込もうじゃないか。」
「お屠蘇代わりですか。それは良いですね、お義父さん。僕も御相伴させて頂きますよ。」
この様子だと、お父さんとお祖父ちゃんは端から夜市で一杯やるつもりだったのかも知れないなぁ。
「お父さんも御祖父ちゃんも、二人とも飲み過ぎないでよ。明日は平日でお仕事なんだから…」
台湾島の中華民国とは違って、日本は新暦の年末年始を連休にしているみたいなの。
お父さんも台湾での暮らしは長いから大丈夫だとは思うけど、うっかり日本の年末年始の感覚で悠長にしていたら一大事だから、釘は刺しておかないとね。
とはいえお父さんの場合は日本式の新暦のお正月と旧暦の春節とを同じ熱量で祝える訳だから、そこは正直言って羨ましいよ。
台湾と日本のハーフである私も、早くそうなりたい所だね。