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第49話 次回の約束

 (れん)凛々華(りりか)が昼食を終えて教室に戻っている途中、廊下に人だかりができていた。

 何やら柱の前に集まっているようだ。


「なんだ?」

「テストの順位表が貼り出されたんじゃないかしら。確か上位三十位までの名前が記載されているはずよ」

「あぁ。そういえばそんなこと言ってたな。どうせならちょっと見ておくか」

「そうね」


 蓮と凛々華が人だかりに向かうと、


「——れ、蓮君っ、(ひいらぎ)さん!」


 こちらに気づいた(いつき)が、慌てた様子で話しかけてきた。


「樹、どうした?」

「どうした、じゃないよ! 二人とも自分の順位見て!」


 蓮は目を凝らした。

 表の一番上に、柊凛々華という文字が踊っていた。


「おぉ、すげえな柊。一位じゃん」

「そういうあなたも三位、表彰台よ」

「ギリギリだけどな」


 蓮が肩をすくめてみせると、樹が信じられないという表情で手をパタパタさせた。


「ふ、二人とも、反応薄くない⁉︎」

「そうか?」

「そうかしら?」


 蓮と凛々華は揃って首をかしげた。

 樹は頬を引きつらせた。


「……もしかして、中学のときもあれくらいだったの?」

「そうね」

「頑張ったときはな」


 蓮と凛々華は、今度は揃って首肯した。

 樹は愕然(がくぜん)とした表情を浮かべた後、ややあって呆れたように首を振った。


「柊さんが真面目なのは知ってたし、蓮君も地頭がいいとは思ってたけど、二人ともすごいんだね……」

「そういう樹もちゃっかりいるじゃん」


 蓮は順位表を指差した。

 樹は二十六位にランクインしていた。


「合計で五十点差以上もつけられてる人に慰められてもなぁ」

桐ヶ谷(きりがや)、それは名前が乗ってすらいない俺らへの皮肉か?」

「へっ? い、いや、そういうわけじゃないよ⁉︎」


 樹がクラスメイトの江口(えぐち)に絡まれ、慌てて否定した。


「本当かぁ?」

「ほ、本当だよ! 別に勉強だけが全てじゃないしっ」

「合計で五十点差以上もつけられてる人に慰められてもなぁ」

「うっ、それさっきの僕のセリフじゃん……」


(樹って反応いいから、イジられやすいんだよな)


 江口と宇佐美(うさみ)に両側から肩に腕を回されて困り眉になっている樹を見て、蓮は苦笑した。


「——トップおめでとう!」


 明るい声が聞こえた。

 いつの間にか、クラス会長の結菜(ゆいな)が、樹たちとは反対側から蓮と凛々華に近づいてきていた。


「どうも」

「やっぱり柊さんはすごいねー」


 凛々華の素っ気ないお礼にも動じず、結菜は朗らかな笑みを浮かべている。


「そういうあなたも、私とほぼ変わらないようだけど?」


 そう。蓮の二位フィニッシュを阻んだのは結菜だ。

 凛々華とは二点差、つまり蓮とは実に一点差だった。


「いやいや、ここでの二点は大きいよ。やっぱり一緒に頑張ってくれる人がいるのが大きいのかな?」


 結菜はふふ、と笑い、蓮に意味ありげな視線を送った。


「そうかもしれないわね」


 凛々華の返事は相変わらず冷ややかなものだったが、結菜は笑顔を崩さなかった。


「いいなぁ、そういう人がいて! 黒鉄君も、やっぱりやる気出た?」


 結菜が小首をかしげて尋ねてくる。

 蓮は素直にあごを引いた。


「そうだな。勝負するからには負けたくねえし」

「うんうん、そうだよねー。二人の関係性、羨ましいなぁ。けど、次回は負けないからね!」


 凛々華にピシッと指を突きつけた後、結菜は「お邪魔しましたー」と他の友達のところへ去っていった。


「……」


 凛々華はその後ろ姿に目を向けるが、すぐに小さく鼻を鳴らして視線を逸らした。




「そういえば、罰ゲームはどうするんだ?」


 学校からの帰り道、蓮はふと気になって尋ねた。


「そうね……少し考えさせてもらってもいいかしら?」

「構わねえけど、決まってなかったのか?」


 凛々華にしては珍しいほど乗り気だったため、てっきり妙案でも思いついていたのだと思ったのだが。


「最初は決めていたことがあったのだけれど、ちょっと迷いが出てきたのよ」

「そうか。負けたんだから甘んじて受け入れるけど、なるべく痛みは伴わないやつにしてくれよ」

「私をなんだと思っているのかしら?」

「いてっ」


 蓮は自身の脇腹を襲った凛々華の手に、じっとりとした目線を向けた。


「そういうことするからだろ」

「っ……!」


 凛々華はハッとしたように目を見開いた。その頬がじわじわと色づいていく。


「……私、デコピンには自信があるのよね」

「落ち着け、柊。一旦考え直そうぜ」


 蓮が慌てると、凛々華が鈴の鳴るような笑い声をあげた。

 どうやら無意識のものだったようで、彼女は誤魔化すように咳払いをした。


「それで、どうするの?」

「何がだ?」

「次回の期末テストよ。また、挑戦を受けてあげないこともないけど?」


 凛々華が挑発的な目線を送ってくる。

 いきなりの話題転換に戸惑いつつも、蓮の返事は決まっていた。


「やるに決まってんだろ。次は絶対勝つ」

「ふふ、その心意気だけは買ってあげるわ。ただし——」


 凛々華がどこかイタズラっぽく笑う。


「万が一私が負けとしても、エッチな罰ゲームは受け付けないわよ」


 蓮はやれやれと言わんばかりに、肩をすくめた。


「柊こそ、俺のことをなんだと思ってるんだ」

「むっつりに決まってるじゃない」

「その言葉、そっくりそのままリボンつけて返すぜ」

「あら」


 凛々華がおかしそうに首をかしげた。


「私は結構オープンなほうだと思うのだけれど?」

「じゃあがっつりか」

「そ、そうは言ってないわよ!」

「いてっ、悪かったって!」


 この短時間に二度目の脇腹チョップをくらい、蓮は慌てて防御体勢に入った。


「……ふん」


 凛々華は鼻を鳴らしてつんとそっぽを向くが、その横顔はどこか緩んでいた。


(よくわからねえけど、機嫌はすっかり治ってそうだな)


 蓮はそっと笑みを浮かべた。

 順位表を見に行った後に再び少し不機嫌になっていたため心配していたが、杞憂だったみたいだ。


「チョップされて笑うなんて、やっぱりあなたはマゾなのね」

「ちげえからな⁉︎」


 蓮が思わずマンキンのツッコミをすると、凛々華が口元を抑えてそっぽを向いた。

 その両肩はかすかに震えていた。




◇ ◇ ◇




「兄貴、行ってくるねー」

「おう、気をつけろよー」


 蓮は部活に行く妹の遥香(はるか)を、ソファーに寝転がりながら見送った。

 バイトも何もない土曜日は久しぶりなので、午前中には起きたものの、ずっとゴロゴロしながら本を読んだりゲームをしていた。

 父の直人(なおと)は仕事が忙しいようで、土曜日だというのに家を空けている。


 程なくして、一日を通じて初めて外に出た。

 特に明確な目的はない。本屋にでも立ち寄って、面白そうなものでもあれば買おうと思ったのだ。


「なるほど……面白そうだな」


 蓮があらすじを読みながら吟味していると、


「あれ、黒鉄(くろがね)君?」

水嶋(みずしま)?」


 クラスメイトの夏海(なつみ)が、驚いたように瞳を見開いて蓮を見つめていた。

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