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第194話 蓮の誕生日⑤ —深まる関係—

 触れるだけだった口付けは、すぐに深く、熱を帯びていく。


「ん、はぁ……っ」


 顔を離すと、凛々華(りりか)は頬をほんのり上気させていた。


(その表情、やばいっ……)


 蓮はたまらず、彼女を腕の中に閉じ込めた。

 背中から腰回り、そしてお腹へと、指を這わせていく。滑らかな肌は、汗でほんのり湿っていた。


「私も……」


 凛々華もすぐに蓮のシャツの裾に手を差し入れてきて、形を確かめるように、腹筋や胸筋をなぞった。


「凛々華……」

「……ん」


 ついばむようにキスをしながら、お互いの体を弄りあっていると、頭に靄がかかったようにぼんやりとしてくる。


(もっと、もっと——)


 その思いが、全身を支配して。

 気づけば、膨らみへと手を伸ばしていた。


「っ……⁉︎」


 触れた瞬間、蓮はハッと我に返った。


「ご、ごめん! 凛々華、俺……っ」

「蓮君、大丈夫だから……」


 蓮の握りしめた拳を、凛々華がそっと包み込んだ。

 そして、震える手つきのまま——自らの胸元へと導いていく。


「ちょ、凛々華っ、何やって……⁉︎」

「今日は、特別な日だもの。それに、その……っ」


 凛々華は真っ赤になりながら、ナイトテーブルの引き出しへと視線を向けた。


「準備も……してあるから」

「えっ——」


 蓮は思わず、まじまじと凛々華を見つめてしまう。


「……ほ、本当に?」

「だ、だって……っ、桐ヶ谷(きりがや)君と初音(はつね)さんだって、もう済ませているのでしょう? だったら、私たちも……進むべきだわ」


 凛々華の言葉には、確かに強い決意が込められていた。

 しかし同時に、その瞳がどこか不安げに揺れているのを見て、蓮は手を引っ込めた。


「蓮君……?」

「無理しなくていいよ。——俺たちは、俺たちでいいんだ」

「っ……」


 凛々華はそっと瞳を伏せた。

 そのどこか傷ついたような表情を見て、蓮は慌てて言葉を付け足す。


「違うよ、凛々華。関係を進めなくていいって言ってるわけじゃねえから」

「えっ……?」

「対抗心とか、勢いに任せるのは嫌なだけ。だからさ」


 蓮は覚悟を決めるように、ひとつ息を吐き出した。


「そういうのじゃなくて、本心から進みたいって思ってくれてるなら——俺は、凛々華がほしい」

「っ……!」


 凛々華が目を見開いた。

 ふと視線を落とし——震えるような声で、口を開く。


「ごめんなさい……さっきのは、ただの誤魔化しだったの」

「うん」

「本当は、進みたいって思ってた……初音さんたちは関係なく、蓮君のこと、もっと知りたいって……だから……っ」

「そっか……ありがとう」


 蓮は感謝を伝えるように、しっかりと凛々華を抱きしめた。


「でも、怖くなったら言えよ。いつでも止まれるし……最悪、ぶん殴ってくれればいいから」

「ふふ……ありがとう、蓮君」


 凛々華の表情から恐怖は消え失せ、覚悟と信頼、そして——ほんの少しの期待が宿っていた。


「じゃあ……触るよ?」

「えぇ……」


 蓮は鼓動が早まるのを感じながら、そろそろと膨らみに手を伸ばした。


「痛く、ねえか?」

「大丈夫……ちょっと、くすぐったいけれど」


 時間とともに、自然と手の動きが馴染んでいく。

 蓮は躊躇うように指先を泳がせてから、シャツのボタンに指をかけた。


「……脱がせても、いいか?」

「い、いちいち聞かなくていいわよ……っ」


 凛々華は唇を尖らせながら、そっぽを向いた。

 前をはだけさせると、胸元を隠しながら、そっと見上げてくる。


「す、スカートも……?」

「えっ? あ、あぁ……凛々華が、いいなら」


 思いがけない問いに、声がうわずった。


「じゃあ……あっち、向いてなさい」

「お、おう」


 蓮は慌てて背を向けるが、布の擦れる音に、逆に想像力を掻き立てられる。

 それからの時間は一瞬のようで、永遠にも感じられた。


「蓮君、いいわよ……」


 蓮はおそるおそる振り向き——言葉を失った。

 月明かりの差し込む部屋であらわになった肌は、輝いていた。


 白く滑らかな鎖骨、肩、胸元、お腹、そして太もも。

 どこもかしこも、触れれば壊れてしまいそうなほど繊細で、美しかった。


「かわいい……すげえ綺麗だよ、凛々華」

「あんまり、見ないで……っ」


 瞳を潤ませるその姿が、あまりにも愛おしくて。

 蓮は、背後から包み込むように抱き寄せた。


 胸元からお腹、そして太ももへと、慎重に指を滑らせていく。

 そして、とうとう太ももの付け根へと触れたとき、


「っ……!」


 凛々華の体が硬直した。

 彼女はぎゅっと目をつむり、何かに耐えるように唇を固く引き結んだ。


 しかし、制止する素振りは見せない。

 このまま続けても、おそらく受け入れてくれるだろう。


(それでも、少しでも嫌な思いはさせたくない)


 蓮は秘部への愛撫を中断し、代わりに頭を撫でた。


「——大丈夫だよ、凛々華」


 大丈夫、大丈夫、と囁きながら、うなじや耳に口付けをしていく。


「ちょ、ちょっと、くすぐったいわよ……っ」


 凛々華はどこか笑いを含みながら振り返ると、唇をふさいできた。


 お互いに唇を喰んでみたり、額にキスをし合ったり。

 甘いけれど、どこか穏やかな時間が流れた。


 静寂の中、二人の視線が交差する。


「凛々華……いいか?」


 余裕を見せようとしても、声が震えてしまう。

 凛々華は、視線を外して小さくうなずくと——そっと蓮の肩に手を添えた。


(俺、とうとう……っ)


 蓮はごくりと唾を飲み込み、そろそろと指先を伸ばした。

 ほんのり濡れた薄布越しに、温もりが伝わってくる。


(慎重に、優しく……こんな感じで、いいのか?)


 不安になって視線を送ると、彼女は顔を真っ赤にして、目を閉じていた。


「ん……」


 時折、まつ毛を震わせ、声を漏らしている。

 そのたびに、蓮は触れる場所とタイミングを調整した。

 身体は熱くなっているのに、頭の中は妙に冷静だった。


「ん、ふっ……」


 凛々華の声のトーンが、徐々に高くなり——やがて力が抜けてしまったのか、胸に倒れ込んできた。

 熱のこもった吐息が、蓮の鎖骨を撫でる。


(やば……っ)


 腰のあたりがゾクゾクと震えた。

 自然と、少しだけ指に力を込めると、凛々華がぐっと眉を寄せる。


「あっ……痛かったか?」

「ん……大丈夫……」


 彼女は蓮の肩に顔を埋めたまま、囁くように答えた。

 しばらく続く愛撫に、その息は徐々に切なさを帯びてきて――


「ん、あっ……! れ、蓮君。もう……っ」

「あぁ……そうだな」


 体が離れると、凛々華は胸に手を当て、小さく呼吸を整えた。

 その様子を確認してから、蓮は自分のカバンに手を伸ばして、ひとつの箱を取り出す。


「実は、俺も準備しててさ……こっち、使ってもいいか? ちっぽけだけど、男のプライドっていうか」

「す、好きにしなさいよ、そんなの……」

「おう、ありがとな」


 蓮が照れたように笑うと、凛々華も目元を和らげた。

 張り詰めていた空気が、ふっと軽くなる。


 準備を済ませ、体温を分け合うように触れながら、蓮は静かに問いかけた。


「本当に……いいんだよな?」

「えぇ、お願い……。全部、受け止めたいの」


 凛々華の瞳はどこまでも澄んでいて、まっすぐ蓮を見つめていた。


「ありがとう、凛々華。——愛してるよ」

「私も……愛しているわ」


 吸い寄せられるように、唇を重ねる。


 穏やかに、けれど確かに。

 彼らは、その一歩を踏み出した。

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