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第19話 陽キャの幼馴染とお出かけ② —遭遇と蓮のバイト先—

島田(しまだ)は部活帰りか?」

「そうだよー」


 (れん)の問いにうなずいた後、芽衣(めい)は口元を手で隠しながら、まるで秘密を暴いたかのように目を輝かせた。


「帰りにちょっと本屋でも寄ろうと思ったら、まさかのまさかだよ〜。もしかしてデートだったり?」

「そういう関係じゃないと、前も言ったはずだけれど?」

「でも、休日に男女が二人で出かけてたらそれはもうデートじゃないかな」

「っ……」


 凛々華は肩を小さく上下させた。唇を引き結んだまま、頬にほんのり赤みが差している。

 反論が思いつかなかったのか、押し黙ってしまった彼女に変わって、蓮は芽衣に尋ねた。


「そういうもんなのか?」

「そうだよ!」


 芽衣は大きくうなずいた。


「それに、女の子は全く興味のない男の子とは二人きりで出かけないからね? 勘違いされても面倒だし」

「それは場合によりけりじゃないのか? 趣味が同じなら全然あるだろ」


 蓮は芽衣がこれ以上凛々華を刺激しないよう、少し語気を強めた。

 その意図が伝わったのか、芽衣は「ま、それはそうかもね」と肩をすくめた。


「でも、お互い相手には心開いてるでしょ? 好きとかそう言うのは置いておいてさ」

「そうだな。一緒にいて楽しいし」

「うんうん〜。柊さんは? 黒鉄君といて楽しい?」

「……そうでなければ、二人きりで過ごしたりはしないわ」


 凛々華は横目で一瞬蓮を見た後、ぷいっと顔を背け、小さな声で答えた。


「そうだよねー!」


 芽衣が笑顔で大袈裟に同意しつつ、蓮に意味ありげなウインクを送ってくる。

 蓮は首を傾げた。


「どうした?」

「ううん。何でもないよ。ただ、二人ってやっぱり仲良いよねって思っただけ! それじゃあ、また学校でねー!」


 芽衣は反論の余地を与えないかのように矢継ぎ早にそう告げた後、手を振りながらその場を離れていった。


 少しの間、二人の間に沈黙が流れる。

 蓮がちらりと凛々華の横顔を見ると、普段通り澄ました表情をしているように見えるが、目元がやや赤らみ、ほんの少しだけ唇がきつく結ばれている気がした。


 特段不機嫌そうには見えないが、何かをこらえるような表情だ。もしかしたら内心では腹を立てているのかもしれない。

 蓮はとりなすように言った。


「ま、島田もミーハーってだけで、悪気はないだろ。男女が一緒に歩いてるだけで揶揄われるお年頃だし、軽く流しとこうぜ」

「……私は気にしてなんかいないわ。それよりも、この後の話をしましょう」

「そうだな」


 凛々華があまり芽衣の話題を続けたくなさそうだったため、蓮も話題転換に乗っかった。


「カフェとかファミレスとか寄るか?」

「えぇ。あなたのも見てみたいもの」

「それはそうだな。近くにどっかオススメの店とかあるか?」

「わからないわ。普段はそんなところ行かないから」

「そうなのか?」


 蓮は意外そうに目を瞬かせた。

 何となく、凛々華は一人でコーヒーでも飲みながら優雅に読書をしているイメージがあった。


「じゃあ、図書館とかでもいいぞ。割と近くにあったと思うし」

「いえ、せっかくならどこかに入りましょう。お腹も減ったもの」

「そうだな。じゃあ、近くにあるカフェでも入るか」


 蓮がスタスタ歩き出すと、凛々華はバッグを肩にかけ、小走りで隣に並んだ。


「黒鉄君は普段からカフェには行くのかしら?」

「あんまり行かないけど、たまに家で集中できないときとかはカフェとかファミレスで勉強してるな」

「そ、そう……なんか意外ね」


 蓮の横顔をじっと見つめる凛々華の眼差しには、どこか羨望のようなものが感じられた。


「柊ってもしかして、一人でカフェとか入るのとか尻込みしちゃうタイプか?」

「……そんなことはないわ」


 凛々華はスッと視線を逸らした。

 その声はわずかに震え、耳元はうっすらと赤く染まっていた。


「……ぷっ」


 蓮は耐えきれずに吹き出してしまった。

 カフェの入り口で入ろうと決心して一歩踏み出しては戻るという行動を繰り返す凛々華——そんな姿を想像してしまえば、平静を装うことは不可能だった。


「意外とシャイなんだな——いてぇ⁉︎」


 蓮は痛みで身をよじった。横腹をつねる凛々華の手に、容赦という言葉はなかった。

 通行人の何人かがギョッとしたように振り返った。


「……おい、めっちゃ見られたんだけど」

「ふん」


 凛々華は小さく鼻を鳴らして、プイッとそっぽを向いた。

 蓮が立ち上がっても、むすっとした表情のまま視線を背けている。


 蓮はいつもよりも子供らしいその姿に苦笑しつつ、頭を掻いた。


「悪かったよ、揶揄って。別に柊を馬鹿にしたかったわけじゃねえんだ」

「……あんなに爆笑していた人に言われても説得力なんかないわ」


 凛々華が振り返ることなく、拗ねたように言った。


「本当だって。お詫びにちょっと穴場っぽいカフェに案内するからさ」


 凛々華が思わずと言った様子で視線を向けてきた。

 慌てた様子で視線を背け、肩にかけたトートバッグの持ち手をぎゅっと握りしめながらボソッとつぶやいた。


「別に、どこでも構わないけれど」


 蓮は頬が緩みそうになるのを、歯を食いしばって何とか堪えた。


「じゃあ、行くか」

「……えぇ」


 並んで歩きだす。

 凛々華は拗ねてみせていた類のものだったのか、いつも通りの淡々とした口調で話しかけてきた。


「行きつけのお店なのかしら?」

「いや、ちょっと恥ずかしいから選択肢からは外してたけど、俺のバイトしてるカフェだ」

「っ……」


 息を呑む気配がした。凛々華の足取りが少し乱れた。予想外の答えだったのだろう。

 彼女は一拍置いてから「そう」と短く答えた後、蓮に視線を向けてきた。


「そういえば、どうしてバイトなんてしているの?」

「部活は特に興味なかったし、社会勉強ってのもあるかな。あとは前も言ったかもしれないけど、一応父子家庭だから、自分の小遣いくらいは自分で稼ごうかと思ったんだ」

「……すごいのね」


 凛々華がしみじみと言った。


「そうでもねえよ。暇だったってだけだ」


 真っ直ぐな賛辞が照れくさくて、蓮は首元を掻きながら言い訳をするように言った。

 そのときちょうど、カフェに到着した。


「ここだ」

「えぇ」


 凛々華は小さくうなずいた。トートバッグの持ち手を握り直し、小さな息を吐いてから店の外観に視線を送っている。


「心配すんな。店員さんもみんないい人たちばっかりだから」

「別に心配なんてしてないわ」

「そうか。じゃあ入るぞ」


 澄ましてみせている凛々華の視線が忙しなく揺れ動いていることは指摘せずに、蓮は店内に足を踏み入れた。

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