第188話 終業式後の打ち上げ① —チーム対抗戦—
——昼休み。
蓮と凛々華はいつもの校庭の片隅ではなく、教室で心愛、樹、夏海、亜里沙とともに昼食を囲んでいた。
「ねぇ、終業式の午後って、みんな暇?」
パンの袋を片手に、夏海が切り出した。
「私も部活ないし、打ち上げ的な感じで遊び行かない? あっ、もちろん二組の予定がなければ、だけどね!」
「ちょっと夏海、私にも配慮しなさいよ」
亜里沙が少し不満げに言うと、
「亜里沙は強制参加に決まってるじゃん」
「夏海が私を好きすぎる件について」
「ちがっ……! ぜんざいに扱ってるんだよ!」
夏海がビシッと指を突きつけた。
蓮は思わず吹き出しながら、
「ぞんざいだろ」
「一番甘やかしていそうね」
凛々華にも笑われ、夏海が頬を赤らめる。
「う、うるさいぞっ、そこの秀才コンビ! そんなんじゃ、お互い以外からモテないからね!」
「……褒めてない?」
「だよね〜」
樹のぽそっとしたつぶやきに、心愛も笑ってうなずいた。
「褒めてないし!」
「いや、それは無理があるでしょ。だって今のって——二人は頭が良くて、愛しの恋人がいるってことだもんね?」
「「「っ……!」」」
亜里沙にイタズラっぽい笑みを向けられ、蓮、凛々華、夏海は揃って赤面した。
心愛が思わず拍手をしながら、
「すごい、三人同時攻撃だ〜」
「ふふん、これぞ一石三鳥よ」
亜里沙が腕を組み、得意げに鼻を鳴らした。
夏海が、スッと蓮と凛々華に顔を寄せてくる。
「……黒鉄君、柊さん。私が亜里沙を抑えるから、二人は左右の脇腹をお願い」
「任せろ」
蓮はニヤリと同意するが——
「れ、蓮君はダメよ!」
「えっ……なんで?」
「だ、だって……っ」
凛々華は言いよどみ、頬を真っ赤に染めてうつむいた。
(っ……俺が、他の女の子に軽くでも触れるのが嫌ってことか)
意味を理解した瞬間、蓮の顔が熱くなった。
「結局こうなるのかー!」
夏海が盛大に叫び、机に突っ伏した。
すると、近くで食べていた蒼空が彼女に声をかける。
「水嶋。ぼっち同盟、結成するか?」
冗談っぽいその一言に、夏海はピクリと反応した。
「悪くないっ……いや、そう言って青柳君はサラッと彼女作ってそうだから、やっぱりいやだ」
「んなことねーって。そういう水嶋も、ちょっといい感じの先輩いるんだろ?」
「お世話になっただけだで、別に何もないよ」
夏海が肩をすくめる。その表情に、特に変化は見られない。
——それを見て、蒼空がふっと安堵の息を吐いた。
「……ねぇ」
凛々華がくい、と蓮の袖を引く。その視線が、チラリと蒼空に向けられた。
「かもな」
蓮は軽くうなずき、ふっと笑みをこぼした。
「って、またイチャイチャしてるー! 会長っ、このままでいいの⁉︎」
「もう、何でもいいよ。あと数日だし」
会長——結菜は、呆れたように首を振った。
亜美がぷっ、と吹き出しながら、
「とうとう藤崎もサジ投げちゃったかー」
「藤崎の毒以外で、あれを中和する方法はない。万事休す——いや」
莉央の視線が、一人の男子生徒に向けられた。
亜美もハッと息を呑む。
「亜美、まだ終わってないかもしれない」
「だね——伏兵・早川、出番だよ!」
「はっ? 何が?」
英一が振り向いて、眉を寄せた。
「あんたが、黒鉄と柊に対抗できる最後のピースだ」
「今のあんたに恐れる敵なんていないでしょ」
「いや……そもそも、単純に実力不足だと思うけど」
英一は軽く肩をすくめた。
亜美と莉央は顔を見合わせ、
「「確かに」」
「ひどくないかい?」
英一がすかさずツッコミを入れ、教室は笑いに包まれた。
◇ ◇ ◇
終業式が終わると、担任の小池による最後のホームルームをもって、一年生のすべての日程が終了した。
最後にクラスで記念写真を撮った。解散すると、蓮たち六人は電車に乗り継いだ。
「ほらみんな、早く!」
最寄駅に着くや否や、夏海がリュックを軽く背負いながら、ワクワクした様子で振り返った。
「遅いと混むんだからね!」
まるで遠足前の小学生のような口ぶりに、残りの五人から笑みがこぼれた。
駅から十分ほど歩くと、一際大きくてカラフルな建物が見えてきた。複合アミューズメント施設だ。
ボーリング、カラオケ、ゲームセンターまで入っている大型のスポットで、制服姿の学生たちがちらほらと集まっていた。
「こういうとこ、打ち上げ以外で来るの初めてかも……」
建物を見上げ、樹がどこか不安げにつぶやいた。
蓮はニヤリと口角を上げて、
「迷子になるなよ」
「な、ならないよっ」
むすっとしてみせる樹の前に、隣からスッと手が差し出された。
「いっくん、手繋いでおこっか?」
「こっちゃんまで……!」
彼はたちまち真っ赤になった。
亜里沙が前方で振り返り、半眼になる。
「ほら、イチャついてないで早く来なよー」
「はーい!」
心愛は元気よく返事をして、駆けていった。
ぽつんと取り残された樹の肩に、蓮はそっと手を置く。
「ドンマイ、樹」
「……うるさい」
唇を尖らせる様子に、蓮は笑ってしまった。
その横で、凛々華も口元を押さえてくすくすと笑っていた。
受付を済ませ、ボーリングのレーンへと向かうと、夏海が手を前に突き出す。
「じゃあ、チーム分けはグーパーで決めよ!」
手に汗握る前哨戦の結果、蓮は心愛、夏海と同じチームになった。
相手は凛々華、樹、亜里沙だ。
ジャンケンが行われた結果、凛々華が一番最初に投げることになった。
やや緊張した面持ちで、ボールを構える。
(凜としてるっていうか……やっぱ、綺麗だよな)
蓮が半ば見惚れてしまう中、彼女は初球から九本を倒した。
「おぉ、柊さん。かましちゃえ!」
亜里沙が拳を突き上げる。
その声援に背中を押されるように、凛々華は残りの一本も確実に仕留めた。
「おぉ、いきなりスペアだ!」
「やるね〜」
「た、たまたまよ」
次々と贈られる賛辞に、凛々華は澄ましてみせるが、その口元は緩みを隠しきれていなかった。
蓮は微笑みながら、手のひらを差し出す。
「ナイス、凛々華」
「ふふ、今は敵同士なのよ?」
凛々華は照れたように笑いながら、ぺしっと手を合わせた。
それから、心愛、亜里沙、樹、夏海とも順にハイタッチを交わし——最後に夏海がバチン! と一際強く叩いた。
「ちょっと水嶋さん、痛いわよ」
「へんっ、いきなり色々見せつけられたからね!」
頬を膨らませてみせる夏海だったが、すぐに吹き出した。
「……ふふ」
凛々華もつられるように、柔らかな笑みをこぼした。
次の凛々華の番が回ってくると、蓮は横のレーンから声をかける。
「凛々華。スペアのあとは、一投目が大事だからな?」
「わ、わかってるわよ……!」
真剣な顔でそう答えた彼女は、やや緊張気味に構え——
レーンの端を滑り、ピンをかすめることなく落ちていった。
「「あぁ……!」」
「「おおー!」」
凛々華の味方である亜里沙と樹は頭を抱え、敵チームの夏海と心愛は嬉しそうに歓声をあげた。
凛々華は振り返りながら、じろりと蓮を睨む。
「……兄妹揃って、人を動揺させるのが上手いようね」
「悪かったって。もうしねえよ」
笑いながら肩をポンポンと叩くと、凛々華はつん、とそっぽを向いた後——ふっと口元を緩めた。
◇ ◇ ◇
「ちょっとこれ……重いかも」
次の番が回ってきた樹は、自分の使っていたボールを眺めて首を傾げた。
そして、レーン脇に置かれていた一回り小さなボールを手に取ると、亜里沙がニヤリと笑う。
「桐ヶ谷君。それ、心愛ちゃんが使ってるボールだよ」
「えっ……!」
樹は一気に顔を真っ赤にして、慌ててボールを戻しかける。
「や、やっぱり別ので——」
「変えちゃうの?」
心愛が小首を傾げ、小悪魔的に微笑んだ。
「っ……こ、このまま投げます……」
樹は真っ赤になりながら、ボールを構えたが——、
「……まあ、そうなるよな」
案の定、ガーターに吸い込まれていった。
「ああ〜っ、心愛砲は不発だったかー」
「し、仕方ないじゃん……」
夏海が残念そうにつぶやくと、樹が口をへの字に曲げた。
すると、亜里沙が瞳を細めて、
「でも、本体はすでに撃ち抜いてるもんね?」
「なっ……⁉︎」
樹の顔はそれ以上赤くなる余地がないほど染まり、耳の先まで真っ赤だった。
まるで、熟れたリンゴのようだ。
「亜里沙ちゃんも悪いな〜」
心愛がほんのりと頬を染めながら、隣のレーンで投球フォームに入る。
そして——見事、すべてのピンを倒した。
「おぉ、ストライクじゃん!」
「この流れで⁉︎ すごっ!」
夏海が勢いよく立ち上がり、亜里沙が手を叩いて笑った。
「……なんか、樹と初音らしい結果だな」
「そうね」
蓮と凛々華が、ふっと笑みを交わすと、
「悔しいけど、僕もそう思っちゃったよ」
いつの間にか隣に来ていた樹が、照れくさそうに苦笑した。
「ほら、翌日バースデー男、出番だよー」
「絶妙に語呂が良いな」
夏海に呼ばれ、蓮は苦笑しながら腰を浮かせた。
二投目を失敗して、スペアを取り逃がすと、亜里沙がわざとらしく肩をすくめた。
「ま、前日は所詮こんなもんだよね」
「なんかムカつくな」
「まあまあ——楽しみは、明日にとっておきなって」
亜里沙が蓮ではなく、凛々華に向けてウインクをした。
「っ……」
凛々華が小さく息を呑み、頬を火照らせた。
(明日、楽しみだな)
自然と、蓮の口元がニヤついてしまう。
「……蓮君、ちょっとキモいかも」
「うるせえよ」
蓮は恥ずかしさを誤魔化すため、軽く樹の首を絞めた。
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