表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
188/195

第188話 終業式後の打ち上げ① —チーム対抗戦—

 ——昼休み。

 (れん)凛々華(りりか)はいつもの校庭の片隅ではなく、教室で心愛(ここあ)(いつき)夏海(なつみ)亜里沙(ありさ)とともに昼食を囲んでいた。


「ねぇ、終業式の午後って、みんな暇?」


 パンの袋を片手に、夏海が切り出した。


「私も部活ないし、打ち上げ的な感じで遊び行かない? あっ、もちろん二組の予定がなければ、だけどね!」

「ちょっと夏海、私にも配慮しなさいよ」


 亜里沙が少し不満げに言うと、


「亜里沙は強制参加に決まってるじゃん」

「夏海が私を好きすぎる件について」

「ちがっ……! ぜんざいに扱ってるんだよ!」


 夏海がビシッと指を突きつけた。

 蓮は思わず吹き出しながら、


「ぞんざいだろ」

「一番甘やかしていそうね」


 凛々華にも笑われ、夏海が頬を赤らめる。


「う、うるさいぞっ、そこの秀才コンビ! そんなんじゃ、お互い以外からモテないからね!」

「……褒めてない?」

「だよね〜」


 樹のぽそっとしたつぶやきに、心愛も笑ってうなずいた。


「褒めてないし!」

「いや、それは無理があるでしょ。だって今のって——二人は頭が良くて、愛しの恋人がいるってことだもんね?」

「「「っ……!」」」


 亜里沙にイタズラっぽい笑みを向けられ、蓮、凛々華、夏海は揃って赤面した。

 心愛が思わず拍手をしながら、


「すごい、三人同時攻撃だ〜」

「ふふん、これぞ一石三鳥よ」


 亜里沙が腕を組み、得意げに鼻を鳴らした。

 夏海が、スッと蓮と凛々華に顔を寄せてくる。


「……黒鉄(くろがね)君、(ひいらぎ)さん。私が亜里沙を抑えるから、二人は左右の脇腹をお願い」

「任せろ」


 蓮はニヤリと同意するが——


「れ、蓮君はダメよ!」

「えっ……なんで?」

「だ、だって……っ」


 凛々華は言いよどみ、頬を真っ赤に染めてうつむいた。


(っ……俺が、他の女の子に軽くでも触れるのが嫌ってことか)


 意味を理解した瞬間、蓮の顔が熱くなった。


「結局こうなるのかー!」


 夏海が盛大に叫び、机に突っ伏した。

 すると、近くで食べていた蒼空(そら)が彼女に声をかける。


水嶋(みずしま)。ぼっち同盟、結成するか?」


 冗談っぽいその一言に、夏海はピクリと反応した。


「悪くないっ……いや、そう言って青柳(あおやぎ)君はサラッと彼女作ってそうだから、やっぱりいやだ」

「んなことねーって。そういう水嶋も、ちょっといい感じの先輩いるんだろ?」

「お世話になっただけだで、別に何もないよ」


 夏海が肩をすくめる。その表情に、特に変化は見られない。

 ——それを見て、蒼空がふっと安堵の息を吐いた。


「……ねぇ」


 凛々華がくい、と蓮の袖を引く。その視線が、チラリと蒼空に向けられた。


「かもな」


 蓮は軽くうなずき、ふっと笑みをこぼした。


「って、またイチャイチャしてるー! 会長っ、このままでいいの⁉︎」

「もう、何でもいいよ。あと数日だし」


 会長——結菜(ゆいな)は、呆れたように首を振った。

 亜美(あみ)がぷっ、と吹き出しながら、


「とうとう藤崎(ふじさき)もサジ投げちゃったかー」

「藤崎の毒以外で、あれを中和する方法はない。万事休す——いや」


 莉央(りお)の視線が、一人の男子生徒に向けられた。

 亜美もハッと息を呑む。


「亜美、まだ終わってないかもしれない」

「だね——伏兵・早川(はやかわ)、出番だよ!」

「はっ? 何が?」


 英一(えいいち)が振り向いて、眉を寄せた。


「あんたが、黒鉄と柊に対抗できる最後のピースだ」

「今のあんたに恐れる敵なんていないでしょ」

「いや……そもそも、単純に実力不足だと思うけど」


 英一は軽く肩をすくめた。

 亜美と莉央は顔を見合わせ、


「「確かに」」

「ひどくないかい?」


 英一がすかさずツッコミを入れ、教室は笑いに包まれた。




◇ ◇ ◇




 終業式が終わると、担任の小池(こいけ)による最後のホームルームをもって、一年生のすべての日程が終了した。

 最後にクラスで記念写真を撮った。解散すると、蓮たち六人は電車に乗り継いだ。


「ほらみんな、早く!」


 最寄駅に着くや否や、夏海がリュックを軽く背負いながら、ワクワクした様子で振り返った。


「遅いと混むんだからね!」


 まるで遠足前の小学生のような口ぶりに、残りの五人から笑みがこぼれた。


 駅から十分ほど歩くと、一際大きくてカラフルな建物が見えてきた。複合アミューズメント施設だ。

 ボーリング、カラオケ、ゲームセンターまで入っている大型のスポットで、制服姿の学生たちがちらほらと集まっていた。


「こういうとこ、打ち上げ以外で来るの初めてかも……」


 建物を見上げ、樹がどこか不安げにつぶやいた。

 蓮はニヤリと口角を上げて、


「迷子になるなよ」

「な、ならないよっ」


 むすっとしてみせる樹の前に、隣からスッと手が差し出された。


「いっくん、手繋いでおこっか?」

「こっちゃんまで……!」


 彼はたちまち真っ赤になった。

 亜里沙が前方で振り返り、半眼になる。


「ほら、イチャついてないで早く来なよー」

「はーい!」


 心愛は元気よく返事をして、駆けていった。

 ぽつんと取り残された樹の肩に、蓮はそっと手を置く。


「ドンマイ、樹」

「……うるさい」


 唇を尖らせる様子に、蓮は笑ってしまった。

 その横で、凛々華も口元を押さえてくすくすと笑っていた。




 受付を済ませ、ボーリングのレーンへと向かうと、夏海が手を前に突き出す。


「じゃあ、チーム分けはグーパーで決めよ!」


 手に汗握る前哨戦(ぜんしょうせん)の結果、蓮は心愛、夏海と同じチームになった。

 相手は凛々華、樹、亜里沙だ。


 ジャンケンが行われた結果、凛々華が一番最初に投げることになった。

 やや緊張した面持ちで、ボールを構える。


(凜としてるっていうか……やっぱ、綺麗だよな)


 蓮が半ば見惚れてしまう中、彼女は初球から九本を倒した。


「おぉ、柊さん。かましちゃえ!」


 亜里沙が拳を突き上げる。

 その声援に背中を押されるように、凛々華は残りの一本も確実に仕留めた。


「おぉ、いきなりスペアだ!」

「やるね〜」

「た、たまたまよ」


 次々と贈られる賛辞に、凛々華は澄ましてみせるが、その口元は緩みを隠しきれていなかった。

 蓮は微笑みながら、手のひらを差し出す。


「ナイス、凛々華」

「ふふ、今は敵同士なのよ?」


 凛々華は照れたように笑いながら、ぺしっと手を合わせた。

 それから、心愛、亜里沙、樹、夏海とも順にハイタッチを交わし——最後に夏海がバチン! と一際強く叩いた。


「ちょっと水嶋(みずしま)さん、痛いわよ」

「へんっ、いきなり色々見せつけられたからね!」


 頬を膨らませてみせる夏海だったが、すぐに吹き出した。


「……ふふ」


 凛々華もつられるように、柔らかな笑みをこぼした。




 次の凛々華の番が回ってくると、蓮は横のレーンから声をかける。


「凛々華。スペアのあとは、一投目が大事だからな?」

「わ、わかってるわよ……!」


 真剣な顔でそう答えた彼女は、やや緊張気味に構え——

 レーンの端を滑り、ピンをかすめることなく落ちていった。


「「あぁ……!」」

「「おおー!」」


 凛々華の味方である亜里沙と樹は頭を抱え、敵チームの夏海と心愛は嬉しそうに歓声をあげた。

 凛々華は振り返りながら、じろりと蓮を睨む。


「……兄妹揃って、人を動揺させるのが上手いようね」

「悪かったって。もうしねえよ」


 笑いながら肩をポンポンと叩くと、凛々華はつん、とそっぽを向いた後——ふっと口元を緩めた。




◇ ◇ ◇




「ちょっとこれ……重いかも」


 次の番が回ってきた樹は、自分の使っていたボールを眺めて首を傾げた。

 そして、レーン脇に置かれていた一回り小さなボールを手に取ると、亜里沙がニヤリと笑う。


桐ヶ谷(きりがや)君。それ、心愛ちゃんが使ってるボールだよ」

「えっ……!」


 樹は一気に顔を真っ赤にして、慌ててボールを戻しかける。


「や、やっぱり別ので——」

「変えちゃうの?」


 心愛が小首を傾げ、小悪魔的に微笑んだ。


「っ……こ、このまま投げます……」


 樹は真っ赤になりながら、ボールを構えたが——、


「……まあ、そうなるよな」


 案の定、ガーターに吸い込まれていった。


「ああ〜っ、心愛砲は不発だったかー」

「し、仕方ないじゃん……」


 夏海が残念そうにつぶやくと、樹が口をへの字に曲げた。

 すると、亜里沙が瞳を細めて、


「でも、本体はすでに撃ち抜いてるもんね?」

「なっ……⁉︎」


 樹の顔はそれ以上赤くなる余地がないほど染まり、耳の先まで真っ赤だった。

 まるで、熟れたリンゴのようだ。


「亜里沙ちゃんも悪いな〜」


 心愛がほんのりと頬を染めながら、隣のレーンで投球フォームに入る。

 そして——見事、すべてのピンを倒した。


「おぉ、ストライクじゃん!」

「この流れで⁉︎ すごっ!」


 夏海が勢いよく立ち上がり、亜里沙が手を叩いて笑った。


「……なんか、樹と初音らしい結果だな」

「そうね」


 蓮と凛々華が、ふっと笑みを交わすと、


「悔しいけど、僕もそう思っちゃったよ」


 いつの間にか隣に来ていた樹が、照れくさそうに苦笑した。


「ほら、翌日バースデー男、出番だよー」

「絶妙に語呂が良いな」


 夏海に呼ばれ、蓮は苦笑しながら腰を浮かせた。

 二投目を失敗して、スペアを取り逃がすと、亜里沙がわざとらしく肩をすくめた。


「ま、前日は所詮こんなもんだよね」

「なんかムカつくな」

「まあまあ——楽しみは、明日にとっておきなって」


 亜里沙が蓮ではなく、凛々華に向けてウインクをした。


「っ……」


 凛々華が小さく息を呑み、頬を火照らせた。


(明日、楽しみだな)


 自然と、蓮の口元がニヤついてしまう。


「……蓮君、ちょっとキモいかも」

「うるせえよ」


 蓮は恥ずかしさを誤魔化すため、軽く樹の首を絞めた。

「面白い!」「続きが気になる!」と思った方は、ブックマークの登録や広告の下にある星【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくださると嬉しいです!

皆様からの反響がとても励みになるので、是非是非よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ