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第120話 友人たちに呆れられた

「私たちに気を遣わないで、二人で行って来てもいいよ?」


 それが、プールに誘った際の亜里沙(ありさ)の第一声だった。


「そうそう。遊ぼうと思えばいつでも遊べるしね!」

「遠慮しなくていいよ〜」


 夏海(なつみ)心愛(ここあ)も同意する。


「い、いえ、その……」


 凛々華が気まずそうに口ごもった。

 それだけで、彼女たちは事情を察したらしい。


「あっ、なるほどね〜」


 心愛が意味深な笑みを浮かべると、


「この二人、まだこんなところにいるよ」

「ねぇ。ま、イチャイチャはしっかり見せつけてくるんだけどさ」


 亜里沙はやれやれと肩をすくめ、夏海もわざとらしく口をすぼめた。

 凛々華がバツの悪そうに視線を逸らしながら、


「そ、そんなつもりはないのだけれど」

「だから困るっていうのはあるよね〜」

「っ……!」


 心愛のほんわかしつつも鋭い指摘に、凛々華は赤くなってうつむいた。


(その表情、かわいすぎるだろ……!)


 (れん)は慌ててニヤけそうになる口元を手の甲で覆い隠すが、友人たちには筒抜けだったようだ。

 亜里沙が苦笑いを浮かべ、肩を落とす。


「全く、言わんこっちゃない」

「制服でもこれなのに、水着でしょ? 大丈夫かなぁ」


 夏海が半眼になった。

 亜里沙もしたり顔で腕を組んで、


「それが問題なのよ。この二人だともはや、そっち方面でも危なそう——ぐふっ!」


 亜里沙の脇腹を、凛々華の容赦のない手刀が襲った。

 意外なことに、天真爛漫(てんしんらんまん)な夏海よりも、冷静な亜里沙のほうが「制裁」を喰らうことが多い。夏海と違って揶揄おうとする意思が丸見えであるため、凛々華の反感を買いやすいのだろう。


 凛々華は薄っすら頬を染めつつも、冷ややかな眼差しで亜里沙を見下ろした。


「常識的に、人前でそんなことするわけないでしょう」

「えっ、じゃあ二人きりなら——ごはっ!」


 夏海が脇腹を押さえ、亜里沙の隣に崩れ落ちる。

 ……やはり、どっちもどっちかもしれない。


「凛々華ちゃん、躊躇いがなくなってきたね〜」

「……元から遠慮なんてしてないわ」


 心愛に微笑まれ、凛々華は腕を組んでそっぽを向いた。

 唇を尖らせているが、その耳の先はほんのり赤らんだままだ。


「いや、まあ、無理にとは言わねえけどさ。嫌なら断ってくれていいから」


 蓮は苦笑いを浮かべつつ話題を戻すと、地面に伏していた二人が揃って首を横に振った。


「ううん、別に嫌ってわけじゃないよ。むしろ行きたいし」

「ワイワイ文化祭準備するのもいいけど、たまにはみんなで遊びたいもんねー」

「そうか」


 蓮は安堵の息を吐いて、心愛に目を向けた。


初音(はつね)はどうだ?」

「私も行きたいな〜。けど、逆に黒鉄(くろがね)君は男一人でいいの? ハーレムになっちゃうよ?」

「えっ? あぁ、確かに」


 凛々華と行くことしか頭になかったため、大して気にも留めていなかった。

 こうして喋っている分にはいいが、さすがに水着となると、少し気まずいかもしれない。


(でも、蒼空(そら)は誘いづらいよなぁ……)


 蓮は凛々華にチラリと視線を向けた。

 江口(えぐち)宇佐美(うさみ)であれば気を遣う必要はないが、そもそもこのメンバーとはあまり絡みがない。お互いにやりづらいだろう。


桐ヶ谷(きりがや)君はどうかな? 私たちと一番親交ある男の子だと思うし」


 そう提案をしたのも、心愛だった。


「あっ、いいじゃん!」

「そうしよう」


 夏海と亜里沙が間髪入れずに賛同した。イタズラっぽい笑みを浮かべている。

 蓮が苦笑しつつ凛々華に目を向けると、「いいんじゃないかしら」という簡素な答えが返ってきた。


「そうするか」


 蓮としても異論はない。

 (いつき)は女子が苦手であるため、どうせ来ないだろうと思って選択肢から消していただけだ。


 蓮以外の四人が集まっているときは、樹はあまりグループに加わらない。

 現に今も、他の友人と集まって作業している。


 しかし、夏海と亜里沙の表情を見て、蓮は意外と来るかもしれないな、と思い始めていた。


「じゃあ、行ってくる」


 蓮が樹の元へ向かうのを見て、亜里沙が凛々華に口を寄せた。


「でもさ、(ひいらぎ)さん。本当にいいの?」

「なにが?」

「私はともかく、夏海は陸部だからめっちゃ引き締まってるし、心愛ちゃんはアレだから、黒鉄君が目移りしちゃうかも——えっ?」


 亜里沙の言葉が終わらないうちに、夏海と心愛が左右からその脇の下に腕を差し込んだ。


「な、なに?」


 困惑する亜里沙に、二人は揃ってジト目を向ける。


「亜里沙ちゃん、それはちょっと良くないんじゃないかな〜」

「うん、今のは私でもだめだってわかるよ。ね、柊さん?」

「えぇ、今のは一線を超えていたわ」

「へっ? あっ、いや、ちょっと待って!」


 亜里沙が慌てた表情でジタバタと抵抗するが、夏海と心愛は力を緩めない。

 夏海がニヤリと口角を吊り上げ、


「そういえば柊さん。亜里沙、ビキニ着てみたいらしいよ〜?」

「そう。思いきりつねれば、女の力でも内出血くらいは起こせるのよね」

「ひ、柊さんっ、落ち着いて! アザはシャレにならないから——!」


 亜里沙が本気で焦る中、凛々華はその脇腹に指を添え——、

 思いきり(まさぐ)った。


「いや、ちょ、ちょっと柊さっ……ストッ、あはははは!」


 亜里沙は必死に身をよじるが、両脇からガッチリホールドされている彼女に、逃げ場などあるはずもなかった。


「はぁ、はぁ……」


 凛々華の猛攻から解放されると、亜里沙は床に手をついて荒い息を吐いた。


「亜里沙ちゃんもくすぐり弱かったんだね〜」

「もう、私のことは言えないよ」


 心愛がおかしそうに笑い、夏海も得意げに口の端を歪める。

 ——そんな彼女たちを見て、クラスの男子たちの多くは、だらしなく口元を緩めていた。


「あの四人の絡み、最高だよな……」

「あぁ、柊さんも楽しそうだ……」

「冷たいのもいいけど、やっぱり笑った顔かわいいよな……」

「お、おいっ、それは禁句だぞ!」

「「「あっ……!」」」


 ヒソヒソと話していた男子の一団が、通りかかった蓮を見て、この世の終わりのような絶望の表情を浮かべる。


(そんなことで怒るか)


 蓮は呆れたように笑い、その横を通り過ぎた。

 目的の人物——樹は友人たちとともに、教室の隅で固まって作業している。


「樹、ちょっといいか?」


 集団の中で樹だけを誘うのは申し訳ないため、手招きをして呼び寄せた。


「えっ、プール……⁉︎」


 蓮が用件を告げると、樹は瞳を真ん丸にした。


「無理にとは言わねえけどさ。俺も男一人だとちょっと気まずいし、樹が来てくれると嬉しいんだけど」

「いや、ちょ、ちょっと待って……っ」


 樹はしばしの間、うんうんとうなっていた。


「えっと……誰が来るんだっけ?」

「凛々華と初音、水嶋(みずしま)井上(いのうえ)だ」

「そっか……」


 樹はもう一度、視線を伏せたが、そこから決断までは早かった。


「……行きたい、かな。もちろん、他のみんなが嫌じゃなければだけど」

「大丈夫だ。みんなで樹も誘おうって話になったから」

「そ、そうなんだ。良かった……」


 樹がホッと肩の力を抜き、口元を(ほころ)ばせた。


「じゃ、そういうわけで、また連絡するよ」

「うん、ありがとう。——でもさ、蓮君」

「なんだ?」


 蓮が振り向くと、樹が瞳を細めて、


「二人きりじゃ、ないんだね?」

「っ……」


 蓮は反射的に首を絞めそうになり、すんでのところで思いとどまる。


「……えっ?」


 防御体勢に入っていた樹は、間の抜けた声を漏らした。

 蓮はふっと笑みを浮かべて、


「樹、一つ言い忘れてた」

「えっ、なに?」

「お前を誘おうって言い出したの、初音だから」

「へっ? な、なっ……⁉︎」


 樹は一瞬で真っ赤になった。口をパクパクさせるだけで、声にならない」

 動揺しきっているその様を見て満足感を覚え、蓮はその場を後にした。


(なるほど、確かに面白いな)


 夏海や亜里沙が、脇腹チョップのリスクを冒してまで凛々華を揶揄う気持ちが、少しわかった気がした。

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