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文学

窓辺に会話、正方形の床

作者: 緋西 皐

「なにやってもうまく行かなかったな~。将来の夢とかなりたい自分とか、色々頑張ってみたんだけど、全部うまく行かなかったわ」

「そうだな。立派なスーツや高い時計つけてたりしてないな。まるで小学生だった時と変わんねえな」

「なんだよ、少しはまともになってるだろ」

「まともな奴はもっとプライドとか大人びたなんかがあるんだよ」


平らな球の中、針はゆっくり回る。


「もっと勉強しとけばよかったな~、なんて言うと煙たいよな」

「なんだよ、お前結構頑張ってただろ」

「さっきは頑張ってないっていったのに、どうした急に?」

「そりゃこっちが言いたいよ。色々頑張ったんじゃないのか?」

「いや、そうだけど結局なんにも身にならなかったし、意味ないのかなって」

「確かにうまく行かなかったが、次の経験になる。努力は無駄じゃない。ってことだろ。ほら、運動場の砂取って来いよ」

「それでお前を埋めてやろうか」


大きな砂場に聳えていた連なる白の枠組みはもはや錆びついてしまった。


「そういえば泥団子よく作ってたよな。あれなんでなんだ?」

「なんでって、そんなの知るかよ。ただ楽しかったんだよ。それじゃダメなのか。まさか、俺が団子職人に憧れてるとでも思ったのかよ」

「だってお前馬鹿みたいに作ってたし、一年中ちっこい砂場で泥まみれになってさ。汚かったし変態だったぞ」

「お前にはそう見えてたのかよ。でもただ楽しかっただけなんだよ。別に誰かに食べさせようなんかじゃなく。ああでも、強いて言うならここは雪が降らなかったからかもな」

「雪?」

「そうそう、めったに雪降らないから雪だるまとか作れないだろ」

「でも泥が雪になるわけないだろ」

「そりゃそうだけどさ、ちょっとでも雪を実感したかったんだよ。たぶん」


今や砂の山は見る影もなく、砂利に埋められている。


「説明できない事実って偏見と変わらないんじゃないかな~」

「急にどうした?」

「なんか思い返すとさ、みんな頑張って勉強していい大学って目指してたけどさ、なんで頭良くなったら幸せになれるの? とかさ、誰も理解できてなかったと思うんだよな」

「あー胡散臭い話になってきた。やめろやめろ、馬鹿な俺にはわからん」

「そうだよな。今更だよな」

「だな。今更何反省したって仕方ないし、そもそも何も知らない子供にそんなの理解できたわけないだろ。てか、周りの大人だってわかってなかっただろうし」


逆上がりの台のある小さな鉄棒と手も届かなかった鉄棒の色は同じだった。それは今も変わらず。


「てかお前太ったよな。野球やめたのかよ? 違うか、むしろ野球やってたから太ったのか」

「おい、確かに太ったけど、別にいいだろ」

「今なら俺のほうが足速いんじゃないか?」

「うわ、ずる賢いな。そういうとこ変わんねえ。でも野球だったら負ける気しないな」

「なんだよ、それ。全部ホームラン打つ気か?」

「そうだな。余裕で」

「でもってその後は走らずに代走だろ?」

「もちろん。ベンチで野球観戦するだけな」

「なんか食いながらか?」

「もちろん」

「それはそれで汚いだろ」

「でもお前さっき泥まみれで汚いって言ってたから、それは矛盾してんな」

「うっさいな」


窓辺に会話は正方形の床を少しばかり丸くしていた。きっと年月による風化のせいだろう。

それは美徳でも名誉でもない、風の音だった。




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