戦略の女神アテナをわからせる
真っ白な空間にいて、満たされた水の上に浮いているような気がした。
小学校のプールとかでやったことがあるので覚えてる。人体は水に浮く、他の利用者があまり周りで騒いでない時などに、力を抜いて仰向けで漂ってみたことがある。
「あの使用済みスク水も高く売れたなあ。あ、しゃべれるんだ♥」
その通りのようだった。
上体を起こすと、いつの間にか砂浜に寝ていた。寄せる波打ち際で、スカートとショーツが濡れた。
「最悪、着替えたばっかなのにびしょびしょ♥ てか何これ♥」
立ち上がって愚痴る。
「もしかして、死んであの世的なところに来たとか?♥」
周りを一瞥しての第一印象だ。
ビーチの向こうには街がある。低めの城壁に囲まれた、石造りの中世ヨーロッパ風な建物の列。
時間的には早朝なままらしい。薄暗いので全貌は窺えないが、中央に城と教会を融合させたような構造物さえ窺えた気がした。
「これは愛らしい女神だな」
後ろから凛とした声が言う。
振り返ると、そこには西洋甲冑を身につけた長身長髪の凛々しい白人美少女がいた。十代後半くらいで、どことなく厳しい印象を与える。
「あんただれ?♥」
「このアテナを存ぜぬというのか?」
不機嫌そうに顔を歪め、彼女は言う。
「……なるほど、気配を探れば貴様からはたいした女力も感じん。新人の候補者というわけだな」
「目力?♥」
「おそらく勘違いしている、目の力でなく女の力と書いて女力だ。詳しく教えてやるほど暇ではない」
首を傾げて問う璃里音に構わず、アテナは小走りを開始。横をすり抜けつつそっけなく言及した。
「早朝ランニングの途中だ、世話なぞせん。街にでも行って他の女に頼れ」
「待ってよ、ざこお姉さん♥」
「……ざこだと?」
よほど気にくわなかったのか、足を止めてアテナと称した美少女が振り返る。
「聞き捨てならんな。確かに、母なる海が打ち上げたならば才能はあるはずだが。さりとて、戦略の女神アテナたるおれを雑魚と侮るなぞ身の程知らずも甚だしい。試してやろうか、ハンデとして貴様の得意ジャンルで勝負してやる」
来た、見た、やった♥
数十分後。
璃里音の前に跪いて乱れた服装のアテナは頭を垂れていた。
「はあはあ、ふ、不覚。このおれが何度も昇天させられるとは」
「あたしも気持ちよかったけど、あなたの方がいっぱイッてたよね。こっちの勝ちでいい?♥」
璃里音も乱れた着衣を直しつつ問う。
「まさかその外見でこんな戦いを挑まれるとは想定外だったが、これで敗けを認めねば往生際が悪かろう」
すっかり女児にわからせられた女神であった。
「そなたは性愛の女神候補と見受けた。敗北者として、何か要望があれば一つ叶えてやる」