撮れ高(こんとらくと・きりんぐ)
うわあ!
そんな声がして、一秒遅れて、人が落ちてきた。
アスファルトに頭から落ちてきた、作業服に工具を入れたベルトをした男。
頭から血がひと筋、つつ、と排水口を探して彷徨い流れる。
駅前の、朝の道。
助けるわけでもなく、朝に食べたものを吐くわけでもなく、したことは――、
パシャ! パシャ!
「撮れ高いただきました」
スマートフォンで撮影だった。
「すげーもん撮れた」
雄一はクラスメートに朝に見た落下現場を見せてまわる。
「ひでー」
「これ、生きてんの?」
「わからん」
「わからんてw」
「救急車は?」
「誰かが呼ぶだろ」
帰り道の路地。
人が倒れていて、壁に脳みそと骨片とどす黒い血の混じったものがべったりと飛び散っている。
「うわ。ひで」
雄一はスマートフォンを取り出して、倒れた人間を撮影した。不思議なものでスマートフォンを介してみた脳みそは本物には見えない。
パシャ! パシャ!
次に壁に飛び散った脳みそを写す。
「え? これ、マジで。脳みそ? うげー。ばえるw」
次にそばに立つ人物を写す。
パシャ! パシャ!
スマートフォンを介して見たサイレンサーをハメた銃は本物には見えない。
「すげー、マジ? これ、銃。殺し屋じゃね……へ?」
カメラモードのなかでショートヘアの少女、または長髪の少年に見える殺し屋がにこりと笑いかける。
銃を向ける。
「あ」
パスン。
「うわー、マジ?」
通行人たちはふたりの射殺体をスマートフォンで撮影する。
「これ、銃でやられたの?」
「私人逮捕系ビューチューバーはなにしてんだよw」
「なあなあ。こいつの制服、東校のじゃね?」
「ほんとだ。東校だ」
「こりゃ全校集会間違いなしだな」
「おれたちのとこだって、そうだ」
「ぎょえ。でも、まあ、撮れ高いただきました」