君の瞳に宿る無数の輝きの一つに入れてくれたら
会場全体が訓練の成果を発揮する形で、君を表した色に染まる。
規則正しい光の群れが左右上下、そして君が高らかにあげる拳のリズムに合わせて前進していく。
僕も君の歌声に合わせて輝きを体力が続くかぎり振り続ける。
昔、読んだ小説を思い出す。
夢の国の住人は疲れを見せることなく、延々と手を振り返し続ける。それがお前にできるか。五分も手を振り続けるだけで腕が悲鳴を上げ始めるぞ。
おぼろだが似たようなことが書いてあった気がする。手を振り続ける職種なんてそうそう巡り合わないだろうと、学生の僕は半分者に構えて笑っていた。
けれど今になって痛感する。僕は決して夢の国の住人側ではない。
しかし腕を真っ直ぐに伸ばして約二時間近く手を振り続ける行為は、想像もできなかった彼等の疲労を実感している気がした。
(体力なんかないし、腕だって感覚がないくらい痺れているし、汗はすごいし、暑くて朦朧とするし)
君がアイドルじゃなきゃ。僕の生きる道標じゃなきゃ。
蛍のように懸命に輝きを照らし続けていない。
ソロパートが終わり、綺麗に尖った顎から汗を滴らせながら君が背を向けた。
途端、遠隔操作で管理されているペンライトが、心移りするように次のメンバーのカラーに彩られる。
それでも僕は掲げたペンライトを下げず、ただ一人君のために振り続ける。
絶対に想いが返ってくることはない。
目が合うなんてことはない。
君はただ唯一輝ける舞台の上で“アイドル”としての確立する“欠片”を眺めているだけだ。
そんな君だから僕は“推し”ている。
他パ―トでも抜かりのない君のダンスが、眩しくて眼鏡のレンズがちかついて反射した。
あぁ生きている。
ヒメカの輝きで僕は今この瞬間を“生きている”って感じられる。
手を振る姿が見えなくても、振りかざした光が瞳の輝きの一部になれたら。
(そして輝く世界からこちら側に振り向いてくれたら)
それだけで手を振り続けた疲れを忘れるほどに報われるのだから。