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サキュバス、サウム!

 腹から血が止めどなく溢れてくる。

 一緒に熱が抜けていくようで、気持ち悪いくらいに悪寒が全身を駆け巡る。

 これはマズイ。本当に死んでしまう。


「わたくし、偉そうな男が大嫌いですの」


「ス、スーノ」


 唖然としていたスーノはハッとして、杖から光を放った。

 回復魔法だ。まるで時間が戻ったかのように、傷が塞がり、痛みも和らいでいった。

 すでに失われた生気も回復したようで、俺は咄嗟にサキュバスから距離をとった。


「ありがとスーノ。ウェスタにも!」


「は、はい!」


 ウェスタも生気が戻り、同様に後退する。


「あれが噂のエナジードレインってやつなのね。ねえスーノ、魔法であれ防げないの?」


「魔法なら防衛魔法で防げます。でもサキュバスさんのエナジードレインは魔法ではないのです! 悪魔族が各々持っている能力。ヘビが温度を探知できるように、特技なのです。同等以上の悪魔でないと弾くことはできません」


 無条件で相手を弱体化するのか。

 理屈はどうあれ、エナジードレインとやらを掻い潜る手段を考えないと。

 十中八九、目が光るのが発動の合図なのだろうが。

 思考を巡らせていると、サキュバスがスーノを睨んだ。


「ヒーラーですのね。面倒ですわ」


 サキュバスが一気に距離を縮めてくる。

 狙いはスーノだ。まずい、あの子がやられたら勝ち目がなくなってしまう。


「生気、いただきますわ!!」


「ひっ!」


 瞬間、サキュバスの目が光る前にウェスタが立ちふさがり、思いっきり蹴り飛ばした。

 さすがの反射神経!


「くっ!」


 諦めず、サキュバスがまた突っ込んでくる。

 またウェスタが対応しようとしたが、


「倒す手段はいくらでもありましてよ!」


 サキュバスはそのまま突進し、ウェスタとスーノを吹っ飛ばした。

 スーノは壁に打ち付けられ、気を失ってしまったようである。


「スーノ!!」


 いよいよ険しいな。

 くそっ、やっぱり生き急いでんのかな俺。

 謙虚にキノコ狩りでもしてろって?


「安心なさい。わたくし女の子には優しいんですの。命までは奪いませんわ」


 ウェスタ共々、サキュバスから離れる。

 何か手はないか。

 やつの弱点はなんだ? また生気を吸われたら終わりだぞ。


 そういえば、こいつはなんでわざわざ突進してきたんだ?

 エナジードレインには、有効範囲がある。ということなのか。

 何メートルなのだろう。そもそもあの目の光りを目視しなければ大丈夫なのか。


 ダメだ、試している余裕はない。確実に判明している、有効範囲があるという事実を上手く利用するしかない。

 しかし俺もウェスタも遠距離攻撃なんぞできないぞ。

 ……まてよ。


「ウェスタ、ちょっと」


 小声でウェスタに指示をだす。


「なにそれ、勝率は?」


「三割」


「ぬー、でもやるしかないわね。私、大口叩いてまったく活躍できていないし」


 ウェスタの決意が固まると、サキュバスが俺たちを嘲笑した。


「作戦会議は終わりですの? さあなんでもやってごらんなさい。人間風情では高貴なる悪魔に勝てぬこと、身を持って教えてあげますわ」


「その前に一つ、質問がある。どうして人々の生気を吸うんだ?」


「食事の代わりでーー」


 言い終わる寸前でウェスタが槍を構えて突進する。

 サキュバスは驚きながらも、


「浅はかですわね」


 後退するが、ウェスタが追撃を仕掛ける。

 さすがはフィジカルに自信があるようで、間一髪攻撃をかわされながらも、素早い槍さばきで次々とかすり傷を与えていく。

 サキュバスは防戦一方といった具合で、ロクに反撃ができていない。

 なるほど、エナジードレインの発動には僅かながら時間が必要なようだ。いまさら作戦に影響はないが。


 このまま長期戦に突入すれば勝てるのかもしれないが、万が一にも隙きを突かれてエナジードレインを発動されたらオシマイである。

 ならやはり……。


「ウェスタ!」


 合図をすると、ウェスタの動きが止まった。


「いまですわ!」


 サキュバスの目が光る。ウェスタの生気が一瞬にして吸われていく。

 離れた位置にいた俺は無事だ。

 さあ来たぞ。待っていたんだこのときを。


「あぁ、いまだな!!」


 目が光っているその刹那、俺は剣と鞘をサキュバスに投げつけた。

 遠距離攻撃ができなくとも、投げるものならいくらでもある。


 刃が貫通することはなかったが、突然の投擲にサキュバスは怯み、目を閉じる。

 その機を逃すまいとサキュバスをタックルする形で押し倒す。

 さらに手で目を覆い、懐に忍ばせていたナイフを突きつけた。


「勝負ありだ。下手な真似をすれば即切る」


「……くっ」


 思ったとおり、目を閉じてしまえばエナジードレインは使えないようだ。

 生気を吸われ、ぐったりとしているウェスタが、ちょっぴり笑う。


「や、やったわね」


 興奮と歓喜が押し寄せる。

 勝ったのだ。Bランククエストの悪魔に。ひよっこの俺が。

 それもこれも、ウェスタとスーノがいてくれたからこそ。パーティーを組んで大正解だ。


「人間ごときに、負けるだなんて」


「エナジードレインに頼りすぎたな」


「ふっ、命乞いはしませんわ。好きになさい」


「そうか。なら俺のパーティーに加わってくれ」


「……は?」


 これからどんどん難しいクエストに挑むつもりなのだ。

 強制的に弱体化させる力は、ぜひとも欲しい。


「仲間になれと?」


「そういうこと」


 ウェスタが弱りきった声を絞り出す。


「あんた、なに考えてんの。こいつは悪魔よ。裏切るに決まってる」


「裏切らないさ。高貴な悪魔様は助かりたいがために人間如きに嘘はつかない。だろ?」


 サキュバスが鼻で笑った。


「煽りますのね。しかしわかっていますの? 悪魔を仲間をするということは……」


「なんだろうと構わない。俺はさっさとドリングス迷宮を攻略したいんだ」


「なぜそこまで……」


「どんな願いでも叶える玉。そんなものがあるからいろんな冒険者たちが挑んで、死ぬ。俺の父さんのように。だから消してやるのさ、その玉を。もう、誰も迷宮に挑まないようにするために」


 ウェスタたちには黙っていた本音だったが、勝利の高揚感に酔うあまり、つい口にしてしまった。

 これを聞いたウェスタはどんな反応をしているだろうか。気になって一瞥したが、それどころじゃないかのように酷くやつれていて、感情が読めなかった。


 サキュバスが頷いた。


「いいでしょう、仲間になって差し上げます。どのみち、負けてしまった以上、わたくしに決定権はありませんし。それに」


「それに?」


「わたくしは自分より強い殿方が大好きですの♡ 一生お仕えしますわ♡」


「そ、そりゃよかった」


 目を覆っていた手を離し、剣を収める。

 サキュバスのつぶらな瞳が、俺をじっと見つめた。


「悪魔に仲間になれというのなら、契約を果たさねばなりませんわね」


「契約?」


 途端、サキュバスはぐっと顔を近づけ、俺と唇を重ねやがった。


「!?」


「仕える代わりに、あなたはわたくしと運命共同体になる。それが契約ですわ」


「……」


 うわーびっくりした。

 サキュバスにファーストキス奪われちまった。

 運命共同体ってなにを勝手に抜かしているんだこいつは。俺がなってほしいのはただのパーティーメンバー。下僕がほしいわけでも恋人になってほしいわけでもない。


 とはいえ、ここで拒絶してはメンバーになってくれないだろうな。

 うーん、まあいいか。仲間になってくれるならそれで。

 よく見ると美人だし。美人に好かれるのは気分が良いし。


「契約を交わしたことにより、わたくしはあなた様が生きている限り、無制限にこの世界に留まれますわ。わざわざ人間の生気を吸う必要がなくなりましたの」


 なるほど、街で悪さをしていたのは、この世界に留まりたいからだったのか。

 悪魔は普段、魔界にいると聞いたことがある。どんな世界かは知らないが、こっちの世界の方が過ごしやすいのだろう。


「そりゃ、よかった。俺はセント、これからよろしく」


「サウムですわ。ところで、他の女性たちはあなた様のなんですの?」


「パーティーメンバーだけど?」


「それはよかったですわ。もしあなた様の女だったとしたら、いくら女の子でも嫉妬で殺していましたから」


「え」


 こいつヤンデレ属性だったのかよ。

 ていうか負けた途端に態度変わりすぎだろ。

 さっきまで男を見下す生意気な女だったのに、チョロすぎんだろ。


「サキュバスは一度仕えると決めた相手には、とことん尽くすのですわ。他の虫が寄り付かないように」


「あ〜、わ、わかった」


「はぁ、わたくしより強い男。かっこよくて素敵ですわ♡」


 サウムがもう一度俺にキスをしてくる。

 柔らかい唇と良い匂いちょっと興奮してしまう。


 呆れ気味に、ウェスタがため息を付いた。


「人がふらふらなのに、なにイチャついてんのよ」


「あ、ごめん」


 そうだ。スーノも起こさないと。

 そういえばスーノ、俺のこと好意的に見ているけど、サウムの嫉妬心を刺激したりしないよな?

 別にスーノが俺を恋愛的な意味で好きになったわけじゃないんだし、大丈夫か。


 こうして、サキュバスのサウムがパーティーに加わった。

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