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謎の敵

 ムテキングスライム城自体は大した難易度ではない。

 道中現れるザコ敵、小賢しい罠、面倒くさいけど、そのぶんあちこちに回復薬が落ちているので苦ではない。

 しかしボスであるムテキングスライムは……前述の通り、超強い。


 以前、イステが城ごとふっ飛ばしたことがあるが、あれが正当な攻略法なんじゃないかって思うくらい強いのだ。


「この先に、ムテキングスライムがいる。気を引き締めていこう」


 廊下と謁見の間を隔てる大扉の前で、みんなの気持ちを一つにする。

 前回は扉を開けて一〇秒で全滅した。


「アップちゃん、平気か?」


「ぜんぜん大丈夫でみゅ! どーんとこいでみゅ!!」


 アップちゃんが獲物のハンマーをブンブンと振り回す。

 ちなみに、彼女はウェスタの紹介通りの強さだった。

 とても八歳とは思えぬ腕力で、ザコ敵をボッコボコ。

 たぶん、一対一なら俺はこの子に勝てない。


「扉を開けたら、分散して取り囲もう。牽制しつつ、隙きを見てサウムがエナジードレイン。わかった?」


「了解ですわ!!」


 他の子たちも「うん」と頷いた。

 よし、やるぞ。


 そう気合を入れて扉を開けると、謁見の間の玉座に、見知らぬ人物が座っていた。

 仮面をしているが、体つきと長い髪から、女性だとわかる。

 なによりも驚くべきなのは、彼女の傍らで、ムテキングスライムが伸びていること。


 スーノが小声で問いかけてくる。


「セントさん、他のパーティーさんでしょうか」


「いや、クエストが被らないよう、酒場が管理しているはずだ」


「じゃ、じゃああの人は……」


 途端、アップちゃんが仮面の女に突っ込んでいった。


「こいつがムテキングスライみゅでみゅね!!」


 どう見ても違うじゃん。


「うりゃあああ!! 牽制でみゅうう!!」


 急接近してハンマーを振ることを牽制とは言わねえよ。

 

「待てアップちゃん!!」


「わちしのハンマーを食らうでみゅう!!」


 すると、仮面の女は片手でハンマーを受け止め、取り上げて、軽くデコピンをした。

 さすがに子供には酷い反撃しないか。

 アップちゃんはデコピンを食らい、わんわんと泣き出してしまう。

 しょせんはガキか。


 女がこちらを向いた。


「それが、あなたのパーティー?」


「なんだ、お前。何者だ」


「私の視線に気づいたのは赤髪の子だけ、情けない」


「じゃあ、あの視線はお前が!? 俺たちに何のようだ!」


「いまは……まだ……」


 仮面の女が小さな玉を足元に投げつける。

 煙玉のようだ。視界を封じて攻撃を仕掛けるのか?


「みんな、固まれ!!」


 それから数秒経っても、女は何もしてこない。

 煙が晴れると、あいつの姿はなくなっていた。


「なんだったんだ、あいつ」


「それよりアップちゃん、大丈夫?」


 ウェスタが駆け寄る。


「うえーん! 痛かったでみゅ〜!」


 スーノがよしよしと頭を撫でる。

 さて、なにはともあれクエストは終わった。ムテキングスライムはあの女が倒したんだろうが、俺たちの手柄にしてもいいだろう。

 あいつ、まさか一人でムテキングスライムを倒したのだろうか。他に誰かいた形跡はないし、おそらくそうなのだろう。

 とすればかなりの実力者。ギルドマスタークラスと見て間違いない。


「んで、どうだアップちゃん。もう家に帰るか?」


「……いやでみゅ。絶対にギルドマスターになるんでみゅ!!」


「まったく……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 結局、あの女は何者だったのだろう。

 あれからウェスタは視線を感じていないらしい。

 俺たちを監視して、何の意味がある。

 視線に気づいたのは赤髪の子だけ、この発言からするに、特定の誰かではなく、俺たちのパーティーそのものを見ていたわけだ。

 まさか、俺たちの仲間になるかどうか見極めている、とか?


 わからないな、不気味だ。

 おそらくかなり強いってのが、余計に不気味。


「あーもーめんどくせえ」


 宿のベッドに寝転がり、枕元にあった本を手に取る。

 効率的な牧場経営、という本。

 実は、俺の実家は牧場なのだ。いまは母とお手伝いが切り盛りしている。

 ドリングス迷宮を攻略したあとは家に戻り、牧場を引き継ぐつもりだ。


 集中力がなくなり、まぶたが落ちかけたころ、宿の主人が俺の部屋にやってきた。

 なんでも、俺への客人が来ているらしい。


 夜も更けてきたというのに、いったい誰だ。

 ホールに降りてみると、三〇代前後の男性がいた。


 俺を見るなり、深々と頭を下げる。


「えっと〜、どちら?」


「私、アップちゃんの父親でございます」

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