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リセット

 どうやら俺は、賢者の書を得る代償として、人物に関する記憶が失われたらしい。

 仲間も、家族のことも一切思い出せない。


 スーノとかいうエルフが賢者の書を開く。

 呪文を詠唱し、回復魔法を発動すると、赤髪の少女が目を覚ました。

 たしか名前は、ウェスタだったか。


「ん……ここは……」


「ウェスタさん!! 助かってよかったです!!」


 スーノが大袈裟に泣き出した。

 それほど大事な仲間だったのか。

 パーティーメンバーを助けるため、地下城に入ったのは覚えている。誰を助けるためだったか忘れていたが、この赤髪の女らしい。


 にしても、女しかいないのは若干肩身が狭いな。

 イステなる竜人は、クエストクリアの報告をしに王都へ帰ってしまったし。


 事態が読み込めていないウェスタに、スーノとサウムが説明していく。


「じゃあ、セントに命を救われたんだ。ありがとう、セント」


 スーノとサウムが気まずそうに顔を見合わせた。

 まだ、記憶が消えたことは話していない。


「ウェスタさん、実は……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 王都へ帰る馬車の中、事情を知ったウェスタを含めた三人が、改めて自己紹介をしてくれた。


 槍使いのウェスタ、パーティーでは最前線で戦っていたらしい。

 エルフのスーノ、回復魔法を担当。

 サキュバスのサウム、相手を問答無用で弱体化させるエナジードレインの使い手。そして俺の恋人だとか。


「ふーん。イステはどんなやつなの?」


「お喋りで愉快な竜人ですわ。とても強く、実力はギルドマスタークラス以上ですわね」


「なるほどね」


 サウムが泣き出しそうな顔で俯く。


「セント様、本当にわたくしの事を忘れてしまったのですか?」


「うん」


「うぅ……で、でもこれからまた関係を作っていけばいいんですわよね!!」


「そうだね」


 にしても、こいつら妙だな。

 正確にはウェスタとスーノだ。

 ウェスタは俺とスーノを、スーノは俺とウェスタを。それぞれ何か言いたげな表情でチラ見しまくってる。


 話せないような秘密でもあるのか?


 王都に到着したのち、俺は三人と別れてイステを捜した。

 最後のパーティーメンバーだ。彼の口からもいろいろ情報を得たい。


 酒場に寄ってみると、イステはすぐに見つかった。


「お、セント! どうだ? 記憶戻った?」


「そのことで聞きたいことがある。あの女の子たちのこととか」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 お喋りなイステはすべて話してくれた。

 スーノはエルフではなくダークエルフであること、ウェスタが仲間の仇であること。

 前の俺はその秘密を隠すため、お互いをダークエルフ恐怖症ということにしたこと。


 あの何か言いたげな顔は、その件についてだったのだろう。ウェスタは(スーノは)ダークエルフ恐怖症だから話題に出しちゃダメ。と伝えたかったわけだ。

 嘘なのに。


 そしてこれは謎なのだが、スーノとサウムは互いに男だと勘違いしているらしい。

 どうでもいいが。


「それで、俺は死んだ親父の無念を晴らす、ていうか親父みたいにこれ以上死人がでないよう、ドリングス迷宮を攻略して、願いを叶える玉を消し去ろうとしていたと」


「そういうこと」


「ふーん。いくら親とはいえ、もう知らない人間だ。そんなやつの無念を晴らすのは面倒臭いな」


「おー、ドライだね」


「ま、せっかくここまで来たんだ。ドリングス迷宮攻略は目指すよ。親父がどんな願いを叶えようとしてたかわからないけど、家を金持ちにでもしとけば満足するだろ」


 親父を蘇らせる? ありえないね。せっかく願いが叶うんだ。もっと有益なことに使いたい。


 そうじゃなくても、願いを叶える玉なら、所持しておいて損はない。


「んじゃこれまで通りでいくんだ」


「まーね。わからないことがあったらまた教えてくれよ」


「おっけー」


 さて、どうしたものか。

 話を聞く限り、俺のパーティーは強いが、明確な弱点があるな。


 ウェスタとスーノの関係。もし秘密がバレたら、スーノはウェスタを殺そうとするだろう。

 しかし十中八九、スーノは負ける。そうなれば彼女は、黙っていた俺への怒りとウェスタへの恨み、負けた悔しさからパーティーを抜けてしまうに違いない。


 それだけは何としても避けないと。貴重な回復役だ。


 以前の俺は関係維持のため苦労したみたいだが、簡単な話じゃないか。

 秘密がバレる前にウェスタを消せばいい。

 戦闘面ならイステがいる。あいつがいなくても問題はない。


 適当な理由を作ってパーティーから追放する、では他の女から顰蹙を買ってしまうか。

 殺すにしても、俺が犯人だとバレたらおしまい。真正面から戦って勝てる確率も低い。


 上手いこと、完全に事故に見せかけて殺せたらいいんだが。

 まったく、こんなことなら賢者の書なんて貰って即焼き捨てればよかった。


 あいつらは所詮、目的を達成するための道具。役立つために存在するのであって、手間を増やすためには存在していない。

 役に立たない道具なら、捨てるまで。


「どうしたセント、怖い顔してるぜ?」


「別に」


 以前の俺は、何故ウェスタを殺さなかったんだろう。

 親父の死をきっかけに情でも芽生えたか?

 どうでもいいけど。

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