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一難去ってまた一難

 ゴブリンが俺の剣を拾い上げた。

 先ほど足を挫いた際に落としてしまったものだ。

 三匹の小さなゴブリンたちが徐々にこちらに近づいてくる。逃げ出したいのはやまやまだが、足が痛くて走れそうにない。


 それに、こんな森じゃあ叫んでも助けなんてこないだろう。


「やっぱり一人じゃ無理だったのか」


 剣を持ったゴブリンが切先を天に向ける。

 どうやらここまでのようらしい。

 そう諦めたそのとき!


「おりゃああ!」


 槍を持った赤髪の少女が空から舞い降り、ゴブリンたちを瞬く間に全滅させたのだ。

 ふぅ、と一息ついて、その子が俺を見つめる。


「危ないところだったじゃない」


「あ、ありがとう」


「別のクエストでこの森に来てなかったら、死んでたわよ、あんた」


「本当にありがとう、助かった……。ほ、ホントに死ぬかと思った」


「ていうか、一人? 仲間は?」


「いない」


「ギルドランクは?」


「Dなんだけどさ」


「背伸びしてCランクのゴブリン退治のクエストを受けてみたってわけ? 素直にキノコ狩りクエストでもしてればいいのに」


「はやくギルドマスターになりたいんだ。最難関のクエスト、ドリングス迷宮を攻略したいから」


 どんな願いも叶う玉が眠るとされる迷宮で、かつて俺の父が挑み、亡くなった。

 その敵討ちじゃないけれど、父さんの無念を晴らしたい想いはある。

 そのために、遠路はるばる田舎から首都に上京したのだから。


 赤髪の少女がニヤリと笑った。


「これまで誰も攻略できてない迷宮をねえ……。いいじゃない、気に入った。仲間になってあげる」


「ホント!? すごく助かる!!」


「私も一人でやるの飽きてたしね。ちょうど仲間を探してたのよ。……私はウェスタ。ランク昇格の手続きサボってCランクだけど、実力はAランクよ。なんせ、あのダークエルフ撃滅クエストに参加していたんだから」


「おぉ〜」


 ダークエルフといえば、人の村を襲ったり、森に迷い込んだ人間を食べたり、悪行限りを尽くす種族だ。

 何世代にも渡って和解策を講じてみたが、すべて無意味。

 ついには業を煮やした国家政府によって正式に殲滅クエストが下され、多くの実力者が手を組み、ダークエルフたちを一掃したというのは、田舎に住んでいた俺の耳にも入っている。


 しかも、メンバーは自由参加ではなく、国によって選ばれた者だけ。

 つまりこいつは、政府機関公認の凄腕冒険者ってわけだ。


「俺はセント。よろしく」


 こうしてウェスタがパーティーに加わった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 翌日、俺はウェスタの助言通りDランククエストのキノコ狩りでコツコツ功績を上げることにした。

 彼女は参加していない。家の手伝いがあるらしい。

 まあ、ウェスタがいなくてもキノコ狩りくらいなら俺にだってできるだろう。


 昨日ゴブリンと戦った森で、珍しいキノコを採取していく。

 そのとき、遠方から少女の悲鳴が聞こえてきた。

 急いで駆けつけてみれば、昨日の俺よろしく、フードを被った子が、三匹のゴブリンに襲われていたのだ。

 しかも完全に腰を抜かしているようで、足を挫いた昨日の俺のように逃げ出せずにいる。


 もちろん、助けるに決まってる。

 昨日は殺されかけたが、後ろから奇襲をかければ勝てるはずだ!


「てりゃあああ!!」


 ロクに剣術を習ってないド素人戦法であるが、とにかくがむしゃらに剣を振る。

 目論見は正しかったようで、俺は見事、三匹のゴブリンを倒すことに成功した。


「あ、ありがとうございます」


「ふぅ……。も、もう大丈夫だよ」


「お、お強いんですね!」


「そんなことないよ。運が良かっただけ」


 少女は「はぁ」とため息をつくと、丸っこい瞳から涙を流した。


「無謀だったんですね。DランクなのにいきなりCランクのクエストに挑むなんて」


「え!? 君も!?」


「君もって?」


「俺もちょうど昨日、おんなじ失敗してさ。仲間の女の子に助けてもらったんだ」


「そう、だったんですね……」


「早くギルドマスターになって、ドリングス迷宮に挑みたくて」


「わ、私もなんです!!」


「うそ!?」


「なんでも願いが叶う玉が欲しくて。き、気が合いますね!」


 これは……もしかしてチャンスなのではないだろうか?

 みたところ、この子は一人でクエストを受けている。つまり、昨日の俺とまったくもって同じなのだ。

 となれば、新たなパーティーメンバーに加えることができるかもしれない。

 俺が提案する前に、少女が口を開いた。


「あ、あの! もしよかったらこれからも一緒にクエストを受けてくれませんか?」


「もちろん! こっちこそ頼みたいぐらいだよ。えっと、一応聞いておきたいんだけど、特技とかある?」


「白魔法、つまり回復魔法が使えます」


「ヒーラー!?」


 いいぞいいぞいいぞ!!

 俺は剣士、ウェスタもバリバリの戦闘タイプ。パーティーに入ったあと教えてもらったけど、魔法が使えない代わりにめちゃくちゃフィジカルが優れてるらしい。

 そこにヒーラーが加入すれば、申し分なしじゃないか。

 ほしい、ぜひともパーティーにほしい!!


「若いのにすごいね。魔法が使える冒険者なんて限られてるのに」


「いずれは黒魔法も習得していくつもりです」


「いいねー」


 白魔法が回復系なら、黒魔法は攻撃系の魔法にあたる。

 魔法による遠距離攻撃ができるようになるなら、パーティーの総戦力ばぐっと増すに違いない。


「よろしく、俺はセント」


「スーノです」


 言い終わると同時、強風が吹き、スーノのフードが外れた。

 特徴的な尖った耳が露わになる。

 スーノは慌ててフードを被った。


「み、見ました?」


「あ、うん」


「誰にも言わないでください!」


「エルフなんでしょ? 別に隠さなくたって……」


「ち、違います!!」


 なにか地雷を踏んだのか、少女はカッとなって告げた。


「私は、誇り高きダークエルフです!!」

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