時を告げる鐘(老婆が語る童話シリーズ)
ゴォーン、ゴォーン、ゴォォーン。
町の時計台から、時を告げる鐘が鳴る。
ゴォーン、ゴォーン、ゴォォーン。
しかし、それは鳴るはずのない鐘だった。その鐘は、ずうっと昔、戦争で鳴らすための機構が壊れてしまっていたのだから。
ゴォーン、ゴォーン、ゴォォーン。
誰もが時計台を仰ぎ見る。確かに、鳴っているのはあの鐘だった。
ゴォーン、ゴォーン、ゴォォーン。
12回、鐘が鳴った。いつの間にか、時計が12時を指している。11時で止まったままだった、あの時計が。
タッタッタッ。リンリンリン。
小動物が走っているような音が聞こえてくる。鈴の音が聞こえてくる。
久しぶりだねぇ、王様はどうしているかしら?
お菓子を用意して待っていてくれるんじゃないかな!?
いいや、違うね。きっとお酒を準備してくれているよ!
何者かが足元で話す声が聞こえる。あわてて下を見ると、こぶし大の人のような生き物たちがいた。そう、「たち」だった。数えるのも大変なくらい、道に広がっていたのだ。
今回はわれわれから来たのだから、準備しているはずがないだろうに。
そんなことはどうでもいいよ!王様はどうしてるかな?
さあ、いこういこう!王様に会いに!
小人が町の中心部に向かって走っていく。つまりは、時計台に向かって走っていく。
町の人々は、金縛りにあったように一歩も動くことができなかった。小人たちについては誰も知らなかった。ただ、小人が口々に言う「王様」が、この町には存在しないことだけはわかっていた。だって、王様が存在していたのは、鐘が鳴っていた数百年前のことだから。
時計台の方から、大きな歌声が聞こえてくる。
王様、王様、どこにいるの?
会いに来たよ、出てきてよ!
一緒に遊ぼう、お菓子を食べよう!
一緒に話そう、酒を飲もう!
しばらく小人たちは歌っていたようだった。だが、だんだんと歌声が小さくなってくる。
王様?
王様?
口々に今は存在しない王様を呼ぶ。
王様はどこ?王様は?どこに行ってしまったの?
そこで、ようやく気が付いたようだった。
町が……。前来た時と違う……。
ざわざわとどよめきが大きくなっていく。
ちがう、ちがう。
なんで?
王様はどこにいっちゃったの?
おうさまー、あいにきたんだよー。
だんだん、泣き声めいてくる。
王様、王様。
僕たちと会うの、もう嫌になっちゃったのかなぁ。
しずまれい!
ひときわ大きな、少ししわがれた声が響いた。ぴたり、と小人たちの声が止む。
もう、王様はいないようだ。きっと、鐘が鳴らなくなったときに死んでしまったのか、わしらと会うことができなくなったのか。どちらにしても、鐘が鳴らなくなってから、こちらではかなり長い時が経ってしまったようだ。
だからな。
王様は、もういない。
長老らしきその声が、悲しそうに、苦しそうに、そういった。小人たちは、しばらく何も言わなかった。後から聞いた話によると、時計台の鐘を、ただただ見ていたそうだ。
しばらく鐘が鳴らなかったからねぇ、忘れちゃったのかと思って鳴らしてこちらに来てしまったんだよ。そうか、王様は死んでしまっていたんだねぇ。
そんな小さな声が聞こえたかと思うと、急に体が動くようになった。あわてて時計台の方へ行ってみたが、もう何者もいなかった。
それ以降、小人が現れることはなかった。また、鐘も鳴ることはなかった。
冬、暖炉のすぐそばで、老婆が編み物をしながら子供たちに語っていた。
子供たちが口々に、「小人はどこにいっちゃったのー?」「王様はどんなひとだったの?」と聞く。老婆は、「小人は違う世界に帰ってしまった、という話を聞いたことがあるよ。王様はどんな人だったんだろうねぇ、小人に慕われていたみたいだから、いい人だったんじゃないかなあ」と答えた。
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