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計画開示

 ふざけているのか、それとも何かの手違いか。どちらにしても紗奈は真面目そうな目で光司達を見ている。


「そう見えて当然でしょう。それが狙いなのですから」


「…………すみません、順を追って説明していただけませんか? 私も混乱してて」


 茜も何を考えているのか頭を抱え項垂れる。光司も同感だ。しかし紗奈は本気だと全身で訴え、山崎は無表情で真意が読めない。

 こんな特撮ヒーローに何の意味があるのか、こんなもので超能力者達が受け入れられるのか。理解ができなかった。


「そうですね。まず私は超能力者が受け入れられるにはどうすれば良いか、それを考えていました。私は超能力者ではありませんが、ウェイザーに助けられスポンサーになりました。そこに注目したのですよ」


 足を組み思い出すように天井を見上げる。


「ヒーロー。それこそが超能力者を世間に受け入れる鍵だと。力を自分達の為に使ってくれてる、それが第一歩なのです。ビジュアルを整えテレビの中のような存在を現実にする。人間は視覚による情報を重視しますからね。正義の味方らしい、好感を持てる者が手を差し伸べる、それだけで超能力者への嫌悪感を軽減できると判断しました」


「しかしそんな簡単な事じゃない、机上の空論だ」


 光司も反論するが紗奈は笑みを崩さない。


「ですが現在のように秘匿するのも限界がある。現代の情報社会では得にね。ならこちらから好印象を見せていくのが得策です。漫画やアニメだってそうでしょう? 昔はオタクは軽蔑される存在でしたが、世間に大きく取り上げられアピールした結果、日本の大きな産業へと進化しています」


「…………そう、ですね」


 茜は納得したように口ごもる。人々の感性は常に変動する。昔は嫌悪されていたものでも、その評価が一変するのは珍しい事じゃない。


「犯罪に走る超能力者は多くいます。しかしヒーローとして世間に認知され評価されれば超能力者は価値があると認められます。化け物と蔑まれ罪を犯す者も減らせるかもしれません」


 二人は静かに紗奈の言葉に耳を傾ける。


「年々増加していき隠すのも困難、ならば表立って活躍し価値を示し認めさせるのが一番です。サブカルチャー文化やネット動画投稿者のように」


 次第に熱を帯び、紗奈は身を乗り出す。


「勿論すぐには解決しないでしょう。しかし足掛かりにはなるはずです。超能力者を受け入れられる社会の」


 彼女なりに真剣に考えた結果なのだろう。それは痛い程感じられる。本気で超能力者が一般化される社会を作りたい、その熱意が言葉の節々から見える。

 光司達の間に沈黙が走る。数秒の後、光司が笑いながら頭を掻いた。


「ハハハ……。こんなに本気になってる人を馬鹿にできるかよ。やり方はどうであれ、社長……貴女がこんなにも俺達超能力者の事を想って行動してくれてるんだ。応えない方が無礼だ」


「光司さん……」


「どの道俺達は上からの命令がある。最初から断る道なんか無いんだよ」


 茜も観念したようにため息をつく。光司の言う通り二人は命令を受けてここにいる、仕事をする為に来ているのだ。それに彼女から見ても紗奈の態度と理念は好印象。超能力者の未来に何かしらの対策は必須だ。


「わかりました。尾上社長、改めて私達はウェイザーの一員としてその計画へ協力いたします」


「そう言っていただいてこちらも助かります」


 深々と頭を下げ一礼。流石は社長と言った所だろう、妙に様になっていた。何故かこちらも協力したい、そう思わせるような姿だ。

 そんな中光司は不安そうに肩を落とす。


「しかし俺なんかで良いんですか? こういった煌びやかな世界とはウェイザー一無縁な男ですよ」


「フッ」


 山崎が鼻で笑う。小馬鹿にしているような態度に光司も眉間に皺を寄せる。


「山崎君! すみません、若林さんに依頼したいのはヒーロー活動ではないんです」


「となると?」


「貴方にはヒーロー達のトレーナーとサポートをお願いしたいのです」


「ああ……」


 なんとなく理解した。彼女が求めているのは自分じゃない。ヒーローメーカーと言う踏み台なのだと。

 そこに文句は無い、と言うよりも諦めている。求められているのは超能力者の代表たる輝かしいヒーロー。となれば光司の役目は一択だ。しかし一つだけ疑問がある。


「社長さん、サポートは解りますがなんでトレーナーを? ヒーロー役を鍛えるなら、俺みたいなのよりもっと強いエージェントに依頼するべきじゃないですかね」


「あら、数々の凶悪能力者との戦いを生き抜いた経歴をお持ちなのに。謙遜しないで」


「事実です。今まで俺が経験した大きな事件を解決したのは俺じゃない。神の寵愛を受けたような規格外の超能力者だ。俺がやったのは露払いだけだ」


 嘘は言っていない。街を一撃で消滅させるような奴も、存在するだけで人類存亡に関わるような奴も、みんな倒したのは()()()()だ。そうしてヒロイン達のハートを射止め幸せな未来に生きる。自分はその背中を見送るだけだった。

 経験はあるが実力は足りない。それが光司の自己評価だ。


「そんな事はありませんよ」


 紗奈の言葉ひ顔を上げる。


「だって、貴方を推薦したのはその規格外の方々なんですから」


「あいつらが?」


「ええ。貴方が助けてくれたから、戦う術を教えてくれたから勝てたと」


「そうか……」


 ふと笑みがこぼれる。茜も釣られて。

 嬉しい。踏み台じゃない、一人の人として評価されていたのだ。


「若林さん。貴方は自分で思う以上に有能な方です。是非その経験を世界の為に使ってください」


「はい、喜んで。俺が必要なら」


 紗奈の差し伸べられた手を取り握手する。

 一人、山崎だけはつまらなさそうにそっぽを向いていたが。


「ところでそのヒーロー達は?」


「現在は三名予定していますが、確定しているのは一名だけです」


 一名だけ。進捗はいまいちらしい。


「一人だけですか?」


 茜も不満そうだ。


「私どももメンバーの選定は難航していまして。ですが今決まっている者は先行し訓練を受けて、リーダーとして活動してもらう予定です。山崎君、呼んでちょうだい。二人に紹介するわ」


「畏まりました」


 山崎が近くに備え付けられた社内電話で誰かに連絡する。


「少々生真面目な子ですが、彼女は仕事に忠実です。きっと貴方の教育で立派なヒーローになるでしょう」


「彼女?」


 光司の脳裏に影がかかる。一瞬の出来事だが、何か嫌な予感がした。


「ええ、そうです。彼女ならきっと人々を守ります」


「成る程ね……」


 何かが引っ掛かる。悪い予想じゃない、違和感と言うより直感だ。

 まるでこれから何か事件が起こるような。

 そうしていると誰かが扉をノックする。


「どうぞ」


「失礼します」


 扉が開き、一人の少女が入室した。

 長い髪をポニーテールにまとめたスレンダーな体型の少女だ。目付きは鋭くきつい印象を受けるも、日本刀のような美しさが見える。


「紹介するわ。彼女がブラストナイトのメンバー」


「九重ゆかりです」


 そう淡々とした口調で自己紹介した。

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