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商談

 薄暗い部屋の中、一台のパソコンの前で誰かが作業をしている。カタカタとキーボードを叩く音だけが部屋の中に響いており、不気味さに満ちていた。

 画面では何かの画像……腕時計のような物が映し出されており、理解不可能な数字が羅列していた。その人物は画面のデータを一つ一つ細かくチェックし、読み進める程に口角を吊り上げていく。


「成る程ねぇ。これならとても……素晴らしいショーになりそうだ」


 男の声だ。楽しそうに呟きながら彼は画面を別のものに変える。


「それに……これはこれは。こいつがいれば最高のシチュエーションを準備出来る。実に、実に愉快だ」


 画面には一人の男性の顔写真がある。額に大きな切り傷のある死んだ魚のような目をした男性、若林光司がいる。


「フフフ……頼むよヒーローメーカー。全ては君次第なんだ。格好良くて、美女に囲まれて、圧倒的な力を持ち、誰もが羨むなりたい主人公を作ってくれ…………っと」


 不意に着信音が鳴る。甲高い音が机の上に置かれたスマホから聞こえる。彼はそれを取ると背もたれに身体を預けた。


「やあ、進捗を聞きにきたのだろ? 安心したまえ。最高の舞台を用意しているさ。…………いやいや、そこは流石に無理だな。どんな人物が関わるかこっちも把握していないし不可能だ。希望通りに揃えるのは諦めなさい。そう……ああ、期待はしてくれて良いとも。何故なら……」


 画面に映る光司を一瞥、笑い声を圧し殺すように喉を鳴らす。


「実績だけはあるからね。いやはや、少子化とは真逆だ。一夫多妻が承認されたらどうなるやら。詳しい資料は後でメールしよう。君を担ぎ上げてくれる踏み台と、最高にクールなデバイスのね。だから安心して待っていなさい、お互いの為に……」


 男は電話を切る。


「ヒーローメーカー……か。難儀な男だ。私だったら自殺しているな。何が楽しくて他人の踏み台となり、成功を、称賛を、女を取られなけばならないのか。理解に苦しむよ」


 そうぼやきながら男はキーボードを再び叩く。彼の声は光司を哀れむと言うよりも嘲笑うようなものだった。







 日曜日の昼下がり、騒がしい街中を一台のバイクが走る。休日なせいか人が多く、道も車で混んでいた。

 黒いビッグスクーターを軽々と操りながら、スーツ姿の男はオフィス街へと入って行く。すると逆に人影は一気に減り、周囲は不気味な静けさに包まれる。

 日曜日なだけあって、オフィス街に人は少ない。バイクはスピードを上げはせず、ゆったりと街並みを楽しむように進む。

 そして大きなビルに着くと、地下駐車場へと入った。中は当然伽藍堂だ。バイク置き場に停めるとその男はヘルメットを外す。

 バイクを運転していたのは光司だ。そしてここはウェイザーのスポンサーであるハンズの本社ビルである。


「ふぅ。時間は予定通りだな。やっぱオフィス街は空いてるな」


 光司はシートを開けヘルメットをしまう。そして鍵を抜くと誰かを探すように周りを見る。

 後ろから走るような足音が聞こえ、こちらに近づいてくる。


「おはようございます光司さん。時間通りですね」


「おはよう茜ちゃん。日曜日なのに呼び出しとは、社長さんも何考えてんだか」


 いつものスーツ姿の茜が挨拶するも、光司は不満そうにぼやく。


「仕方ないですよ。ウェイザーのスポンサーなのは世間に秘匿されてます。何も知らない社員に漏れないよう、人が少ない休日じゃないと」


「そこは理解してるんだがな。少しくらい愚痴らせてくれ」


「もう。社長さんの前じゃそんな事言ってはダメですよ。……とか言ってる内に来ましたね」


 奥から誰かが来る。足音はゆっくりと重々しく、茜のものとは大違いだ。

 すぐに足音の主は姿を現した。眼鏡をかけた神経質そうな男だ。歳は光司より同じくらいか少し上だろう。


「お久しぶりです近藤さん。そして貴方が若林さんですね?」


「おはようございます山崎さん。はい、彼がエージェントの若林光司さんです」


 紹介され光司は一礼する。


「はじめまして若林です」


「私は社長秘書の山崎です。よろしくお願いします。では……」


 笑み一つ見せず、機械のような淡々とした口調だ。光司はこういった人物は嫌いじゃない。良い意味でも悪い意味でも生真面目な仕事人間なのだろう。思考も解り易く、仕事の話し以外はしなさそうで気楽だ。


「着いてきてください。社長がお待ちです」


 山崎に導かれ、三人はエレベーターへと進む。

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