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おっさんの日々

 日が昇った正午の平日。静かな街中に一軒の喫茶店が建っていた。こじんまりとした古い雰囲気の店だ。レトロで風情のある店、と言えば聞こえは良いが、実際はただのオンボロ店舗である。

 その喫茶店、コーヒーショップ『錻』は静寂の中に溶け込んでいた。中には店名に恥じぬ古いブリキのおもちゃが飾られており、二つのテーブルと数人が座れるカウンターの小さな店だ。

 いつと閑古鳥が鳴いている店に、今日は珍しい客がいた。


「…………で、学校をサボってうちに来たと思ったら、そんなくだらん相談にわざわざと。ご苦労なこった」


 スーツにブラウンのベストを着た光司が苛立った様子でケトルを取る。彼の正面のカウンターには学ラン姿の少年があった。


「そんな、光司さんにしか相談出来ないんですよ。学校だとみんな何故か怒るし……」


(当たり前だろ、このリア充め)


 必死にすがる姿に、光司は眉間に皺を寄せながもあくまで平常心を保ちながらコーヒードリッパーにお湯を注ぐ。


「ハァ。たしか学校の先輩と妹からのラブコールにどう対応すれば良いかわからない。どちらかを選んで片方を悲しませたくない。二人とも幸せにするにはどうすれば、ってか? 怒られて当たり前だ馬鹿者、ただのモテ自慢だろうが」


「いやいや、こんなんモテるに入ってないっすよ。モテるってのは二桁の……」


 光司はケトルをカウンターに叩き付ける。


「ただの嫌味だそれは。そもそも妹って何だ? 実の兄に何考えてるんだ」


「それが……実は血が繋がってなくて」


「…………そのパターンか」


 頭が痛い。

 この少年はとある事件で知り合った超能力者の高校生。偶然学校の先輩と妹の三人で事件に巻き込まれ、その最中超能力に覚醒。事件解決へと導いた()()()のような少年だ。

 その上何の因果か、彼のような人物と出会ったのは何度もある。超能力に関わる大きな事件に関与すら度に主人公様のサポートをする羽目になっていた。彼らが活躍するよう露払いをし、格好良く派手に悪党を成敗するのである。

 しかも彼らは須くハーレムを形成している。誰もが羨むような。

 残念な事に光司は馴れてしまった。圧倒的勝者、能力も環境も、何もかもが揃った選ばれた者と呼べる神に愛された存在。そんな彼らを主人公として担ぐのが光司の仕事。

 だから光司はこう呼ばれている。ヒーローメーカーと。


「仕方ない。俺の経験談からアドバイスをしてやる」


 彼は既に諦めている。自分は主人公にはなり得ない、永遠にサブキャラとして生きていき本当の主人公を活躍させるのが運命なのだ。


「まず二人の仲は良いんだっけな。前会った時そう見えたが」


「まぁ一緒に遊びに出かけるくらいは」


「ならお互い公認で二股しろ。二人同時にお前の彼女にするんだ」


「え!?」


 あまりにも不謹慎かつ不誠実な言葉に少年は唖然とする。普通ならあり得ない選択だか光司は大真面目だ。


「俺の経験上、ヒロイン同士の仲が良ければ主人公の共有は可能。なあに、四人同時って猛者もいるんだ。二人くらいどうにかなる。お前はまだ楽な方だ」


「だけど……」


 少年の心が揺れたのを見逃さない。後は押すだけ。強く、熱く。


「何日和ってんだ! 街一つ救ったんだろ? 女の二人一緒に救えねぇってのか!」


「いや、えっと」


「どちらかにすれば悲しむだ? なら二人一緒以外無いだろ。誰一人犠牲も無く助けるってのを実現させたいんだろ? ならやってみせろよ!」


 少年の前にアイスコーヒーを置く。冷たく水滴が滴るグラスを見ながら少年は息を飲む。

 数秒間考え目を閉じる。そして大きく見開きグラスを取った。


「っ!」


 一気にコーヒーを飲み干し財布から千円札をカウンターに置いた。


「光司さん、俺やります。二人とも守ってみせます」


「おう」


「お釣は次来た時に。ありがとうございました」


 少年は店の外に飛び出す。ドアに下げられたベルが鳴り光司は小さく笑う。


「………………やっぱり羨ましいかな」


 グラスを回収し、誰にも聞こえないように呟く。

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