物語のようにはいかない……かも
「あの……」
琉斗が恐る恐る手を上げる。
「あいつらは何者なんですか? 紙みたいな……怪人と言うか戦闘員みたいなあれ」
「うーん……」
茜は申し訳なさそうに頭を掻く。
「正体不明って事しか言えないかな。誰かが能力で生成、制御しているんだろうけど、それ以外は全く解らないの」
偶然目覚めた超能力者の暴走か、それとも何か意図のあった行動なのか。本体の姿も確認出来てなく、不明な点がばかりだ。
「そうなんですか。もしかしてそういう組織の……例えば世界征服を企んでる奴らとかかと思いました」
「ああ……」
彼の言いたい事は解る。守る者がいれば逆の存在もいる。こんな力を悪用しようとする者が個人ではなく集団で存在してもおかしくない。
「超能力者の犯罪って個人で行う人が大半なんですよ。誰もが目覚める訳じゃないし、原理もまだ解ってないので。たまに集まって……テロリストみたいなのは出ますけどね」
「大抵は大掛かりな組織になる前に潰してる。勿論全てじゃないから、絶対にいないとは断言できないがな」
超能力者の人口は年々増えているが、それで総人口の一割に達しない。たまに犯罪組織に所属しているが、ウェイザーのように多数の超能力者を抱える組織はそういない。
光司と茜の言葉に安堵したような、それでいて残念そうに琉斗はソファーに寄りかかる。
「そうなんですね……」
琉斗がそう思うのも無理もない。同じ姿をした怪人軍団だなんて、まるで特撮番組のやられ役、戦闘員みたいだ。更に自分がまんま変身ヒーローとなったのだから尚更であろう。そういった悪の秘密結社があるのではないかと考えるなんて。
「なぁに、悪い超能力者はごまんといるわ。だから君達が必要なのよ。だからスカウトしたんだから」
そんな中、一人紗奈だけは楽しそうに笑っていた。その隣では山崎が黙ってパソコンをいじっている。
「さて、今日はもう遅いしおしまいにしましょう。ご家族も心配しているでしょ? 契約書とか小難しい話しは明日にね。また放課後、このお店で」
壁に掛けられた時計を見ればもう夕飯時。そろそろ帰った方が良いだろう。
「そうだな。帰ろう真梨奈」
「うん。じゃあ……明日。九重さんも学校でね」
「ああ……」
今一腑に落ちないのか声は小さい。
二人は鞄を取り、一礼すると急ぎ足で店を後にする。窓の外では真梨奈が家族に連絡しているのだろう、電話をしている背中が見える。
店内に静寂が戻ってくる。山崎がキーボードを叩く音だけが小さく響いていた。
「……と言う訳で、三人をよろしくお願いしますね若林さん。給料は期待していてください」
心底楽しそうに笑う紗奈と違い、光司は苦笑いを浮かべながら硬直する。
正直断りたい。それにとても嫌な予感もする。この先大きな事件が起こり、琉斗が活躍、少女達を虜にしていくだろう。そんな未来が眼に浮かぶ。
しかし彼に拒否権は無い。茜に助けを求めるように視線を向けるも彼女は全く相手にしない。
「ちっ。金が入るだけマシか」
深いため息が店内に満ちる。
もしかしたらそんな漫画みたいな事は起きないかもしれない。そう祈るのだった。
時刻は日付が変わったばかりの深夜。暗い部屋の中で大きなパソコンだけが光を放っている。デスクにはコーラのペットボトルが照らされていた。
画面の隅から聞こえる小さな着信音。メールの通知だ。その部屋の主はマウスを動かしメールを開く。
『ブラストナイトのメンバーが決定しました。想定通り男性一名の構成で運用されます。各員のプロフィールを添付しましたので確認をお願いします。』
急いで添付されているファイルを開く。そこには琉斗、真梨奈、ゆかりの個人情報が事細かに書かれていた。家族構成、経歴、こんな情報が漏れていると本人が知ればゾッとするような内容だ。
その画面をギラついた瞳が走る。一字一句見落とさぬよう、妙に必死な血走った目が三人の情報を読み込む。特に琉斗の家族構成を。
『悪くない、合格点だ。一人胸がしょぼいのがいるが、我慢しよう。それと保村の妹の写真は? ブスや貧相な身体だったら許さんぞ』
キーボードを叩く手が軽快だ。踊るように文字を打っていく。
『妹については準備中です。ただ気に入ってもらえて幸いです。活動に向けて準備がありますので、また進展があれば連絡します。そして約束の件、お忘れなく』
『わかってるさ。俺もあいつには消えてもらった方が都合が良い。ゴミはゴミらしく消さないと』
『私もアレが非常に邪魔でしてね。生きている限り私の障害にしかならない。準備が終わり次第、早急に処理してください』
『正直あんなキモちのに触れるのも嫌だからな。自殺してくれんのが一番なんだが』
『自殺なんて一番やらなさそうじゃないですか。それに下手するとこちらに不利になる可能性もありますし』
『フン。とにかく早く準備を終わらせろよ。俺の出番の前にこの男に攻略されたらたまったもんじゃない。遅れたら契約は破棄させてもらう』
『ええ。勿論、そこは必ず。お互い望んだ未来を手に入れましょう』
それを最後にメールは止まる。
パソコンの前の人物は相変わらず三人のプロフィールを眺めていた。食い入るように、舌なめずりをしながら。




