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さぁ、物語を始めよう

 突風が次々と怪人を凪払う。軽々と風に揉まれ押し潰され、動きを封じ回し蹴りで引き裂く。

 光司も近づく者を片っ端から切り刻んだ。腕には無数の爪が伸び、刃物の塊が一撃でバラバラにする。

 ゆかりの動きに合わせるように、彼女がうち漏らした個体を、無視してこちらに近づくのを片付けながら銀色の包帯を伸ばして負傷者を一ヶ所に集めていく。


(こいつらの動き……近くに能力者がいるのか、もしくは自立しているかだな)


 一つの事に集中するのではなく、視野を広く持つ。培ってきた経験と知識を導入し、一人でも多くの人を助け勝利する。失敗は許されない。ゲームのようにコンテニューは出来ないのだ。

 常に緊張感を、思考を停止させずに身体を動かす。


 踊るように暴れ回るゆかり、堅実に守る光司。素人目でも健闘しているのは明らかだ。

 少し離れた場所で紗奈達は二人を観察している。


「山崎君、どう思うこの状況?」


「偶然にしては出来すぎているかと」


「そうね。能力者が暴走しているのか、何か別の意図があるのか。だけど珍しいケースじゃないわ。彼の周りならね」


 そっと光司に視線を移す。


「経歴は見たでしょ?」


「ええ。ですが……偶然では?」


 山崎は顔をしかめながら懐疑の目を向ける。

 彼の言う通り、そんなのは偶然だと思うだろう。もしくは漫画か何かのあらすじだと。

 そんな時、二人の会話に茜が割り込む。


「社長、ちょっと待ってください!」


 肩で息をしながら茜が駆け寄ってきた。


「何で勝手に来ちゃうんですか。危ないですよ」


 普通の人間である紗奈達には危険だ。それなのに紗奈は妙に余裕そうにこの惨状を眺めている。


「勿論承知の上よ。けど、この状況に私の勘が囁くの」


「囁く?」


「そう、ヒーローの誕生をね」


 笑っていた。とても明るい笑顔で。この事件を楽しんでいるかのように。




 一方で真梨奈と琉斗は驚きながらも少しずつ冷静さを取り戻していく。状況を把握し、何が起きているのかを理解し始める。


「二度目か……」


 真梨奈が呟く。この小さな一言を琉斗は聞き逃さなかった。


「真梨奈、二度目ってどういう事だ?」


「………………ったくもう。普段は難聴なくせにこういう時だけ耳が良いんだから」


 ため息を一つ。だが今は余計な事を考えてる暇は無いと気持ちを入れ換える。


「実は前に一度、あのミイラ男みたいな人に助けてもらって。あの紙みたいなのは初めて見るけどね」


「いつの間にそんな事が……」


 唖然としながらも二人は光司達を見る。特撮やアニメを見ているような錯覚を感じながらもある事が頭を過る。

 今自分達は守られる側だ。それが悔しく感じている。皆を守ろうと、助けようと走り出したのに何も出来なかった。悲しいかな、現実は寧ろ逆だ。

 力が欲しい。この惨劇に立ち向かう力が。傷つき倒れている人を救う力が。

 その想いは光司には届かない。彼も必死なのだ。


(数が減らないなら、こりゃ体力勝負だな。力は無限じゃない。どっちが先に限界が来るかだ)


 ゆかりの方を見ると、彼女はかなり派手に暴れていた。おかげで囮になり、負傷者の防衛がやり易くなっている。

 しかしこのままでは体力が尽きるのは速い。ペースを落とさねば逆転される。


「体力を温存しろ! 操っている奴より先にへばったら負けだ!」


「了解! せい!」


 風を纏った手刀で頭から真っ二つ。風の噴射を抑え体術をメインに切り替えた。

 光司も息を整えつつ救助が片付いたのを確認し、武装を両腕の爪に固定。周りを確認する。

 少し離れた場所からこちらを観戦する紗奈達。際限無く現れる敵。戦闘力が低くともこの数は厄介だ。真梨奈達を守りながらでは能力者本体を探す余裕もない。


(こいつらの目的は何だ? 覚醒したばかりの暴走とは考えられないし。ウェイザーを引き付ける囮か?)


 嫌な予感がした。ただの直感なのに、冷や汗が溢れたような不快感が脳に走る。


「クソッ、持久戦に持ち込んでもハズレか……っておい! お前ら逃げろ!」


 ふと周りを見ると、背後から真梨奈達に近づく紙怪人達の姿があった。光司の声に気付くも、彼女達の近くには負傷者が倒れている。逃げれば彼らがターゲットに変わるだけだ。

 だから二人は踏みとどまった。自分達が盾にならなければならないと。


「真梨奈、逃げるんだ!」


「馬鹿、この人達を見捨てられないよ!」


「あの馬鹿……」


 光司も急ぐが行かせまいと道を阻む。一瞬、ほんの一歩出遅れる。それが命取りだった。

 腕を振るい真梨奈目掛け凪払う。薄く剃刀のような腕が少女に迫る。咄嗟に腕で防御しようとするが、彼女の腕では盾にすらならない。腕ごと真っ二つにされるだけだ。

 琉斗も駆け出したその時だ。


「くっ!?」


 受け止めた。ただ腕で止めたのではない。真梨奈の腕には氷の塊が籠手のように纏わり付き防いでいた。

 何が起きたのか誰も把握できなかった。混乱し思考が停止した所に、いち早く我に返った琉斗が停止した怪人を殴る。

 拳が胸に当たる瞬間、琉斗の拳に火が灯る。比喩ではない。炎の拳が叩き付けられたのだ。

 拳が触れた場所から炎が燃え広がり、一瞬の内に火だるまになってしまった。


「え?」


「何、これ?」


 二人は自身の手を見ながら驚愕する。炎と氷、そんなものが手から出てきたのだ、驚いて当然。

 それは光司も同じだ。


「なっ……この二人も超能力者? いや、反応からして()()()()()()


 目覚める力。非日常へ足を踏み入れた瞬間。

 何度このイベントに参加したのだろうか。物語が始まる瞬間に誰もが息を飲む。


「そこの二人! これを!」


 紗奈が真梨奈達の足下にアタッシュケースが投げられ、衝撃で蓋が開く。


「社長!? おい、それって」


 その中身に光司は見覚えがある。ゆかりも着けている腕時計、ブラストギアだ。


「それを着けて画面を押す、そしてインストールと叫んで!」


「「………………」」


 真梨奈達はお互いに顔を見合せ躊躇う。意味がわからず身体が動かない。


「それを使えばみんなを助けられる! この化け物と戦う術がそこにあるの!」


 助けられる。その一言が二人を動かした。

 アタッシュケースに駆け寄り腕時計を巻く。


「真梨奈……」


「うん。何だか意味不明だけど、やってみよう!」


『『Loading』』


 画面を押すと電子音が鳴りそこから遺伝子のような光の二重螺旋が二人の周囲を包みながら絡み合う。

 覚悟だ。二人の心にあったのは戦う覚悟。非日常に身を置き異常の中で生きる決意。


「「インストール!!!」」

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