表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/21

出会いたくなかった

 三人の様子に光司は一瞬嫌な予感がした。真梨奈の事ではない。暗かった事もあり、光司は真梨奈が先日の少女だと気付いていないのだ。問題はあの少年に対してゆかりの様子が明らかに違う事である。

 パッと見はごくごく平凡な少年だ。特徴の無い気にも止めないような風貌だろう。しかし近くでよく見ると整った中性的な顔立ちをしている。

 光司の額に冷や汗が流れる。


「九重さんはどうしてここに?」


 琉斗はそんなのもお構い無しとばかりに、やたらとフレンドリーに話し掛けた。

 ゆかりは周囲を一瞬見回す。茜と紗奈、山崎は他人のように仕事の話しを始めた。そして光司は心の中で頷く。

 表向きの関係。ウェイザーや超能力者の事を隠す偽りの関係は事前に話し合っている。

 コーヒーを片手に光司はゆかり達の方に近づく。


「お客さんゆかりちゃんと同じ学校の子だね?」


「はい、クラスメートです。九重さん、店員さんと知り合いなの?」


 真梨奈が不思議そうに光司とゆかりを見比べる。


「親戚だよ。近くに住んでいるから色々世話になってるんだ。因みに店長だよ」


「よろしく。で……」


 光司は少しばかり目付きを鋭くし琉斗の方を見る。言葉にせずとも解る。ゆかりが琉斗に対し明らかに気恥ずかしそうにしているからだ。


「ゆかりちゃんが話していたセクハラ野郎ってのはこいつか?」


 コーヒーをゆかりの前に置く。

 ゆかりは軽くため息をつきながらも笑っていた。


「そうなんだよマスター。彼がボクにいきなり抱きついてきたんだ」


「ほぅ?」


 じろりと睨み付ける。額に傷痕があるせいか光司はかなりの強面だ。彼に睨まれては流石にたじろぐ。


「事故だってのは聞いているが、随分と失礼な輩らしいな。それに彼女がいながら他の女の子にベタベタするのもいただけないぞ」


 威圧するような雰囲気に琉斗は気圧され、真梨奈も少し引いている。

 あたふたと焦りながらも弁明し出した。


「あ、えっと、すみません。本当に事故なんですけど、俺が全面的に悪いです」


「そうだよ。あれは琉斗が悪い」


「反省してるって。あ、あと真梨奈は彼女じゃないんで。ただの幼なじみです」


「ブフッ!?」


 茜が思わず吹き出し、光司も顔が引き攣る。

 確信した。こいつが光司が見てきた主人公と同類だと。好意が向けられているのに気付かず、平然と気持ちを無下にする。なのに少女は……そう思うと可哀想に思えてくる。


「そうですよ。よく誤解されるんですけど、私たちはそういう関係じゃありません」


「は?」


 だが予想と違った反応が返ってきた。いつもなら好意に気付かない鈍感さにやきもきしている所だ。幼なじみと言う親しい関係に隠され、そこから進めぬもどかしさをいつも見せられていた。

 なのに真梨奈が言ったのはどうだろうか。真逆の、琉斗に同意するような言葉だ。


(…………って事は俺の考え過ぎか。まっ、幼なじみが絶対惚れるとは限らないからな)


 安堵した。どうやら事件は起きそうにない。今までの経験上、やたらとモテる少年がいれば事件が起こり主人公として解決する。それが何度もあれば警戒もしよう。

 今回は違う。そんな安心感に光司と茜は胸を撫で下ろした。


「そ、そうなのか。ごめん、ボクも誤解していた。保村君と久住さんはそういう関係だと……」


「大丈夫よ、慣れてるから。あ、隣いい? 折角だし少し話したいかな」


「構わないよ。ボクも早くクラスに馴染みたいからね」


 言葉通り何時もの事なのだろう。真梨奈は笑いながらメニューを取る。


「オススメとかある?」


「んー、無難にコーヒーじゃないかな」


「じゃあアイスコーヒーで。琉斗は?」


「俺もそれで」


「あいよ」


 カウンターに戻りコーヒー豆を用意する。一方でゆかりはコーヒーに砂糖を入れながら談笑を始めた。

 少し意外だ。ゆかりの事は歳不相応な責任感があり、かなり頭の硬い人物だと思っていた。しかし三人で話す姿は普通の女の子。超能力に関わらなければこの光景が日常となっていただろう。


「そう言えば二人はどうしてここに?」


「実は俺達生徒会から手伝いを頼まれててさ。けどそれがキャンセルになって、副会長がここが良い店だって紹介されたんだ」


「ふぅん。マスター、ここってそんなにお客さん来るの?」


 光司の手が一瞬止まる。肩をがっくりと落としながらため息をついた。


「そこの生徒さんは……たまに来るね。けどうちは基本客足少ないからな。今日は珍しいんだよ」


 客の大半が茜を含めたウェイザーのメンバー。ちょっとした話し合いの場所にされているのが現実だ。

 実際光司の収入の大半がウェイザーの仕事によるもの。生活に困っている訳ではないが、本職が寂しいのは心苦しい。

 面倒だと感じながらも嬉しさに頬が緩む。

 その瞬間……


 爆発音が外からなだれ込む。窓の外では黒い煙が立ち上ぼり人々の悲鳴が風に乗って聞こえてくる。

 誰もが何事かと驚く。


「悲鳴……? っ! すみません、コーヒーキャンセルで」


「ちょ、琉斗?」


 飛び出そうとする琉斗を真梨奈が引き止める。


「あれだけ騒ぎになってるんだ。怪我人とか出てるかとしれないだろ。ほっとけねぇよ!」


 真梨奈を振り払い店外に飛び出す。


「ああもう!」


 更に琉斗を追い真梨奈まで走り出した。急な出来事に店内は唖然とするが、流石に光司は即座に頭を切り替える。


「ったく。こんな街中で爆発だなんて、超能力者が事件起こした可能性が高いな。茜ちゃん、店番頼む」


「はい。本部にも連絡して、事後処理部隊の手配をしますね」


「それとゆかりちゃん。初仕事になるかもしれないが、行けるか?」


「はい」


 腕時計型のデバイス、ブラストギアを腕に巻き頷く。


「っし、行くぞ」


 光司を先頭に二人も外に急いだ。店の主が不在となり、外から聞こえる声だけが店内に響く。

 茜が急いで本部に連絡している最中、紗奈は一人ニヤリと笑っていた。


「彼はもしかして……。よし、山崎君」


「はっ」


 山崎は静かに席を立つ。


「車に積んである残りの()()を。現場に向かいましょう」


「畏まりました」


 山崎は一礼するとそそくさと外に出ていく。

 二人の会話を茜も聞いており、唖然とした様子で目が点になっていた。


「あの……尾上社長?」


「近藤さん、私達も向かいましょう。もしかしたら…………面白い物語が見れるかもしれないわ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ