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一段落ついて

「……強いんだね。びっくりしたよ」


「伊達に十年超えてないっての。並大抵な事じゃやられはしないさ」


 立ち上がったゆっくりは言いにくそうに口ごもるが、やがて決心したように真っ直ぐと光司を見る。


「若林さん、先程は失礼な事を言ってごめんなさい」


「ん? ああ、気にしてないよ。どっちにしろ俺は日陰者だからな。それよりお嬢ちゃんもやるね。自分の能力を理解している。覚醒したのはいつだ?」


「生まれつきだよ」


「成る程な」


 歳はざっと見て高校生くらい。単純に考えれば光司と同じく十年以上は能力と向き合ってきているだろう。


「だから使いこなせていない覚醒したばかりの超能力者なら、ギア無しでも対処できる」


「そうだな。けど、世の中には覚醒したばかりでも圧倒的な連中がいる。気をつけろよ」


 光司の言い方に引っ掛かるものがあったのだろう。考えるように光司の目をじっと見る。


「もしかして……それが」


「そうだ。規格外の天才、物語の主人公のような…………ウェイザーのトップエージェント達さ」


 思い出すだけで笑えてくる。抗うのも馬鹿らしく感じる、圧倒的な差に。


「この網だって力技でぶち抜く。俺なんか手も足も出ないような連中がいるんだよ」


 小細工なんか通用しない。正面から巨大な悪を打ち砕く。そんな力を持つ本物のヒーローがいる。

 この事実にゆかりの心がざわめく。


「強く……なれるのかな」


「なってどうするんだ?」


「平和の為に使いたい。そしてボク達超能力者がどうどうと生きれる世界を作りたい」


 純粋な、真っ直ぐとした目にかつての仲間が重なる。あいつらも同じような目をしていたと思い出す。

 心の底から人々の為に力を使いたい。そう決意している。


「なれるさ。意思が捻れなければ必ず。……よし、良い事を教えてやる」


 優しく微笑む。


「何かで見たんだがな。ヒーローにはなろうとするとなれない、ってのは間違いだ。正しくは()()()()にヒーローとなろうとすればなれない、()()()()()にならなれるだ。だからその心意気があれば、きっとな」


 そう言うと光司の表情が一瞬曇る。


「俺とは違って」


「?」


 自分がちやほやされたいから、評価されたいから。そんな願いで善行を行っても無意味。誰よりも知っている。

 今度は自嘲するように笑っていると、扉が開き三人の人影が入室する。紗奈を先頭に山崎と茜が現れる。

 三人の姿に気づいた光司達はすぐさま変身を解く。金物の包帯はコートの中に戻り、ゆかりの鎧は光の粒子となって消えていく。


「いやはや素晴らしい。流石は若林さん、噂以上ですね。九重さんもよくやりました」


 先頭で拍手しながら紗奈が歩み寄る。


「如何ですか、ブラストギアの性能は? 実戦を通した感想を聞かせていただきたのだけど」


「そうだな……」


 光司は少し考える。これの目的、性能、それらを今しがたまで戦って感じたものを頭の中でまとめる。


「デザインはヒロイックで世間ウケは良いと思う。正直このままテレビに出してもいいくらいだ。防具としても充分な性能だ。ただ、総合的な戦闘力は彼女の実力によるものが大きく、まだ何とも」


「成る程。その点は後日データをとらなければなりませんね。それと忘れる前に言っておきますが、機器の弁償は心配しないでください。こちらから申し出たのですから」


「そいつは助かる……」


 山崎は渋い顔をしていたが、光司と茜はホッと胸を撫で下ろす。


「もし請求されてたら、光司さんの給料から天引きてますから」


「げっ、経費で落ちないの?」


「当たり前です。現場ならまだしも、こんな訓練じゃやり過ぎです」


 深いため息が出る。紗奈が請求してこなくて良かったと心底安心する。

 二人の様子を笑いながら見ていた紗奈はゆかりの方を向く。


「どう? 歴戦の戦士の実力は」


「正直侮っていました。ボクなんかまだまだです」


「そうでもないぞ」


 光司が話し掛ける。


「ようは相性の問題だ。俺は風に飛ばされないように出来たからな。もし電気使いだったら一方的に勝てただろう」


 全身に金物を巻き付けているのだ。電気なんか流されたらひとたまりもない。伝導体の塊である光司にとって天敵だ。


「あんま気にすんな。お嬢ちゃんなら俺くらいのレベル、すぐに超えられるさ。で、社長さん」


「何かしら?」


「今後はどうするんだ? 確か彼女がリーダーの予定で、あと二人探しているんだろ」


「ええ。現在は三人体制の予定ですが、人数を増やし活動範囲の拡大、ゆくゆくは世界各国へ進出するプランもあります」


 光司は一瞬顔をしかめる。確かに活動範囲を広げるのは望ましいが、それが全て良いとは限らない。ただでさえ国により超能力者への対応は違う。

 そもそもこんな()()を普及するのも不安だ。


「そんなに上手くいくもんですかね」


「簡単にはあたきません。ものは試しです、何もしないよりマシでは?」


「……それもそうですね」


 頭を掻きながら肩を落とす。どの道引き受けているのだ。その上他に案も無い。あーだこーだと文句を言うのもお門違いだ。


「で、今後はどうすれば良いんだ? 仕事は引き受けるが、彼女をどう鍛えるんだよ」


「メンバーが揃うまでは若林さんの任務に同行、実戦経験を積んでもらいます」


「妥当だな」


 彼女に一番不足しているのは経験だ。それを補うのなら実際に任務に参加するのが一番だ。


「近藤さんの担当地区所属となりますので、彼女の事をよろしくお願いします」


 ゆかりは茜に一礼する。


「私の地区って事は……九重さんはあの辺りに住んでいるんですか?」


「いいえ。ボクは今社宅に住んでいまして、今回の件で引っ越します。普段は高校に通っているので、転校もします」


「「転校?」」


 光司と茜の頭に何かが引っ掛かる。

 転校生。超能力者。影ながら戦うヒーロー。

 まるで物語が始まるような単語が並び、光司の額から冷や汗が溢れる。


「…………光司さん」


「みなまで言うな。俺も嫌な予感がするんだ」


 そうだ。ヒロインが転校し物語が始まる。そんな予感があった。

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