3話・天宮蒼夜編3
タクシーに乗り込み、着いたさきは、高級マンション。
「そ…それじゃあ、行きましょうか…」
「はい…」
エントランスに入り、エレベーターで上に上がっていく。
エレベーターから降りて、部屋の前へ。
「ここです!! す… 少し待ってて貰ってもいいですか?」
「はい、大丈夫ですよ。」
鬼集院さんは、先に中へ入っていった。中からは、ドタバタと音がする。
少しして、戻ってくる。
「ど… どうぞ!!」
「お… お邪魔します。」
部屋に上がる。玄関で渡すのかと思ったいたが、
「こ… こっちが、私の部屋ですので、ついて来てください…」
「…分かりました。」
俺は、流されるがまま、鬼集院さんの部屋に連れていかれる。
そういえば、何気に女性の部屋に上がるのは、咲の部屋以外では、初めてだ。少し緊張してきた。
「の… 飲み物とってくるので、座って待っていて下さい…」
「…分かりました。」
なぜか俺1人で、待たされる。
あまり室内を見ては失礼だと思い、目を閉じておく。
「お… お待たせしました…」
鬼集院さんが、戻ってきた。
「ど… どうぞ。」
「あ… ありがとうございます。」
入れてくれた、紅茶を飲む。
ずっと、鬼集院さんが見てくるので、何気に恥ずかしい。
「な… 何かついてますか?」
「す… すみません!!」
「いえ、大丈夫です。」
気まずい間が、流れる。
それを察したのか、鬼集院さんから、話しかけてくれる。
「そ… そういえば、天宮さんは、何か格闘技か何かやられてたんですか?」
「何でですか?」
「いえ、この前助けてくれた時のお手並みが鮮やかだったので…」
「なるほど。それで、答えですが、格闘技は、一通りの齧ってますね。」
「!? …凄いですね。でも、何でそんなに、格闘技をされてるんですか?」
「親に言われたからですかね。」
「親御さんにですか?」
「はい。両親は共に、海外にいる事が多いので、自分の身や、妹の身を守れってことで、小学校高学年から本格的に初めて、高校に上がる前まで、やってましたね。今は、時間がある時に、やってる位ですね。」
「そ… それなら、か… 彼女さんも、いつでも守れますね…」
「彼女ですか? 確かに守る自信はありますが、その前に作らないといけないですね。」
「い… 今はいないんですか!!」
「えぇ、いたことはないですね。」
「私もです!!」
「…共にいい人が出来ると良いですね。」
「はい…」
何だか、少し落ち込んでいるように見える。
すぐに、話を変えることにする。
「あ、これ俺が買った材料ですけど、どれが良いですか?」
俺は、袋を広げ、欲しい材料を聞く。
「…なら、これらでお願いします? 大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。それだけで良いですか?」
「はい、充分です。あ、今お金払いますね。」
「いえ、お金は、大丈夫ですよ。」
「でも…」
「たいした額ではないので、気にしないで下さい。」
「…なら、これを貰ってください!!」
鬼集院さんは、鞄からチケットを2枚取り出し、手渡してくる。
「これは?」
「今度、2月14日にある私たちのライブのチケットです!!」
「こんなもの貰えませんよ!!」
「え… いらないですか…」
上目遣いで見てくる。
「あ、いやそう言うわけでは…」
「なら、受け取ってください!!」
この目には、弱いんだよなぁ…
「…分かりました。頂きます。」
「はい!!」
チケットを受け取る。2枚あるので、あいつでも誘うか。
「それじゃあ、材料も渡せましたので、俺はこれで失礼しますね。」
「…そうですよね。お見送りしますね。」
2人で、玄関までむかう。
「それじゃあ、お邪魔しました。チョコ作り頑張って下さいね。」
「はい!! 頑張ります!!」
「それじゃあ、失礼しま…」
「あの!!」
「ど… どうしました?」
「ら… L◯NE交換しませんか!!」
「L◯NEですか? 別に大丈夫ですよ。」
「本当ですか!!」
「はい。」
俺は、スマホを取り出し、L◯NEを交換する。
「ありがとうございます!!」
「いえ、こちらこそ、ありがとうございました。今度のライブ楽しみにしてますね。」
「はい、精一杯頑張ります!!」
鬼集院さんと、別れて、家に戻った。
◇
「ただいま、咲。」
「おかえり、お兄ちゃん!!」
「今から、チョコ作るからラッピングは自分でしろよ。」
「は~い!!」
俺は、荷物を置いた後、手洗い・うがいをすませ、調理を開始する。
チョコを湯煎したり、フレーク類を砕いたりして、それらを混ぜる。
混ぜた物を、クッキングシートに並べ、冷蔵庫で冷やす。
その後も、他の物も何種類か作り、冷蔵庫に入れておく。
片づけを済ませ、ついでに夕食の準備を終わらせとく。
咲に、チョコが出来たことをつげ、自分の部屋に戻る。
「圭一に連絡でもしとくか。」
俺は、圭一にLI◯Eしておく。
すぐに連絡がつき、ライブは、圭一と行くことになった。
その後は、部屋でダラダラ過ごした後は、夕食を食べ、風呂をすまし、部屋に戻ると、鬼集院さんから、◯INEが、来ていた。
"今日は、本当にありがとうございました。日曜日のライブは精一杯頑張りますので、楽しみにしていて下さい。では、おやすみなさい。"
返信を返した後は、本を読み、区切りがついたところで、明日の学校に備えて、眠った。
◇
次の日、いつも通り、学校へ登校する。
昨日の件を話そうと思っていたが、圭一は、始業のチャイムがなっても、やってくる事は、なかった。
結局、朝のHRが始まって、少ししてから、登校してきた。
休み時間に遅刻した理由を聞いたら、興奮して、眠れなくて、朝起きれなかったらしい…
俺は、あきれながらも、日曜日の事について、話しあった。
その日の夜、鬼集院さんから、◯INEがきていた。
その内容に、少し驚きながらも、了承の旨の返信を送った。
◇
~日曜日~
朝起きた後すぐに、圭一が、遅刻しないように、電話しておいた。
圭一の意見で早めに会場にむかう事になったので、早々と駅へむかった。圭一は、電話をしたおかげもあるのか、遅刻せずにやって来た。来て早々、
「今日は、誘ってくれて、ありがとうな蒼夜。俺は、お前と親友になれて、本当に、良かったよ。」
屈託のない笑みを浮かべている。
「…それは、良かったよ。それじゃあ、行こうか。」
少し気恥ずかしくなった俺は、早足でその場を離れ、切符を買い、新幹線に乗り込んだ。かなり早いかと思ったが、かなりの人数がすでに、並んでいた。
俺たちも、その列に並び、入場する。入場するだけで、まさか、あんなにも時間がかかるとは思わなかった。軽く疲れたよ…
座席にむかう前に、圭一が、グッズが見たいとの事で物販店にむかった。俺も一応、服を買ってみたが、圭一は、俺が引くほど買い込んでいた。買った後は、圭一に言われるがまま、買った服に着替えた。
その後は、チケットに書かれている座席にむかう。席はかなりいい座席だった。改めて、大声で、圭一に感謝された時は、五月蝿すぎて、頭をひっぱたいていた。
ライブは、時間通りに始まった。
初めは、周りが騒がしいなぁと思っていたが、最後の方には、俺も一緒に騒いでいた。
ナイトセリナが、アンコールも歌いきり、ライブは終わった。
「いいものが見れた… 今日死んでも悔いはない…」
「馬鹿な事言ってないで、帰るぞ圭一。」
「おう。」
「あっ!!」
「ん、どうした蒼夜?」
「悪い圭一、ちょっと用があるから、先に行っていてくれ。」
「了解。物販店でも、また見てるよ。」
「悪いな。」
俺は、圭一と別れた後、ある場所へむかった。
そこには、既にある人物がいた。
「こ… こっちです天宮さん!!」
「すみません、お待たせしました、鬼集院さん。」
「いえ、無理言ってるのはこっちですから、全然大丈夫です!!」
「それで、鬼集院さん、俺に用とは何でしょうか?」
「あ… あの… その…」
急に顔を赤くして、モジモジしている。少し待っていると、
「あの、これ受け取って下さい!!」
紙袋を差し出してくる。
「…これは?」
「て… 手作りチョコです!!」
…そういえば、今日はバレンタインデーだったな。
「何で俺なんかに?」
「あ… いえ… その… 色々して頂いたので…」
何かしたっけ俺… でも、受け取らなかったら、失礼だよな。
「そうですか。では、有り難く頂きます。大切に食べますね。」
「はい!!」
とびきり眩しい笑顔だった。
その顔を見て、少し顔が赤くなっていたのかも知れない…
それを、隠すかのように、俺は、腰掛けポーチから袋を取り出す。
「そ… それなら、これは俺からです。」
鬼集院さんの手の上に、袋をのせる。
「え…」
「大したものでは無いのですが、お土産の一つでもと思って買ったものですが、チョコのお返しになれば、幸いです。」
「・・・」
「あれ? 鬼集院さん、もしかしていりませんか?」
「い… いえ、頂きます!! 返してと言われても、絶対返しません!!」
「よ… 喜んで頂けたなら、良かったです。」
その後、マネージャーの田中さんが迎えに来たので、俺も圭一のいる物販店にむかった。
圭一は、すぐに見つかった… 見つかったのだが…
「け… 圭一、お前荷物増えてないか?」
「ん、あぁ、蒼夜。そのな、見てたら欲しくなってしまってな気づいたら、レジ通してたわ!!」
「馬鹿かよ…」
「それで、蒼夜…」
何だか、悪い予感がしだした。
「…なんだ?」
「頼む、一生のお願いだ!! お金を貸してくれ!! グッズ買ってたら、全部使ってしまったん… 痛っ!!」
とりあえず無言で、お尻を蹴り飛ばした。
痛がりながらも、貸してくれと泣きついてきたから、最後には貸してしまった… しかも、あの野郎、昼食代まで泣きついてきやがった… 潔すぎて、蹴る気にもなれなかった…
そんな事もありながら、家へと帰った。
◇
「おかえり~、お兄ちゃん!!」
「あぁ、ただいま咲。」
玄関に入ると、咲が出迎えてくれた。
「ん、それは、何?」
すぐに俺が持っていた紙袋に気付き、指差す。
「あぁ、チョコだよ。今日貰ったんだ。」
「誰から貰ったの?」
「知り合いだよ。」
「ふ~ん… それってもしかして手作り?」
「確か、そう言ってたな。」
「ふ~ん… そうなんだ…」
「ん、どうした咲?」
「ううん、何でもない。はいこれ、お兄ちゃん!! 私からも手作りチョコ!!」
きれいにラッピングされたチョコを手渡してくる。
「ありがとう咲。有り難く頂くよ。でも、咲、自分で作れるなら、友だちの分も作ったらどうだ?」
「私が作ったのを食べていいのは、お兄ちゃんだけです!!」
「そ… そうか。それじゃあ、部屋で休んでくるよ…」
「はい!!」
部屋に戻り、貰ったチョコを開封する。
鬼集院さんのチョコは、お店で売っていると言われても遜色ないほど美味しかった。
咲の分も美味しかったのだが…
まぁ、両方とも、美味しかったのなら、それでいいか。
俺は、お礼のLIN◯を鬼集院さんへ、送っておく。
「ふぁ~~」
早起きしたせいか、眠い。時間を確認すると、晩御飯を作るまでまだ、時間があるので少し寝ることにした。
起きた時には、鬼集院さんから、返信がきていた。
返信を返した後は、晩御飯を作って、咲と食べ、いつものように、過ごし、今日あった事を振り返りつつ、俺は、眠りについた。
天宮蒼夜編は、これで終了です。