関係を解消したい・1〜ルイン視点〜
ルインさんのお悩み。
私が、レオナルド様……レオと会ったのは、侯爵家の侍女として数年が経過した頃だった。レオが15歳。私が13歳。レオの凛々しさや美しさや逞しさや優しさに惹かれるのは、直ぐだった。まさかレオも私を好きになってくれるとは思ってなくて。でも、身分差がある。彼は侯爵家の跡取りで私は平民。結婚は無理だと諦めていた。でも彼は、婚約者を決して作らず、見合いを断り続けていて。その優しさに私は甘えてしまっていた。……キスくらいはしていたけれど、それより先には進んだ事は無い。私以上に彼の貞操観念が強かったから、というのも一因だと思う。
そんなある時、彼が見合い相手の家から興奮して帰って来た。お相手はメルラ・レレン伯爵令嬢様。もしや、彼の気持ちを揺らがせるような方なのか。とうとうこの関係も終わるのか。そんな想いで彼の話を聞いて驚いた。メルラ様の協力で、私を貴族の養女にして、彼の、レオの妻にしてくれる、という話になった、と。
そんな上手くいくような話があるのか、と、2歳年上なのに、少し純粋な彼が心配になった。騙されているのではないか、と。でも、よくよく話を聞けば、メルラ様は本を書いていると言う。私は本が好きじゃないけど、レオ様は大好きで、そのレオ様がよく読んでいる本の作者が、メルラ様だ、と教えてくれた。そして、私達の恋愛話を元に小説を書きたい、と。
私達が結婚するまでサポートをしてくれるそうで、それから小説にしてくれる、と。本当に上手くいくのか、疑問に思ったけれど、レオがそこまで言うのなら、と、メルラ様に会ってみた。
初めて会った時、美しい人だと思った。でも、黒いワンピースを着て、控えめに笑っている人で。この人が仮とはいえ婚約者として、レオの隣にいるのは、胸が痛んだけれど、少しの我慢で、レオと結婚出来るのなら……と話に乗った。少しの間、レレン伯爵家に居て、貴族令嬢としての勉強やマナーやダンスなど、沢山覚えていった。いつの間にか、私の引き取り先が決まっていて、子爵令嬢になる、と教えてくれたのもメルラ様だった。なんでもメルラ様の知り合いの方の家らしい。
本当にメルラ様は、レオのことを何とも思っていないのだろう。あんなにかっこよくて凛々しくて優しくて逞しくて信頼出来る方を好きだったら、こんなに協力出来ないと思う。だから私は安心してメルラ様と仲良くなった。そうして、私は子爵令嬢として様々な事を学び、養父の子爵様も良い人だったし、未来は明るいと思っていた。
学園に編入するまでは。
そこで私は元平民、と罵られる日々を送り始めた。時にはわざと転ばされる事もあった。メルラ様が気付いてくれてからは、少なくなったけれど、それでも無くならなかった。子爵家に帰っても落ち着かなくて、偶にレオに会える事が楽しみだった。それでも、ちょっと辛い事の方が多くて、それ以上に、レオの仮の婚約者になっているメルラ様への令嬢達の風当たりが強いのが怖かった。
噂を聞けば、レオが卒業しても尚、女性に人気があると解る。それはそうだろう。侯爵家の跡取りだし、美丈夫というのか、金髪碧眼でまるで男神のような威風堂々とした姿。在学中は成績も良く、副会長を務め、剣の腕前も凄い。騎士にもなれるし、騎士団長にもなれるけれど、将来、宰相になってもやっていけると言われるくらいの人。颯爽としていて女性にも紳士で表情はあまり変わらないけれど、ふとした拍子に見せる笑顔が可愛い、とまで言われていたそうで。
そんな男性が恋人なのは嬉しかったけれど、本来ならそのやっかみを受けるのは私だったはずなのに、仮と知らない御令嬢達は、全てメルラ様に向けて嫉妬の炎を燃やしていた。それが私だったら、と思えば怖いと思う程。
例えば「地味」とか例えば「死神」とか。死神というのは、常に黒か灰色のドレスしか着ていないからだとか。私が会う時も常にその2色だわ。後は何年も同じ服を着ているのかしら、と思うらしく「貧乏」とか「流行遅れ」とか。多分、黒か灰色のドレスのせいなんだと思う。そういう色に流行なんて無いから。あるいは「貧相」とか。身体つきが女性らしくない、と言いたいらしい。スレンダーな身体つきにまで言う? と思ったけれど、よく見れば、メルラ様は肉が無い。思えば、昼食時もあまり食べていない。
そんな令嬢達のイヤミを聞いているのに、彼女はいつも堂々としていた。いえ、控えめだけど、決してイヤミに屈する事はなかった。私は助けてもらったのに、メルラ様を私は助けられなかった。だって、また標的が私になったら……と思えば怖くて。でもメルラ様はそんな私の気持ちに分かっている、とでも言うように微笑んでいた。
なんで、この人はこんなに自分を犠牲にしているのだろう。
ふと、そう思ったの。
長くなってしまった。
次話もルインさん視点です。メルラの過去が分かります。