オマケ・メルラとレンと騒がしき新婚生活・3
王妃様の私室に招かれてしまいました。えええ! マズイ! 心の準備がっ! 私は王族の居住区域にあるサロンかプライベート専用のお庭かと思っていましたのに……
「いらっしゃい、メルラちゃん」
護衛の方がドアを開けて下さり、その向こうから王妃様が笑顔を見せて下さいました。えっ。わざわざお迎えまでして下さったのですか? ああ、王妃様になんてことを!
内心で慌てつつも挨拶をして、侍女1人を残して人払いを王妃様はして下さいました。私の“話”というものが、余程だと分かって下さる王妃様は流石です。……今度王妃様主役のお話を書いてみましょうかしら。
「それで? 私に尋ねたいこととは?」
早速本題ですか。いえ、どう切り出せばいいのか分からなかったもので、有難いですけれども。
「あの。レン様……ブレングルス様、に、私、初夜に“愛している”と……」
「まぁあ! ブレングルス殿が? メルラを? まぁまぁ素敵だわ!」
私がポツリと言葉を零すと、王妃様が目を輝かせた。
「あの、ですね。その、閨ごとには愛の言葉を囁かないと出来ない……とか、そういったルールでもある、のでしょうか?」
「それが尋ねたいこと? ああ、そうね。メルラは結婚するつもりが無かったから閨ごとにも疎いわね。私もそういった話をするようなお茶会にあなたを参加させなかったし」
「閨ごとを話すお茶会⁉︎」
「妻の務めとして子を産まねばなりません。そのために閨ごとについて話すお茶会もあるのですよ。子を身篭るには……という話など色々です」
色々ですか。踏み入れた事のない世界に踏み入れてみたいです! ですが王妃様がメルラはやめておきましょうね、と仰ったので残念ですが諦めます。私が子を産んでも良いと思うまでは……とのお言葉でした。子を産む覚悟が出来ないと、そのお茶会には参加出来ないのかもしれません。奥が深い。
「先程のあなたの質問ですが」
王妃様がズレた話題を戻して下さいました。そうです。その事をお聞きしたいのです。
「ねぇメルラ。政略結婚で結ばれた夫妻が閨ごとを行う場合、相手を気遣い優しくすることはあるでしょうが、夫或いは妻を愛していないのに、愛しているとは言わないですよ? 聞いた話ですが……。中には親愛の情すら持たないまま結婚した夫妻は、互いの名前を呼ぶ事も無ければ、夫が妻を労る事も優しく気遣う事もなく、ただ作業のように行為をして、終わった途端に夫は妻を置いて夫妻用の寝室から出て行ってしまう事もあるそうです」
……それは。
とてもとても寂しいものではないでしょうか。いくら愛が無くても相手を気遣い優しくするのは、良い人間関係を作るのに必要なことだと思うのです。
「そんな夫妻に愛している、という言葉が出てくると思いますか?」
王妃様の問いかけに、私はハッとしました。では、レン様のあの言葉は……本心である、ということ。では私が?
自惚れで無ければ、私がレン様が待ち望んだ“愛する相手”だと……? そんな、まさか! だって私ですよ⁉︎
死神とか揶揄されたり敬遠されたりしている私ですよ⁉︎ そんなわけ……
「メルラ。ブレングルス殿のこと、よろしくお願いしますね?」
「は、はい。私で出来る事はなんだってするつもりです。私で役に立つのなら」
「もちろんよ。ブレングルス殿がメルラを大切にしているのは分かりますからね」
「大切……。あの、王妃様。大切、ですと、その初夜以降閨ごとはしないもの、ですか?」
「はい?」
あ。私、変な質問したのでしょうか。王妃様が笑顔で珍しく固まっています。
「王妃様?」
「えっ? メルラ。初夜以降、無いの?」
王妃様が笑顔を剥がして怖い顔で私に尋ねてきます。私が頷くと王妃様が溜め息をはきました。
「多分、ブレングルス殿は気を遣っているのね。王族は立会人の前で閨ごとを行います。メルラがその事を気に病んでいる、と思っているのやも。それに……ブレングルス殿がメルラを想うならば、メルラの心を大切にしているのでしょうね。メルラ」
「はい」
「立会人は初夜のみですから、気に病む必要は有りませんよ」
「あ、えっと、はい。でもそこまで気にしませんでした。えっとレン様が凄くて……立会人様の存在を私は忘れていましたから」
最初は気になりましたが、途中からレン様の事以外考えられなかった初夜を思い出して顔が熱くなります。だってずっと“愛している”って繰り返されたんです! レン様のお顔やお言葉や……私が覚えているのはレン様だけです。
「あらあら、そうなのね。では、ブレングルス殿はあなたの気持ちを慮っているのでしょう。あなたの心を占めているのはニコル。だから閨ごとを強引に進めたくないのでしょうね。政略結婚でお互いに気持ちが無い夫妻でも子どもを作る義務がある以上、1ヶ月も無しという事は有りませんよ。愛し合う恋人同士なら毎晩でもおかしくない事です」
なんとっ。閨ごととは奥が深いです! でも、そうするとレン様が私を気遣って下さっている?
「王妃様、私……」
「きっとブレングルス殿は愛を確かめ合いたいから、メルラが致しても良いと思うまで待っているのでしょう。メルラ。少しでもブレングルス殿に愛情を持てたら、その時はブレングルス殿に伝えてね」
それを機に王妃様とのお茶会は終わりました。レン様は、私がずっとニコを好きでいる事に配慮して下さっているという事でしょう。
愛情が無くても行える閨ごと。
でも愛情がある上で行うならば……それは確かに愛を確かめ合う術になるのかもしれません。
私は……
私、は、愛情を持って下さっているレン様に対して不実では無いでしょうか?
ただ子を産めば良いと思っていました。でもその前にレン様に愛する人が出来れば、身を引くつもりで……
子を産む? 私、何故、そのような事を考えたのでしょう? だってレン様に愛する人が出来れば身を引くのですから、私がレン様の子を産むことなど出来るはずがありませんのに……。
レン様……
何故、私の胸はこんなにも痛むのでしょうか?




