オマケ・それだけは知りたくなかった・1〜リクナルド視点〜
オマケ編。
リクエストをありがとうございます。
メルラからの結婚報告を知らされた話。
リクナルド編。
メルラからの手紙だ、と何故か叔父上が持参した。何故? 訝しみながらもメルラからの手紙に浮かれて封を開ける。メルラの繊細な文字が私の名前を綴るだけで胸に灯が点る思いをする。挨拶から始まるその文章はいつもと何も変わらず読み進めるのが幸せだ。だがその一文を目にして「は」と声を上げてしまう。
私の目の前にはまだ叔父上がいて。
無意識のうちに手紙から叔父上へと視線を送れば叔父上が私をジッと見た後にコクリと強く頷いた。まるで何が書いてあるのか分かっているかのような力強い頷き。頷くという事は肯定を示すということで混乱をする。
『私、メルラ・レレンはこの度王弟殿下であらせられるブレングルス様と結婚する事になりました』
国のあちらこちらを駆けずり回っている叔父上とメルラがどのように出会ったか。それは母上から聞かされているから知っている。だが結婚とは一体どういうことなのだと叔父上を見た。私が聞きたいことが分かっているかのように叔父上が口を開いた。
「そのままの意味だよ、リクナルド。私とメルラ嬢は結婚する。まぁ私はこれでも王族だ。先ずは婚約という形になるが。それから1年後に結婚をすることになる」
「……な、ぜ、何故、です?」
喉が渇く。その先を聞いてはいけない心持ちがする。だが叔父上を制する事が出来ない。耳を塞ぎたいのに塞げない。叔父上の口を開けさせたくないのに止められない。何故。何故。何故……
「何故も何もリック。君とレオナルド・バラスにマクシム・イオットがメルラ嬢の立場を追い込んだんだよ」
「私が……? あの2人と共にメルラを追い込む?」
叔父上の予期せぬ答えに鸚鵡返しになった。
「リックもレオナルド君もマクシム君もメルラ嬢の元に通っている姿が目撃されない、とどうして思っていたわけだい?」
その質問に私はグッと言葉を飲み込む。ややしてから叔父上に反論する。
「細心の注意は……払ってました」
「そうかもしれないね。メルラ嬢の兄達に会いに行くという口実を使えただろうがそれも頻繁であれば目撃の可能性は高くなる。その場合……特に君が足繁く通えば兄達に会いに行っているという口実も怪しまれる。何しろ我が国は小国だ。目が届きやすい。君とメルラ嬢の兄達が昔から仲が良いならともかく年齢も違うから学友とも言えないし、かと言って彼等兄弟が王家に目をかけられるような何かがあるとは思えない。結果、メルラ嬢目当てではないかとの邪推が成り立つ。そうだろう?」
叔父上の言葉は正論だ。頭で理解出来ても感情は……。
「ですが、何も結婚なんて」
「はぁ。ここまで言っても尚分からないのかい? メルラ嬢は幸いと言うべきか社交にはあまり積極的に出てこない。おまけに悪評の持ち主。そして何より未だ持って婚約しないのは亡き婚約者を想っているから、と知っている者は知っている。だからリックの行動がメルラ嬢目当てではないか? と疑われつつも確定していないんだ。そして君は隣国の王女と婚約中。彼女が嫉妬深い我儘王女なのは高位貴族は理解している。だからこそ君がメルラ嬢目当ての行動なんて無いだろう、という見方もある。君が隣国へ行っていた事もあったしね。だからリックの行動を様子見されていたんだよ。これ以上君の、そしてレオナルド・バラス、マクシム・イオットの行動が注目されればメルラ嬢は敵意の中で縁談を組まねばならない。下手を打てばどこぞの貴族の妾か後妻にでもさせられる。だから私は彼女を保護することにした。誰の目にも分かりやすいのが私の妻という立場だ。同時に君がメルラ嬢の元へ通っていた事に対する多少の目眩しになる。……解るな? リクナルド。これ以上はメルラ嬢に構うな」
……叔父上が私を愛称呼びしなくなった時点で私に逆らうことなど出来ない。叔父上の言い聞かせるような口調と一段と低い声は確実に、怒りを伝えてきていた。叔父上は怒っている。
私が婚約者を蔑ろにしていることも。メルラを側室にしようと甘く考えていた事も。
婚約者が嫉妬深いと分かっていてメルラに構った。その嫉妬がどうしてメルラに向かないと思えるんだ、と諭されているように聞こえた。そうだ。隣国の王女という立場の彼女がメルラを放置するとは思えない。何故私はそんな簡単な事すら気付けなかった? 叔父上と結婚することでメルラはその身の安全が保証された。
全て私が軽率な行動を取っていたから。
メルラはもしかしたらしたくなかった結婚をすることになり、叔父上は別の女性と結婚することだって出来たはずなのにメルラを保護する目的で自身の結婚を決めてしまわれた。私は……私はメルラにも叔父上にも望まぬ婚姻を強いてしまったのかもしれない。
せめて2人の結婚生活が穏やかなものになるように祈るしか、最早私がメルラにしてやれることなどないのだろう。
リクナルド、ようやく少し目が覚めたか……
君は有り得ない言動をメルラに対して行っていたって反省しとけ。……と作者は思います。
次話はマクシム編。
その次はレオナルド編を予定しています。




