続・7:未来を考えるための縁談
前話で3人からの求婚への返事は終わり、学園を卒業する直前のメルラは将来を考える必要が出てきました。
長めです。あとがきも長めです。
あれから3人とは殆どが手紙の遣り取りで友人付き合いが続いています。学園内でシムに会うけれど変わらない微笑みで近況を報告し合う日々。シムは予定通り学園を卒業したら王都へ向かうみたいです。私の1歳下のシム。でも長期休みには頻繁に王都へ行っているようでした。レオナルド様は侯爵家の当主になるために勉強を引き続きしていて時折その勉強の成果を手紙で知らせて下さいます。リクナルド殿下は婚約者の王女殿下に初めて手紙を書かれた、と知らせて下さいました。皆さんがあの件には触れないので私も触れないでこれまで通り友人として接しています。
でも思うのです。
いつまでもこのままではいけないのではないか、と。
愛を告白されお断りした身で仮令それでも良いと言われても友人付き合いを続けるなんて本当に許される事でしょうか。
いえ許す許さないではなく……なんだか私は息が出来ない感覚なのです。友人として接してもらっているのは分かりますのにそれが心苦しい。私自身が自分の思考を狭めているのかもしれませんが本当に息苦しい思いがするのです。
まるで私の心に他の方が入り込む余地が無いのなら友人としてで良いから一番近くに居させて欲しい。
そのように言われているようで。……いえそのように言われたからこそ、息苦しいのです。一番近く、と言われましても友人に序列を付ける事は出来ない。リクナルド殿下もレオナルド様もマクシムもそれぞれ違う人なのですから大切な友人として思う形もそれぞれに合わせて違うのです。それを一番にしてくれ、と言われても無理というもの。
私はどうしたら良いのでしょうか……。
そんな時でした。
ブレングルス王弟殿下からお手紙を頂いたのは……。
そこに書かれていた事に私は涙を流してしまいました。
“メルラ嬢が3人の求婚を断った事は王妃殿下よりお伺いした。もし未来について困っているのであれば君に一つ選択肢を授けよう。知っての通り私は国内を彼方此方と動いている。一つの所へ落ち着くのは現在の国王陛下が退かれた時であろう。
だから私と結婚しないか? 私と結婚してもメルラ嬢はレレン伯爵領から出る必要も無いからニコル君の墓の側にずっと居られる。でも対外的に私の妻だから煩わしい縁談から逃れられるし周りからの気遣いに身を縮める必要も無い。
メルラ嬢が望むなら私と共に国内を旅する事も出来るから小説の題材も手に入れられるかもしれない。私の仕事が少し落ち着いた時はレレン伯爵領に顔を出すくらいはするが、基本は城にある自分の部屋に留まるだろう。国王陛下が退位された時にこの仕事が落ち着く。その時はメルラ嬢が望みさえすれば離縁も出来る。いかがだろう?”
こんなに私に有利な縁談があるでしょうか? それも王弟殿下はご自身の望みを捨てるのと同じなのです。私は知っております。王弟殿下が愛する人を見つけたい、という事を。自分も愛しい気持ち溢れる目で誰かを慈しんでみたい、そう仰っておられました。ブレングルス王弟殿下は私のためにそのご自身の望みを捨てようとされているのです。
これを泣かずに読むことなど私には出来ませんでした。
かの方は私の未来のために私などのために、ご自身の婚姻をこの国で4番目に権力のある方の婚姻を下さると仰るのです。
この婚姻を私が受け入れさえすればお父様が縁談を探す必要も有りません。ニコの墓の側に好きなだけ居ることが出来ます。でもそれでは王弟殿下のお気持ちは何処へいくのでしょう。王弟殿下にとってこの婚姻は何の得にもならないのです。どこまでも私だけが有利な縁談。
こんな風に広いお心でいつも私の悩みを受け入れて軽くして吹き飛ばして下さる。
私はこの縁談をどうしたらいいのか。
頭では受け入れてしまえば楽だと分かっています。
でも感情では王弟殿下にどこまで甘えれば気が済むのか、と情けなくなる。かの方の望みを捨てさせてまで私と共に在る必要などないのですから。
王弟殿下ならどんな女性でも望める立場なのにあっさり私などに婚姻を持ちかける。
ーー暫く考えた末に私はこの縁談を受け入れる事にしました。
そんなわけで王弟殿下の求婚です。
メルラの幸せが何なのか考えて考えて考えた結果、王弟殿下の求婚が出てきました。
3人の求婚を断るのがメルラではないか、と考えたのですが、かといってメルラ父が勧める縁談に頷くとは思えない。でもメルラが独りで生きていくのは上位貴族の端くれである伯爵家の令嬢としては国として無い。
そう考えていたら王弟殿下というキャラが出来ました。
3人の求婚を断る→他の縁談を断る→そのための存在は……王弟殿下。
これがメルラが幸せになるための道筋かな、と。王弟殿下はメルラが幸せになるなら自分の婚姻を利用すれば良いと考えている方です。
王弟殿下が4番目の権力者というのは……
1番・国王陛下。2番・王太子殿下。3番・リクナルド殿下。で、4番目ということです。王位継承順でもあります。




