甘くて苦い恋の味〜メルラとニコル・4〜
運命の9歳を迎えます。
もうすぐニコルの9歳の誕生日が迫っていた。メルラはマクシムの犬から助けてもらったあの日からずっとニコルに恋をしていた。
だから8歳の誕生日には苦手な刺繍で精一杯、ニコルの家・スリレイ子爵家の家紋が入ったハンカチを作り上げた。もちろんそれだけが誕生日プレゼントではなくて、ニコルの母が言っていた「もう少し勉強を好きにならないかしら」という愚痴から、ノートと羽ペンとインクも準備した。
その時のニコルは、嬉しいけれど勉強を頑張るのか……と落ち込んでいたのを、メルラは覚えている。そんな去年の誕生日を思い出して、クスクス笑ってから、今年は何をあげようか悩んでいた。
メルラ自身が作った物もあげたい、とは思っている。
ガタガタの刺繍なのに、普段からニコルがそのハンカチを使っているのを見てしまえば、嬉しいし恥ずかしいし、また、手作りをあげたい。と思っても当然だった。もちろん刺繍は去年よりも上手くなっている、と信じたいけれど、毎年同じでもつまらない気がする。来年は来年で同じ事を悩むのだろう。
そう思いながら、先ずはメインの誕生日プレゼントを何にしよう、と思っていた。ノートと羽ペンとインクは、きちんと使用してくれている。……勉強するのが好きになったかどうかは分からないけれど。今年は……と考えて、自分の部屋に置いてあるお気に入りの本達が目に入った。
「そうね。ニコが好きそうな物語を贈ろうかな」
本もあまり読まないニコルだが、冒険物語や騎士が怪物と戦う物語など、男の子が好きな物語はやっぱり読んでいた。メルラは当然、ニコルが読んだ本も知っているので、ニコルが好きそうで読んでいない本をメインに贈る事に決めた。
もう一つは、手作りである。何を贈れば喜んでくれるだろうか。毎年同じ物でも良いかもしれないけれど、飽きられたら嫌だとも思う。色々考えて、お菓子を作る事にした。甘いクッキー。きっとニコルなら喜んでくれる。そう思いながら料理長に相談する事にした。
両親の許可をもらえれば良いとの事で、メルラは早速2人にお願いした。幼い2人の恋を応援している母と、娘を奪われる悔しさと娘の笑顔を天秤にかけて、娘の笑顔に天秤が傾いた父の了承を得たメルラは、その日から料理長の時間がある時と、自分の勉強の合間にクッキー作りに熱中した。そんな日々を過ごして迎えたニコルの誕生日。
「ニコ誕生日おめでとう」
「ありがとう、メル」
メルラからプレゼントを貰ったニコルは、本を嬉しそうに受け取ったが、それ以上に手作りクッキーを感動したように受け取った。
「食べていいのか?」
「もちろん」
サクッとした食感のクッキー。ニコルは夢中で食べ終えてしまい、残念な気持ちになった。
「メル。美味かった。けど、もっと食べたい」
「ごめん、ニコ……。それで終わり……」
「えええ! じ、じゃあ、また作ってくれ」
こんな事を言ってくれるなら、作った甲斐があった、とメルラは嬉しくなった。だから、誕生日パーティーの合間に、2人で庭に出たところで、そっと想いを告げる。
「ニコ、大好き。誕生日おめでとう」
「オレもメルが大好きだ。来年もその次も、10年後も、オレとメルが爺ちゃんと婆ちゃんになっても、こうして一緒だ」
メルラはその言葉が嬉しくて、少しだけ自分より背が低いニコルに抱きついた。ニコルは「うわっ」と声を上げながら、メルラを抱き返す。2人でクスクス笑い声を上げた。
「今度はメルの誕生日だな」
「うん」
ニコルはメルラからの誕生日プレゼントが嬉しかったから、自分も喜んでもらえる物を渡そうと心に決めて、笑顔のメルラをもう一度抱きしめた。
ーーこの時の2人は、ずっとずっと先まで一緒に居られると、本当に思っていた。
ちょいとリアルでやらかして、凹んでいる夏月です。
……PTA総会が開催出来ないから、紙面総会になるために、総会資料を事前にチェックしておいたのに……。令和2年度のPTA予算案の会長名が私の名前のままだった……。私の次の会長名にしないといけなかったのに、ミスった……。地味に凹む。
もう既に各家庭に総会資料を配布してもらった、と中学から連絡をもらったので、学校が再開してから訂正文書を配布してもらうべきだろうなぁ。
会長として、最後の仕事くらい、きちんと締めたかった……。凹む。
あ。メルラとニコルの話は、次話で終了です。「甘くて苦い恋の味・2」を引き続きお楽しみ下さい。




