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重なる心〜メルラとニコル・2〜

前話でメルラとニコルが婚約した過程を描きましたが、ニコルはちょっぴりメルラが気になる……という所。メルラは意地悪しないなら婚約を受け入れたので、ただの友達。

まぁ貴族の婚約って、お互いに恋しているだけとも言えないので。でも、今回は……という話です。

メルラがニコルと婚約をしても、あまり日々は変わらない。ただ約束通り意地悪をしなくなったニコルに「こんやくしてよかった」と思うだけだった。そうして2年が経った。メルラ・ニコル共に7歳。マクシム6歳。少しずつ大きくなっていく3人は、それでもメルラとニコルの2人だけで会う機会も増えていった。

意地悪をしなくなったニコルは、どうしたらメルラの笑顔が増えるのか、毎日考えていた。それを自分の父に相談すれば、一輪の花でも良いから遊びに行く時に持っていくといい、と教わり実践していく。最初こそ戸惑っていたメルラも、ニコルから花をもらうたびに笑顔が増えていった。


その笑顔が自分に向けられる事がこれほど嬉しいなんて、ニコルは思ってもみなかった。だからやっぱりメルラと婚約して良かった、と嬉しくなった。


「メル!」


「ニコ!」


以前のように外で遊ぼうと誘えば、きちんと外へ出て来るようになったメルラが太陽の下で笑うと、ニコルの胸がキュッと掴まれたような気持ちがしていた。それは別に悪いことじゃない、ということにも。

そんな日々が続いたある夏の日の昼下がり。今日はスリレイ子爵家にメルラは遊びに来ていた。今日はニコルの母とお茶会をするからだ。淑女教育が進んでいるか、ニコルの母がチェックするためではあるが、そこはさすがにメルラには話していない。なんと言ってもまだ7歳。粗相があっても仕方ない、と言える年齢だから。


だが、ニコルの母の予想に反して、メルラはだいぶ淑女教育が進んでいるらしく、子どもだから粗が有る事を前提で見れば、美しい所作の片鱗を見せつけてくる。時折背中を丸めてしまい、慌てて背筋を伸ばしてお茶を飲むところなどは寧ろご愛嬌で微笑ましい。

良いお嫁さんになってくれる、と密かに楽しみにしていた。同じ末っ子同士のメルラとニコルだが、やはり男3人の末っ子であるニコルは随分とヤンチャなので、女の子が欲しかったニコルの母は、メルラが可愛くて仕方ない。そのうちニコルの兄2人にもお嫁さんが来るだろうから、女の子3人を可愛がろう、とメルラを見て決意していた。


そんな折。


「あ、おばさまー!」


メルラには聞き慣れない、そしてニコルの母は時々聞く声が乱入してきた。


「ミミアちゃん、大声を上げては、はしたないわよ?」


苦笑しながらニコルの母が嗜める。ニコルの母の従兄の娘・ミミアである。割と裕福な商会を経営している従兄なので、その娘であるミミアは小さな頃から欲しい物は手に入る甘やかされた娘だった。

ニコルの2歳年上なのだが、どういうわけかニコルにベタベタとまとわりつくので、困っているところだった。


「ごめんなさーい。ニコルに会いたくて。ニコルは?」


「ミミアちゃん、その前にご挨拶をしましょう? メルラちゃん。この子は私の従兄の娘でミミアというの」


「はじめまして、ミミアさん。わたし、レレン伯爵家長女・メルラです」


おっとりとしながらも、ゆっくりとしたカーテシーでメルラが挨拶する。その姿も、ニコルの母には好ましく映っていた。


「私はミミアよ。メルラって、ニコルに婚約者になるように言った子?」


メルラとニコルの母は驚いた。メルラが婚約者になるよう、ニコルに迫ったのではなく、寧ろニコルがメルラに婚約者になって欲しい、と願ったのだから。


「ミミアちゃん、違うわよ。誰がそんな事を言ったの? ニコルがメルラちゃんと結婚したいって言ったのよ?」


「嘘! だってお父さんが、ニコルに婚約者になれって言った女の子がいるって!」


ミミアの発言に、ニコルの母は従兄に強く抗議しなくては、と決意した。事実を曲解して娘に教えるなど失礼にも程がある。


「ミミアちゃんは、誰と来たの?」


「今日は1人よ。それでニコルは?」


「ニコルならこれからメルラちゃんとお勉強の時間だから、ミミアちゃんとは遊べないわ」


「なんで? 私もニコルと勉強する! こんな女の子が一緒で私がダメなんておかしい!」


……何もおかしくない。ミミアは貴族では無い。貴族の勉強をする必要がないのだ。メルラをチラリと見れば、困惑したカオでニコルの母を見ていた。


「母上!」


「あら、ニコル」


「ニコル!」


「ミミアちゃんか。なんでいるの?」


ニコルがやってきた途端に、ミミアはニコルの腕をギュッと掴む。それを見たメルラは、胸がギュッと痛くなった。ニコルは直ぐにミミアから離れて、母の元に行く。


「母上、メルとのお茶会は?」


「終わりましたよ」


「じゃあメルを連れて行っていい?」


「ええ」


「メル! 行こう!」


ニコルはメルラの手を取る。いつの間にか、幼いながら紳士のようにエスコートを覚えていた。メルラはホッとしてニコルの手を取ろうとしたが、その寸前、ミミアがメルラの手を叩いた。


「何するんだ!」


ニコルがミミアに怒る。ミミアは一瞬怯んだが、ニコルに訴えた。


「だって、この子がニコルに無理やり婚約者になってって言ったんでしょ⁉︎」


「違う。オレがメルと結婚したいってお願いしたの!」


「嘘!」


「嘘じゃない!」


嘘、嘘じゃない、のやり取りを繰り返す2人に、メルラは割って入る。


「あの、ミミアさん。ニコルはわたしの婚約者です。その、ち、近づかないでください」


精一杯、メルラはミミアを牽制する。淑女教育の一環として、既に婚約している相手に近づくのは、男性でも女性でも失礼だとメルラは教わっていた。それを実践したのである。


「なんでよ! ニコルはあなたのものじゃないのよ!」


「わたしは婚約者です! ニコルはミミアさんのものじゃありません!」


元々メルラは人見知りで、とても仲良くなった相手でなければ、このように大声を出すことすら出来なかった。出会ってから2年経つマクシムにさえ、未だ大声を上げる事など出来ていない事からもその性格は知れる。

だからニコルもニコルの母も、精一杯メルラが頑張っているのを驚くと同時に嬉しいと思っていた。ニコルなど、ちゃんと自分がメルラに認められている、と思って嬉しくなっていた。

メルラにライバル(?)が現れました。

でもライバルにはなりません。ちゃんとニコルの両親がミミアの父(ニコル母の従兄)にきっちりお話をするので。

スリレイ子爵は本編(ルイン視点)で、その怖さの片鱗を見せてますが、怒ると怖い方です。という裏話。

長くなってしまったので、一旦切ります。次話もサブタイは「重なる心」です。

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