愛しき日々〜メルラとニコル・1〜
書いた本人が需要が無いだろうなぁ……と思っていた続編を希望して下さった皆様、ありがとうございます。(続編希望が無かったら、本当に執筆する予定は無かったので驚きと喜びの中にいます)
感想でメルラの事を知りたい、と言って頂きまして、嬉しかったです。
先ずはメルラと婚約者・ニコルの話からよろしくお願いします。
「なぁ、メルってば! 本ばかり読んでないで遊ぼうぜ!」
「ヤダ。ニコってば、いっつもイモムシとか幼虫とかカエルとか、わたしの手にのせて笑うんだもん!」
……メルラ・レレン5歳。ニコル・スリレイ同じく5歳。物心ついた時から互いの領地を行き来していた父達に連れられて、いつも2人で一緒にいた。メルラにもニコルにも兄が2人ずつ居るのだが、メルラの兄は、上が14歳。下が12歳。と、かなり離れているので、一緒に遊ぶ事が殆ど無い。ニコルの兄は、上が10歳。下が7歳で、まだ遊びたい盛りのため、わりと4人で遊ぶ事が多かった。
但し。男の子3人に対して女の子1人のメルラが、いつも彼らに振り回されて結局は疲れてしまって遊ぶ事を諦める。そうしてメルラは元々の内気な性格と相まって、外で遊ぶ事を嫌う令嬢に育っていた。そんなメルラをいつも外に引っ張り出すのが、ニコル。強引で意地悪なニコルの事がメルラは嫌いだった。
でも、いつもニコルに無理やり外に出されてしまう。だからメルラも精一杯抵抗してしまう。それがこの幼馴染み2人の関係だった。
「今日はシムも来るから、会わせてやるよ!」
「シム?」
「マクシム・イオット。イオット男爵の子」
「マクシム・イオット……。ニコみたいに意地悪じゃなければいいわ」
メルラはとうとう本から離れて、ニコルと共に外へ出る事にした。いくら領地が隣同士の家の子でも、互いの屋敷へ行く時は馬車が必要で。だからニコルの屋敷に行くには馬車に乗るのだろう、とそちらへ足を向け始めたのだが。
「メル? どこに行くんだ?」
「どこって……ニコの家に行くんでしょ?」
不思議そうなニコルに、更に不思議そうにメルラが首を傾げた。
「ああ! いや、ちがう。シムはもう連れて来た」
「えええ? ニコってば、私が会わないって言ったらどうするつもりだったの?」
ニコルがニヤリと笑いながら言うから、メルラは呆れたように笑った。まだ5歳とはいえ、それぞれに貴族教育が始まっている2人は、大人びた言動も多かった。
「メルがそんな事を言うもんか。オレの友達に会いたいって言ってたからな!」
「前に言ってた黒髪の友達?」
「そうさ」
成る程、とメルラは思った。ニコルとメルラの1歳年下で、黒髪を気味悪いと言われていた男の子と友達になった、と言っていた。その友達にはメルラも会いたいと言っていたのだが、連れて来たらしい。
そうして、メルラはマクシムと出会った。
マクシムは、髪色のせいで人と関わる事が苦手な色白の男の子だった。マクシムの母が黒髪らしい。イオット男爵は鮮やかな黄色の髪をしていた。果実のレモンの皮のような鮮やかな黄色。だからマクシムは、父とは違う髪色に萎縮していた。
「メルラ・レレンです。よろしくね」
辿々しいカーテシーを披露したメルラの笑顔にマクシムは一目惚れしてしまったが、まだ4歳の彼には自分の気持ちの変化には疎かった。
だが、その笑顔に惹かれて、マクシムはメルラとニコルというかけがえのない友達を作る事が出来た。
***
(ニコル視点)
メルに虫やカエルを見せるのが、オレは好きだ。涙を目一杯浮かべてオレに怒るメルを見るのが楽しい。だから、シムを勝手に連れて来た事も怒るメルを見るのが楽しかった。シムにもメルと仲良くなってもらいたかった。
だけどーー
メルの笑顔を見たシムが、顔を真っ赤にさせて、ジッとメルを見ていた事が気に入らなかった。そして、メルも初めて会ったシムに笑いかけるのが嫌だった。仲良くなって嬉しいのに、仲良くされるのが嫌で、どうしてこんな風に思うんだろう。
メルとシムが仲良く遊んでいると、なんだか悔しかった。
「ニコル。メルラさんって可愛いね」
シムをイオット男爵家へ送る馬車の中で、シムは顔を真っ赤にさせてメルを可愛い、なんて言った。オレはムッとした。なんでシムにそんなことを言われないといけない?
「そうかな」
なんだかイライラしてモヤモヤして、それ以外言えなかった。シムはオレがイライラしていることに気づいたのか、だまった。それに分かったけど、オレは何も言えなくて、ただ「またな」としか言えなかった。
「お父さん」
屋敷に帰ってオレは父にこの気持ちについて相談したかった。
「ニコル? どうした」
「お父さん、オレ、すごくイライラする」
そう言って、今日のメルラとマクシムとのやり取りを話した。父が途中からニヤニヤしている。なんでだ。
「つまり、ニコルはメルラちゃんがマクシムに笑ったのが嫌だった、と」
「うん」
「なんで? メルラちゃんはこれからたくさんお友達が出来る。そうしたらもっともっとニコル以外にも笑いかけるよ」
オレは、それにショックを受けた。
メルの笑顔が他の人にも見られてしまう。
それはすごくすごく嫌だった。
「そんなの嫌だ。オレが1番がいい」
「ふぅむ。メルラちゃんが他にも笑いかけることが嫌でも、お友達がたくさん出来たらそうなるよ」
「じ、じゃあ、メルの笑顔をオレがずっと見たい」
オレが焦って言えば、父はますますニヤニヤして、言った。
「じゃあ婚約すれば良い」
「こんやく?」
「お父様とお母様みたいに、結婚して家族を作る約束をした人。まだ結婚は出来ないけど大人になったら結婚出来るから、ずっとメルラちゃんと一緒だよ?」
ずっとメルと一緒。
それはすごく良いことだと思って。
オレはメルとこんやくすることを決めた。
メルラのお父さんもメルラとオレのこんやくを受け入れてくれて、うれしかった。
「メル」
「なぁに?」
婚約者として挨拶に行こうね、とお父さんに言われてメルに会った。
「メル。ずっとずっとオレと一緒にいて笑っていてね」
「なんのこと?」
そのメルの驚いた顔を見て、オレが驚いた。メルとこんやくしたから、けっこんするのに、なんで驚いているんだろう。
「メル。オレとこんやくしたんだよ」
メルは更に驚いたカオをして、可愛いって思ったんだ。こんやくした事を知らなかったらしいメルは、オレに言った。
「意地悪しないならけっこんする」
「もうしない。だからたくさん笑って」
こうしてオレとメルはこんやくしゃになった。それをシムに話したら、喜んでくれると思ったのに、シムは傷ついた悲しそうなカオで「良かったね」と言った。
オレはなんだか悪い事を言った気がした。
わざとひらがなで書いてある部分もあります。
メルラとニコルの話の後は、レオナルド・リクナルド・マクシム視点の話になる予定です。……多分。ちなみに、メルラが誰かと新しい恋に落ちるかどうかは、現状思い浮かんでいません。
正直、どうなるのか、私にも見当が付かない状況です。




