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最終話:友人付き合い〜レオナルド視点〜

最終話です。レオナルド視点。

ヒロイン・メルラは恋愛を無意識のうちに排除していますので、メルラが好きになる事は無いです。

「頼みがあるのだが」


一頻り泣いて恥ずかしいとは思うが、今の俺は誰かに縋りたかった。それが4歳も年下のこの少女である事は何故か恥ずかしいとは思わないけれど。


「なんでしょう?」


「その、友人付き合いをしてもらえないだろうか」


「私とレオナルド様が友人、ですか?」


「……ああ」


「もう友人だと思っていましたが、改めて言われると恥ずかしいものがございますね。よろしくお願いします」


レーメ殿に改めて友人付き合いを申し込めば、そんな返事があって、そうか、友人として接してくれていたのか、と、なんだか擽ったい気持ちを抱えた。その後、レレン伯爵から婚約解消を申し出され、父は思いの外アッサリと話を受け入れた。


レーメ殿が言っていたっけ。


「私達の婚約解消はバラス侯爵様も受け入れて下さるはずです。侯爵様はレオナルド様とルイン様の関係をご存知でした。ですから、もしかしたら、ルイン様を正妻ではなく愛妾として迎える事を許したかもしれません。……そこまでは聞いておりませんから解りませんが。でも、レオナルド様とルイン様がお別れになった事を聞けば、私と婚約解消をしても構わない、と思われるでしょう。私ならルイン様を受け入れられますが、他の女性では受け入れられなかったはず。ですが、別れたなら、寧ろ何の意味も無い私達の婚約を続ける意味など有りませんから」


「それでは、レーメ殿を当て馬にするようなものではないか!」


「私は別にそれでも構いませんでしたし、バラス侯爵様も父親です。息子が幸せになるために、好きな女性と一緒にさせたかったと思いますわ。多分、レオナルド様が何度か見合いを断ったので気付かれたのでしょう。でも、ルイン様との身分差を考えて、正妻とレオナルド様との子どもを跡取りにする必要があるけれど、レオナルド様とルイン様の関係は裂くつもりなど無かったか、と。ですから、私を見合い相手に指名されたのでしょう」


それでは、レーメ殿の幸せなど無視するような事では無いのか、と父を詰りたかった。けれど、いつか別れる事を前提として、レーメ殿と婚約した俺だって同じだ。父を責める資格など無い。だから、俺はレーメ殿との婚約解消をすんなり受け入れた父の元から一刻も早く立ち去るしか、出来なかった。


俺は情けない。


初恋に浮かれて、それも恋人になった事で更に浮かれて、本当に周りが見えていなかった。侯爵家の跡取りの自覚を持っていたつもりだったが、家族を心配させ、1人の女性に傷を付けた。

レーメ殿は理解しているとはいえ、令嬢として傷を付けたのは間違いないのだ。

挙げ句、恋人の心にきちんと寄り添えずに、恋人と別れる事になってしまった。


そんな俺が縋り付いたのが、俺によって令嬢としての価値を傷付けられた4歳下の令嬢なんて……。これを情けないと言わずになんていうのか。


そう思っても、俺はまだ立ち直れる自信が無かった。


それから10日に1度、手紙のやり取りをして、2ヶ月から3ヶ月に1度、レーメ殿に会う事にした。レーメ殿との手紙のやり取りは他愛無いもので、新作は冒険ものにする事とか、庭の薔薇が今朝咲いたこととか、刺繍糸を買い忘れて慌てて買いに行ったこととか。俺自身も、剣の稽古をしていてうっかり枝を折った事とか、遠乗りで風が気持ち良かったこととか、王太子殿下の側近候補に決まったこととか、そんな事を書いた。


ただそれだけの事が、俺をどれだけ救ったか。


そうして俺が殿下の側近候補に決まったことを報告した後に会いに行った時のこと。今日も黒いドレス姿のいつものサロンで、レーメ殿はおっとりと微笑んでいた。レーメ殿のこの微笑みは、見る者を落ち着かせてくれて、俺は今日もホッとする。


「レオナルド様、こちらを」


レーメ殿から綺麗に包装された長方形の箱を渡され、俺は首を傾げながら包装を解いた。箱の蓋を開けて、驚いた。


「これは」


「隣国では使用する方が多い、万年筆というものですわ。私もコレを愛用しておりますの。羽ペンは直ぐにインクが擦れてしまいますでしょう? ですが、コレはかなりインクが持ちますのよ」


そう言ってレーメ殿が自分の愛用品で使い方を教えてくれる。確か、王太子殿下もこの万年筆という品を使っていたはずだ。かなり高価な物だと聞いている。


「いいのか?」


「もちろんですわ。友人が王太子殿下の側近候補に選ばれた。こんな喜ばしい事は有りませんもの。お祝い品としてお納め下さいな」


俺が震える手で礼を述べれば、レーメ殿は屈託ない笑顔を見せてくれた。俺は何故かその笑顔を直視出来ず、視線を逸らす。頬が熱い気がした。レーメ殿は全く気にしていないように俺の不審な態度を物ともせずに、手紙と同じく他愛無い話をしてくる。そんなレーメ殿に俺は安堵して、時が経つのを忘れる程だった。


時計が知らせた時刻は、昼食の時間帯で、俺はここまで時が経つのを忘れた事に狼狽えた。


「も、申し訳ない。こんな時間まで!」


「構いませんわ。レオナルド様にまだお時間がありましたら、昼食をご一緒にいかがでしょう?」


まだ話は尽きず、俺は離れがたくてその申し出を受け入れた。昼食後のお茶でも俺とレーメ殿は話が弾んだ。だが、あまり長居をするのも悪いと思う。大体、友人とはいえ、未婚のご令嬢の元に長居をするのは、彼女の評判に響くかもしれない。


楽しいひとときを過ごした身としては、もう少しだけこのままで居たい、と思いつつ、暇を告げると、玄関まで彼女は見送りに来てくれた。彼女も、俺と離れるのが惜しいのだろうか。そう思ってくれていれば良い。


……えっ。俺は、今、何を思った? 彼女と離れるのが惜しい? 何故、そんな。


戸惑いながら、帰ろうとした矢先。


慌ただしく馬車が到着する音が聞こえてきた。


「あら、どなたかしら。ボブレー。今日はどなたかいらっしゃる予定でした?」


「いえ。何の予定も有りません」


予定外の客。執事と一緒に首を傾げている彼女が可愛い、と思った。サラリとこぼれる髪を触れたくなって手を伸ばそうとしたところで「メルラ!」と叫ぶ男の声がした。彼女の、名前を呼び捨てに、する、男ーー。


「この声は、まさか!」


レーメ殿……いや、メルラ殿が、たった今まで俺を映していた目が、俺から逸らされた。その事実に俺は愕然とした。


「メルラ」


「殿下!」


殿下? 王太子殿下? まさか。王太子殿下がどうして。


「メルラ、お忍びだ」


「失礼致しました。リクナルド様」


「メルラ。リック、だ」


「リック様、いつ国にお戻りに?」


「今だ。真っ先にお前に会いに来た。ところで、そこにいる男は」


リクナルド……。隣国へ留学しているという第二王子殿下か! 彼女とはどういう関係なんだ?


「こちらは、ミシュルク王太子殿下の側近候補に決まられたバラス侯爵家の長男・レオナルド様ですわ」


「どういう関係だ」


「友人です。リック様と同じですね」


「……なら、いい。リクナルドだ。兄上の側近候補とか。側近になれるよう励むと良い。それから友人にしては、少々距離が近いな。もう少し離れろ」


「リック様と似たような距離です」


困ったような表情のメルラ殿が、それでも俺から離れる。その瞬間を狙って、リクナルド殿下は彼女の手を引き寄せ、自分の背に隠した。俺は苛立ちを覚える。彼女が俺から離れた事も、他の男の背に隠された事も。そんなのは許せない。


ーー彼女は、俺の隣に居る女性だ。


そう思った時、俺は彼女をどう思っているのか、気付いてしまった。


ーー俺は彼女が好きなのだ。


そう思ったものの、今は口に出せる状況じゃない。とにかく彼女と話し合う機会を設けて想いを告げなくては。


「レオナルド様。こんな状況で申し訳ないのですが、またお手紙を出しますね」


「……あ、ああ。また来る」


「二度と来るな」


「リック様。あなた様が私の友人に口を挟むのは、例えあなた様でも失礼ですわ」


「メルラ、だが」


「お待ちしていますね、レオナルド様」


メルラ殿がリクナルド殿下の言葉にツン……と背けば、リクナルド殿下がオロオロした表情を見せ、メルラ殿はそんな殿下に見向きもせず、俺に笑いかけてくれた。


その笑顔の愛らしさに照れて目を逸らせば、メルラ殿の隣に居る男から嫉妬の目を向けられた。……あれは、間違いなく、恋する者の目だ。絶対に彼女を奪われるわけにはいかない。


俺は今度こそ、愛を貫いてみせる。


そう決意した俺はまだ知らなかった。

リクナルド殿下が本気で彼女を落とそうとしている事を。

彼女に懸想している男が他にもいる事を。

だが、それ以上に手強いのは……


ーー彼女自身だという事を。





(了)

最後の最後で新キャラ登場。


ちなみに、新キャラ登場したこの時は、更に1年が経過しているので、レオナルドが21歳。メルラは17歳です。リクナルド殿下は19歳。


色々裏設定あります。チラリと裏設定。


レオナルドは8歳くらいまで病弱で跡取り教育すら受けられないくらいだった。段々と体力回復して、跡取り教育を始めて13歳くらいでようやく跡取りとしてなんとかなった。でも予断を許さないので婚約者は付けられず。15・6歳を迎えた頃合いから見合いを始めたが、その時にはルインと恋に落ちていた。



リクナルドは、兄の王太子が国内の公爵家の娘と婚約し、弱小国なので、自身が留学していた国の王女と幼い頃から婚約している。隣国の王女との仲が悪いところへ、メルラと出会って恋をした。



チラリとも出ていないけれど。

マクシム。貧乏男爵家の長男だが、男爵と正妻の子では無いため、跡取りではない。メルラの婚約者だったニコルと友人で、その頃メルラと出会い、密かに恋する。でもニコルとの仲を邪魔する気は無かった。年齢もメルラの1歳下。メルラがニコルとの思い出を話せる数少ない信頼できる友人の座をキープ中。


この後はどうなることやら。

それは誰にも分かりません……。

続編の需要があれば書きますが、需要があるとも思えないのでこれで完結です。


お読み頂きまして、ありがとうございました。


本作は単なる思い付きです。ひとつの恋愛を応援するヒロインが思い浮かび、身分差の恋愛に悩むレオナルドのキャラが浮かんだので、見切り発車で執筆した作品です。


メルラはこのまま一生独身でいるのか。

レオナルドに絆されるのか。

リックと恋に落ちるのか。

はたまたマクシムの長年の想いに応えるのか。

想像すると書きたくなりそうですが、残念ながら今は書けないので、その妄想は閉じる事にしておきます。


では、読んで下さった皆様、お身体を大切に。コロナウィルス終息宣言を一刻も早く聞きたい、と願いつつ。


2020年5月3日執筆完了。

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