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別れを切り出された〜レオナルド視点〜

レオナルド視点。突然別れを切り出されたレオナルドです。

「どう、いう、こと……」


「他に好きな人が出来たわけじゃないわ。それならさっき言ってた。私、あなたの隣に立って、嫉妬を浴びる覚悟が持てない」


俺は、最愛の恋人であるルーに、別れを切り出された。

初めて会った時は、可愛いとは思ったけど、それだけだった。物慣れなくて失敗ばかりのルインにハラハラして、出来るようになると、自分の事のように嬉しくなった。一緒に笑ううちに、この子と暖かい家庭を築きたい、と思うようになった。だから、愛を告げた。受け入れてもらえたけれど、そこまで現実は甘くない。侯爵家の跡取りとして、結婚するのに、それなりの身分は必要だった。


でも婚約者は作らない事を示そうと、見合いは断っていた。そんな時に、父から7人目として言われたのが、死神とか、貧乏とか、陰気臭いとか言われるレレン伯爵令嬢だった。正直、噂を聞く限りでは、ルーの事を抜きにしても、有り得なかった。だから、即刻断って帰ろうと思っていた。そんな俺を彼女は呼び止めて、俺の真意を明らかにしてしまった。


そして、俺とルーの恋を応援する、と。協力する、と言ってくれた。その見返りに小説を書かせて欲しい、と聞いて驚いた。俺が今夢中になっている、レーメ殿だったから。興奮の余り気絶したのは、黒歴史だ。そうして彼女が聡明な事にも納得出来た。契約書を交わして彼女の協力の元、ルーが子爵令嬢として迎え入れられた。ここまで順調だったのに、何故。後は、レーメ殿ことメルラ嬢との婚約解消だけだったのに。


「嫉妬を浴びる覚悟」


「怖くて無理だわ」


「俺が守るって言ったのに」


「それだけじゃない。私、嫌な女だった。頭では納得していたのに、心のどこかでレオの婚約者役のメルラ様に嫉妬してた。だから、令嬢達の嫉妬を浴びるくらい、当然だって思ってた」


「それは、でも、嫉妬させた俺が悪い。でもレーメ殿は別に大丈夫だろ」


「何故?」


「えっ?」


「何故、メルラ様が大丈夫って言えるの?」


ルーの真剣な目に、俺は思った事を口にした。


「だって、死神とか陰気臭いとか、俺の仮の婚約者になる前から言われてたわけだし。今更だろ?」


傷つくような気弱な令嬢だったらマズイけど、偶に見かける夜会でそんな噂を耳にしても、平然としていたぞ?


「あなたまで、そんな噂でメルラ様を判断するのね」


「いや、だけど。本当の事じゃないか。いっつも黒か灰色のドレスしか着ていないし。陰気臭いだろ」


というか、今はレーメ殿の事なんかどうでもいい。俺達の未来の話だろう。話を戻そうとしたところで、足音がした。俺達は、レーメ殿の厚意でいつも庭園を貸してもらっている。必ず適当なところで、新しいお茶を侍女が持って来てくれるから、今日もそれだろう。現れたのは、レーメ殿付きの侍女だった。


「ありがとう」


とりあえず、礼は述べる。直ぐに下がろうとする侍女をルーが呼び止めた。


「私、子爵様から、メルラ様の過去を聞きました」


侍女が、ハッとした表情を見せた。レーメ殿の過去?


「あなたから見た、メルラ様の事も聞いていいですか?」


「お嬢様に言わないで下さいね」


念押しされて聞いた、レーメ殿の過去。愛する人を失う悲しみを知っている。そして、今も尚、その婚約者を慕っているからこその、黒いドレス。

俺は、噂だけで、彼女を判断していた。なんて愛情深い人なのか、全く知らずに。俺は最低な男だ。


「ありがとうございます。やっぱり、メルラ様は今でも……?」


「左様でございますね。割り切っている部分は有りましょう。でも、今でも婚約者様を想っていらっしゃる。そう思う事もあります。……お嬢様は、ご自分の幸せを、放棄していらっしゃる。私達使用人一同は、その事が気がかりで。いつかまたどなたかを愛してもらえれば、と思っております」


レーメ殿は、そこまで人を思っているのに、俺はなんてバカなのだろう。そんな人を噂だけで判断して貶めていいわけじゃないのに。


「ありがとうございました」


ルーが礼を述べると、侍女が去って行く。


「今の聞いたでしょ? そんなメルラ様に私は嫉妬して。令嬢達の嫉妬を当然だと思って。挙げ句メルラ様を助けようともしなくて。こんな私が、レオの隣に立つのは相応しくないわ」


「ルー」


俺は、ルーの気持ちを思い遣る事が出来ていなかった。


「私じゃ、あなたの隣に立って貴族の、令嬢達の、嫉妬や怖さに立ち向かえる勇気がないの。ごめんなさい」


歯を食いしばる事しか出来なかった。それから、ルーの、ルインの話を聞く。それに対して言葉をどれだけ尽くしても、ルーは気持ちを変えなかった。ルインの意思は固かった。


「レオを嫌いになったわけじゃない。でも勇気がない私を許して」


最後にそう言われて、俺は別れを了承するしか無かった。レーメ殿に話をして、養女の件も無かった事にして欲しい、と。レーメ殿は、悲しそうに了承してくれた。ルーを送ろうとしたら、首を振られた。ここで別れろ、という事らしかった。


「お茶を飲んでいかれますか?」


レーメ殿は、心配を言葉にする代わりに、ただそう言った。サロンに通された後。何も聞かず、ただ静かに2人で茶を飲んだ。その時間が、ささくれだった心を少し和ませてくれた。お茶を飲み干した後に、レーメ殿がそっと切り出した。


「こういう事を今、言うのもなんですが」


「何か」


「婚約を続ける意味も無いでしょう。解消致しましょう」


……そうか。確かに、レーメ殿との婚約は、互いの利益が一致したからだ。俺達が別れてしまえば婚約を続ける意味は無い。


「そうですね」


「では、契約書を破棄しますのでお待ちを」


侍女に契約書を持って来させて、俺の目の前で契約書を震える手で破る。その表情は痛ましそうなものを浮かべていて、ああ、俺達の仲を本当に心から応援してくれていたのだ、と初めて理解した。


「私の父からバラス侯爵様に、婚約解消を申し出るはずです。レオナルド様は評価の高い殿方ですから、次の婚約相手も直ぐに見つかるでしょう。あなた様が望むと望まないとに関わらず、侯爵家の跡取りである以上、結婚をしなくてはならない。……レオナルド様はとても窮屈な想いをされているんですね」


労わるような声に、俺は泣いた。

そう。俺は貴族である事をやめられない。

俺の両肩には、領民の生活が乗っている。どれだけルーを愛していても、バラス侯爵家の跡取りである以上、捨てられない。だから、ルーが夫人として立てないなら、別れるしか無かった。

自分の幸せだけを追い求めていいなら、俺は貴族である事を、跡取りである事を放棄しただろう。

でも俺は、それが出来ない。


本当にこの人は愛情深く、人を思い遣る気持ちを持っている。

俺が跡取りである事を放棄出来ない、と解ってくれている。その上で、放棄したかった俺の心に寄り添ってくれた。


ーーああ、だからこの人は、あれだけの小説が書けるんだ。


俺はようやく、彼女とレーメ殿が同一人物である事を心から納得した。

ルインさんとレオナルド。お別れです。


レオナルドは、メルラとレーメが同一人物である事を内心疑っていました。やはり貴族令嬢が……という考えが頭の片隅にあったのでしょう。ようやく納得します。

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