第一章 勇者召喚される6
「それでは、ワイズ様。今からサプライスの内容を発表させて頂きますね!」
ノリノリのマリア。もう好きにしてくれ……。
最早、このノリにも慣れてしまったようだ。全然動じない自分が居る事に、誇らしさすら感じるね。
そんなどうでも良い事を考えながら、サプライズとやらの説明を始めるマリアの声に耳を傾ける。
「ずばり、『勇者の剣』継承の儀を執り行います!」
「勇者の剣……!? 何だそれ?」
という俺の疑問に対して、
「質問は後でお願いします」
と、返事をするマリア。そして、
「まずは、剣をこちらに!」
そのマリアの呼び掛けに応え、玉座の右後ろにある扉から、剣らしきモノを抱えた見覚えのある兵士達が現れた。
兵士達はこちらに向かって歩き出す。その動きに合わせて、マリアも玉座のある場所から、こちらに向かって歩き出した。そして、
「こちらを……」
「ありがとうございます」
剣をマリアに差し出す兵士。それを受け取り、礼を述べるマリア。
その言葉に対し、兵士達は一礼してマリアの後ろに下がった。あいつら、今までずっとスタンバってたのか……。
本来、このサプライズは俺が来たら直ぐに始まる予定だった筈。なのに、想定外の事で時間を取られ、今に至る。
それなのに文句一つ言わないなんて、本当にあいつらは兵士の鏡だな。
兵士達の忠誠心に感嘆する俺を他所に、継承の儀式は進んでいく。
「ワイズ様。こちらが我がグランソード王国に纏わる伝説の剣『勇者の剣』です。こちらは、歴代の勇者様達がお使いになられた由緒ある剣でして、必ず魔王討伐の旅に役立ってくれる筈です」
勇者の剣について説明してくれるマリアに対して、
「……ふーん。そうなのか」
あまり興味がなかった俺は、適当な返事をする。俺ってば、別に剣士じゃないし。
剣が使えない訳ではないが、魔法の方が得意だ。それに、近接戦は苦手だ……正直、疲れる。
「何ですか、その態度は?」
藪蛇をつついてしまったようだ。
剣に対して興味を示さない俺の態度が、気に食わないご様子のマリア。
「良いんですよ。興味がないなら、はっきりそう仰って下されば……私は何も気にしませんので……」
「――いやぁ~、素晴らしい剣だなぁ~! こんな剣、前から欲しかったんだよ!」
微笑むマリアが怖いので、慌てて剣を受け取ろうとする俺。
勇者の剣に手を触れた時である――
「ウギャァァァぁぁぁぁ――――――!!」
「ワイズ様ッ!?」
「何事ですかッ!!」
「……ぷすっ」
――激しい痛みに襲われ、大きな悲鳴を上げていた。
慌てて剣を手放し、痛みに悶える。な、何なんだ……これは!?
訳が分からない状況に頭が混乱していると、マリアが心配そうに駆け寄って来る。
「大丈夫ですか、ワイズ様ッ!」
「……お、おう……大丈夫だ」
「そうですか……無事で何よりです」
俺の無事を確認すると、ほっと安堵の表情を浮かべるマリア。
だが、一体どういう事なのか……剣を手放したら痛みは収まった。
自分の身に何が起きたのか分からず、考えていると――
「ふふっ……ふふふっ……もう、限界……あぁはははははァ!!」
突然大きな笑い声が場内に響き渡った。
この笑い声の主は直ぐに判明した。
「エレナ!? 何が可笑しいのですかッ!?」
馬鹿みたいに笑っているエレナを、強い口調で問い質すマリア。
また、あいつか……トラブルメーカーめ。
俺は嘆息気味にエレナの回答を待つ。
「……ふふ、本当に可笑しい! その剣の事、何も知らずに触れるからそんな目に合うのよ!」
「やはり、この剣に何かあるのか?」
俺がああなった理由を知っているらしいエレナは、得意げに剣の事を語り始める。
「その剣には聖なる魔力が込められているのよ。魔族であるあんたが触れば、激しい痛みに襲われるのは当然の事。勇者として召喚されておきながら、勇者の剣が使えないなんて、とんだお笑い勇者ね。あの時のあんたの姿を思い出すと、また笑いが込み上げて来たわ」
そう言って、また笑い始めるエレナ。こいつ、本当に良い性格してるな。まあ、俺は大人だからこんな事で怒ったりはしないがな……絶対、怒ったりしない!! 大事な事だから二回言いました。
得意のシャレでエレナに対する怒りを抑える。
そして、冷静な面持ちでエレナと向き合う。
「剣の事は分かった。お前の奇行も許そう。なんせ、俺は寛大な勇者様だからな……」
「何が勇者よ。勇者の剣が使えないへっぽこ魔族が、調子に乗るんじゃ――」
「……調子に乗っているのは……何処の誰でしょうね?」
お調子に乗っていたエレナの言葉を遮り、悪姫が降臨なされる。
「……ひ、姫様……これは、違うのです……私は、正義の為に…………」
「そうですか……正義の為なら仕方ありませんね」
怯えるエレナに、冷たい声色で応えるマリア。まるで、命乞いをしているようだ。
「そ、そうです。正義の為なら仕方ないのです!」
「では、その正義を遺憾なく発揮して頂く場を設けましょう」
「姫様……それはどういう意味でしょうか?」
エレナの問いには応えないマリア。そのままこちらに向き直り、俺に言葉を投げ掛ける。
「……ワイズ様。我が家臣の度重なる無礼、心よりお詫び申し上げます。この勇者の剣に関しては、その性能まで把握しておらず、これは私の不徳の致すところ。申し開きのしようもございません」
家臣の悪事を己が至らないが為に起こった事と言い、俺に向かって深々と陳謝するマリア。やはり、この国を統べる者達は器がでかい。俺も見習わなければならないな……一人の王として。
マリアの堂々とした姿に関心していると、エレナが納得いかないと言わんばかりに声を荒げる。
「姫様が謝る必要はありません! 全ては、こいつが悪いのですから!!」
「あなたは黙っていなさい!」
「……わかりました」
マリアの逆鱗に触れたエレナは、さっきまでの勢いは何処へやら。しぼんだ風船のように大人しくなってしまった。
そんなマリアの気迫に圧されつつも、話しを続ける彼女の声に耳を傾ける。
「……失礼致しました。それで、この勇者の剣なのですがエレナの説明を聞く限り、ワイズ様には扱えない代物ということが分かりました」
「ああ、どうやらそうらしいな」
まあ、使えたとしてもそんな名前の剣は願い下げだがな。
「そこで――第二のサプライズと参りましょう!!」
「……はあ? 第二って何だよ。二個もあるなんて聞いていないぞ!」
「言ってませんから……」
さも、当然のような発言をするマリア。いや、これにはお兄さんびっくりだぁー。
本当に勘弁して欲しい。勇者の剣だけでも面倒だったのに、さらにもう一つサプライズとか過労死するわ!
動揺している俺の姿を尻目に、話しを続けるマリア。
「私も色々考えました。相性は最悪……ですが、彼女以外に適任は居ません。どうするか悩んで居た時、ワイズ様が勇者の剣を扱えないという事が発覚し、これは運命だと確信しました。丁度――正義正義と調子に乗っている彼女が居たことですし」
エレナの事を指しているのだろうが、当の本人はまったく気付いておらず上の空。マリアに怒られたのがショックだったのか、放心状態のまま微動だにしない。
その様子を見ていたマリアは、軽く溜息をこぼす。
「とにかく、私は決めたのです。エレナをワイズ様の護衛にすると!」
「いや、ふざけるな! こんなじゃじゃ馬娘、手に負えるか! チェンジだ、チェンジ。もっとマシな奴を連れてこい!!」
マリアから聞かされた衝撃の一言に、俺は猛反対する。ありえない……こんなアホを連れて魔王討伐に出かけるなんて、命がいくつあっても足りんわ!!
「まあそう仰るらずに。エレナは行ってくれますよね?」
「……へぇ、何か言いましたか?」
エレナに至っては、話しすら聞いていなかった。だから嫌なんだよ、こいつは……。
「あなたが、ワイズ様の護衛を務めるという話です」
「…………はいッ!? 私がこいつの護衛……ありえませんッ!! 何でこんなバカ魔族を私が護衛しないといけないんですか。死んでも嫌ですッ!!」
マリアから護衛の話しを聞いたエレナは、俺とまったく同じ反応を示した。
その内容にカチンときた俺は、ついエレナに言い返してしまう。
「こっちこそ願い下げだ。俺より弱い騎士様が、護衛なんて務まるか!」
「はぁ、弱い? 私が? その弱い騎士様に気絶させられたのは、どこのどいつだったかしら?」
「あ、あれは……ちょっと油断しただけだ! そういうお前だって、俺に攻撃を避けられまくって泣きべそかいてたじゃねぇーか!!」
「なんですって!!」
「なんだよ!!」
一触即発の雰囲気に、マリアが割って入って来る。
「止めてください!! 今は言い争っている時ではありません!」
「でも、こいつが……」
「でももへちまもありません! ワイズ様も反省してください!」
言い訳しようとしたエレナは怒られ、ついでに俺も怒られた。確かに大人気なかったと反省する。
だが、どうしても納得がいかなかったのでマリアを問い質す。
「すまん……だが、これだけは聞かせてくれ。どうして、こいつじゃないとダメなんだ? 護衛なら他にも居るだろう」
俺の言葉に、首を横に振るエレナ。
「いいえ。護衛に適任なのはエレナだけです。彼女は遠征などで土地勘もありますし、剣の腕も優秀です。魔族感知の能力は勿論、何よりこの『勇者の剣』の知識があります。これが決定打でした」
持っていた勇者の剣をこちらに向けるマリア。
「そうか。理由は分かった。だが、なぜ勇者の剣の知識が必要なんだ?」
勇者の剣を使うことは出来ない。なら、その知識など必要ない筈。
深まる俺の疑問にマリアが答える。
「それは……勇者の剣をエレナが使うからです!」
「ええ!? 本当ですか、姫様!」
怒られてばかりでしょんぼりしていたエレナは、突然の抜擢に驚きを隠せずに居た。
その様子を満足そうに見つめると、エレナの言葉を肯定するマリア。
「本当です。あなたには、ワイズ様に代わって勇者の剣を振るう、第二の勇者として魔王討伐の旅に出て頂きます!」
そう言って、持っている勇者の剣をエレナに手渡すマリア。
その剣を大事そうに両手で受け取るエレナ。
「私が……勇者ッ!!」
まるで玩具を与えられた子供のように、目を輝かせて喜ぶエレナ。だが、忘れているのではないか?
その旅には、俺という魔族が付いて来るということを。
勝手に話しを進める二人を止める為に、会話に割って入る。
「ちょっと待ってくれ。俺は認めないぞ、そんなこと」
「黙れ、魔族! あんたは今日から私の家来よ。魔王討伐の旅に連れて行ってやるだけありがたく思いなさい!」
勇者の剣を天に掲げ、訳の分からないことをうだうだ述べるエレナ。テンションの高低差が激しい奴だ。
静かな時はまったく気にならないが、調子に乗り出すと嫌でも目に入る。ギャンギャン吠える動物のようだ。
好き放題言い始めるエレナに怒る気力も失せた俺は、マリアに助けを求める。
「おい。本当にあんな奴と魔王を討伐しに行かないといけないのか?」
「そうですね。おつむはちょっとあれですが、義理人情に厚い信頼のおける方ですよ。それに、彼女は私の親友ですから!」
「……あ、そう」
……ダメだ。マリアが全然こちらの意図を汲んでくれない。どうやら、彼女の中では終わった話しのようだ。
他にこの無謀を止めてくれそうな奴は……そうだ、国王が居た!
俺は国王に直談判しようとする。だが、国王は目を合わせてくれない。巻き込まれたくないのか、傍観者を決め込んでいる。
あのじじい……何も話さないと思ったら、高見の見物かよ。
もうこのカオスを止められる奴はいない。
そう悟った俺は、渋々エレナの同行を許可する羽目となった。




