第三章 勇者潜入する9-2
「ちっ、この数は厄介だな……」
「ふんっ、上等じゃない。勇者の剣の錆にしてくれるわ!」
勇者の言って良い言葉とは思えない、物騒な事を口走るエレナ。
「エレナさんが錆なら、私は糧と行きますねぇ~」
「……糧ってどういう事よ?」
それは俺も思った。
「糧は糧ですよぉ~。こうやって――」
と、エレナが右手をたくさんいるゴブリンの一体に向ける。すると、
「……うげぇ~」
右手を向けられたゴブリンは、急に力なく倒れ伏した。
「相手の魔力を吸収するって事ですぅ!」
微笑みながらヤバい事を口にするアリサ。どいつもこいつもおっかねぇーな。
だが、そのおかげで俺達がヤバい奴等だと理解したゴブリン達は、恐怖で動けなくなっているみたいだ。まったく仕掛けてくる気配がない。
そんな恐怖を植え付けたアリサの魔法だが、仕組みはだいたい理解出来た。右手を向けられたゴブリンの体から、魔力がどんどん抜けていき、アリサに吸収されて行く様を『千里眼』がきっちり捉えていた。
仕組みは分かる……また見た事もない魔法だったがな。
「ちなみにだが、その魔法の名前は何だ?」
「『ドレイン・ダイン』ですぅ。これも私が生み出したオリジナル魔法なんですよ~」
嬉々として魔法の説明をするアリサ。
『ドレイン・ダイン』か……瀕死になるまで魔力を吸収するって意味だよな……マジでやべぇー奴じゃねぇーか! ポンコツだった筈のアリサが、まさかここまで化けるとは……魔法の才能だけなら、平凡な俺なんて足元にも及ばない事がはっきり分かった。
そう思っていた矢先である。あの事件が起こったのは……。
「……ぐぇ~」「……ぎゃぁ~」「……げぇ~」
ゴブリン達が次々と悲鳴を上げながら倒れて行く。
「おいおい、何してるんだよアリサッ!?」
「……ふぇぇぇ~、魔法が止まりませぇぇぇん!!」
半べそをかきながら、魔法が暴走している事を伝えてくるアリサ。確かにアリサの『ドレイン・ダイン』は暴走していた。
ゴブリン達から次々と魔力を吸収しているのが『千里眼』で確認出来た。やれやれ、魔力のコントロールはどうしたんだ……?
「……ちょっと、これ……どうなって……るのよ……」
急に苦しみ出すエレナ。その体から、みるみる魔力が抜けていくのが見えた。
「おいおい、無差別攻撃かよ……」
「ふぇぇぇぇぇぇ!! どうしましょうッ!!!!」
エレナの苦しむ様子を見たアリサは、ますます感情を乱していく。それに比例するように吸収する魔力量が増えていってる気がする。
現に俺も吸われているので、結構辛かったりする……。
どうすればこの状況を打開出来るのか、その方法を必死に考えていると、ある事実を思い出した。
アリサが魔力を正確にコントロールするには、感情を上手くコントロールする必要がある。だが、今のアリサに何を言っても無駄だろう。なら、やる事は一つだ……。
「アリサ……すまんッ!!!!」
俺は謝罪の言葉を叫びながら、アリサの巨大な胸を揉みしだいた。
「……ふぇ!?」
情熱的に荒々しく、時には優しく、緩急を大切にしながら感触を堪能した。もうこの世に未練はない……。
そして、天罰が訪れる――
「――キャァァァァァァァァァ!!!! ワイズさんの……エッチィィィィ!!!!!!!!」
「ブベラぁッ!!!!」
アリサは泣き叫びながら、俺の顔面に強烈なビンタをお見舞いした。よし……それでいい。大いに感情を取り乱せ……。
アリサのビンタで吹っ飛びながら、俺は願った。奴が目覚める事を……。
「まったく、サキュバス使いが荒いわね、ワイズは……」
地面に倒れ伏した俺は、その状態で声のした方に顔を向ける。すると、そこには俺の待望していた奴の姿があった。これで助かるのであれば、いくらでもぶっ飛ばされてやる。
「へへっ……どうにか、間に合ったか……」
魔族化したアリサが、暴走する『ドレイン・ダイン』を収束させていくのが見て取れた。
どうやら、俺の作戦は成功したようだ。アリサの感情を最大限揺さぶり、魔族化させる。
俺が失ったモノ(アリサの信用)は大きいかもしれないが、命には代えられない……。




